ガソリンや電気・ガス料金の高騰が国民生活を圧迫している。コロナ渦からの世界的な経済回復によるエネルギー需要の増加や、ロシアによるウクライナ軍事侵攻が起きたのが主な原因だ。生活に不可欠なエネルギーの高騰はつらいもので、不平不満が溜まるだろう。だが6月7日に閣議決定された「エネルギー白書2022」の分析によると、実は日本の状況は世界的に見れば「そんなに悪くない」というのだ。

エネルギー安定供給への危機感

エネルギー白書は3部構成になっている。第1部には、ウクライナ情勢や脱炭素等、エネルギー問題に関する最新の分析結果が、第2部は国内外のエネルギー動向をまとめたもの、第3部は日本の施策について掲載されている。

エネルギー大国ロシアによるウクライナ侵攻で、世界のエネルギー価格が高騰している
エネルギー大国ロシアによるウクライナ侵攻で、世界のエネルギー価格が高騰している
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序文では、ウクライナ侵攻について「世界のエネルギーを巡る情勢をさらなる混迷に向かわせている」と指摘。天然ガス、原油、石炭など化石燃料の価格上昇や供給不足への懸念について危機感を示し、エネルギーの安定的供給・エネルギー安全保障の重要性を強調している。

石油もガスも減っていく…

ここでは第1部に示された分析のうち、興味深いものをいくつか紹介する。

白書は世界的なエネルギー価格高騰の背景について、「コロナ渦からの経済回復によるエネルギー消費の増加」「悪天候による再生可能エネルギーの出力低下」「世界的な電力需給ひっ迫」「欧州の天然ガス備蓄の減少」そして「ウクライナ危機」を指摘しているが、実は最初に指摘しているのが「上流投資不足」だ。聞き慣れない言葉だが、エネルギーの上流投資とは、油田やガス田を新たに開発する事業へ投資することだ。

油田やガス田への新事業投資は減少の一途をたどっている
油田やガス田への新事業投資は減少の一途をたどっている

白書によると、2015年頃から投資額は減少の一途をたどっていて、2014年には8000億ドル近くあった投資額は、2021年にはほぼ半減し4000億ドルほどになる見通しだという。原因は脱炭素化の流れの強まりだ。2014年に、歴史上初めて全ての国が地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減に取り組むことを約束したパリ協定が合意され、流れを加速させたのだ。これを境に、上流投資はみるみる減少。

エネルギー関連会社の関係者からは「どんなに良い条件の計画でも銀行も投資家も金を出さない」と嘆く声が聞こえてくる。経産省の担当者は、投資減少から8年となる今年ごろから、上流投資減少の悪影響が出てくるとみる。新規開発油田ガス田と、枯渇する油田ガス田の比率が徐々に悪化するため、供給に問題が生じるのが確実なのだ。

高騰する欧州のエネルギー…日本は安い?

ロシアによるウクライナ侵攻の影響については、約2ページを割いて分析している。結論から言えば、ウクライナ情勢がエネルギーに与える影響は国によってかなり異なり、欧州諸国に比べて日本の影響は小さいということだ。

ドイツは天然ガスではロシア産に約50%依存している
ドイツは天然ガスではロシア産に約50%依存している

まず欧州はロシア産のエネルギーに大きく依存している。天然ガスでみると、ドイツは約50%、イタリアは40%、フランスも20%程依存している。対して日本は約9%に留まる。原油もドイツは4割近く依存していて、オランダは全量をロシアから輸入している。日本の依存度は4%に過ぎない。そして価格も欧州と日本では大きな差が出ている。

白書によるとロシアの国営天然ガス企業ガスプロムが各国と長期契約する際には、「スポット価格連動型」が約87%を占めるという。スポット価格とは、「もうすぐ足りなくなりそう」という短期的な需要に対してガスを販売する際の価格で、その時々で大きく変動する。2021年末以降、この天然ガススポット価格は平時の3~4倍と凄まじい高騰を見せている。ロシアへの依存度が大きい欧州各国は、現在の天然ガススポット価格高騰を受けて、常識外れな高値でロシアからガスを買わざるを得ない状況になっているのだ。

日本が輸入するLNGの大半は油価連動価格で購入している
日本が輸入するLNGの大半は油価連動価格で購入している

一方、ロシアへの依存度が低い日本は、主にオーストラリアやマレーシアなどから、LNG・液化天然ガスを輸入している。その契約価格の大半は「油価連動価格」と呼ばれ、ガス受け渡しの3ヶ月前の原油価格に連動している。原油価格も高くなっているが、平時の1.2倍ほどと天然ガスほど高騰していない。この契約形態の違いにより、欧州に比べて日本は安値で天然ガスを購入出来ている。実際天然ガスの輸入額は、2019年1月と比べてイギリスは3.56倍になっていて、ドイツとオランダも2倍を超えている。日本は1.26倍だ。

輸入額は当然小売り価格に反映される。白書によると電気料金は2019年1月を基準としてイタリアが1.77倍に高騰している一方で日本は1.1倍。アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・EUと比べても上昇幅が小さい。

油価連動価格は過去批判されていた

エネルギー価格の高騰は日本だけではどうしようもない面が多い。エネルギー消費が多い先進国である以上、避けることが難しい問題でもあるが、今回のエネルギー危機の影響は、白書に掲載されたデータで見る限り、欧州に比べて日本は非常に小さいようだ。

ただ、今回天然ガスを割安で購入できる大きな要因となった「油価連動価格」は、2011年から2015年頃には「スポット連動価格」よりも高値が続き、日本のエネルギー価格が高い原因だと批判された事もあった。短期的な結果だけで評価することなく、長期的な視点で政策や契約を評価する視点が重要である事を示唆しているだろう。

経済部
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「経済部」は、「日本や世界の経済」を、多角的にウォッチする部。「生活者の目線」を忘れずに、政府の経済政策や企業の活動、株価や為替の動きなどを継続的に定点観測し、時に深堀りすることで、日本社会の「今」を「経済の視点」から浮き彫りにしていく役割を担っている。
世界的な課題となっている温室効果ガス削減をはじめ、AIや自動運転などをめぐる最先端テクノロジーの取材も続け、技術革新のうねりをカバー。
生産・販売・消費の現場で、タイムリーな話題を掘り下げて取材し、映像化に知恵を絞り、わかりやすく伝えていくのが経済部の目標。

財務省や総務省、経産省などの省庁や日銀・東京証券取引所のほか、金融機関、自動車をはじめとした製造業、流通・情報通信・外食など幅広い経済分野を取材している。

渡邊康弘
渡邊康弘

FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。