沖縄の本土復帰から50年。人々が願った基地のない島の実現は、なぜいまだ果たせていないのか。
「沖縄返還は国の形を変えた」…かつて日米の返還密約を暴いた、元新聞記者の西山太吉さんの視座から復帰50年を見つめなおす。

「どのような意義があるのか、改めてよく考えるべき」

沖縄の復帰50年を伝える紙面に目を通す、毎日新聞社の元記者・西山太吉さん。90歳。

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毎日新聞社の元記者・西山太吉さん:
50年前から実態は変わってない

2022年5月15日、県と政府の共催で記念式典が予定されていた。

毎日新聞社の元記者・西山太吉さん:
日本に帰ってきた事は、確かに喜ぶべきことですよ。だけれども、どういう形で返ってきたか。そして日本が、それによってどういう影響を受けたのか。平和と戦争との関係において、どのような意義があるのかっていうことをよく認識しなきゃいけない。この日に、よく考えなくちゃいけないってことですよ

戦後、本土と切り離されアメリカ施政権下に置かれた沖縄。
ベトナム戦争の重要な前線基地となった沖縄を、1965年に初めて訪れたのが、のちに沖縄返還を成し遂げる佐藤栄作総理大臣だった。

戦後最も難しいテーマに着手した背景には「政争」があった。

毎日新聞社の元記者・西山太吉さん:
池田(勇人首相)が消極的であるということを逆手にとって、彼は池田3選阻止のため立候補した際に、沖縄返還をぶち上げたんですよ。それが始まり
彼は、任期中にどうしても沖縄返還を実現しなきゃいけないくなったわけだ。彼の政治生命をかけて打ち出したわけですからね。そういう政治状況の中で、アメリカは「しめた」と逆にそろばん弾いたわけです

沖縄返還を利用してアメリカが企てたのが、「基地の自由使用」だ。
日米安保条約では、アメリカ軍が紛争地に直接出撃する際は、日本との「事前協議」が必要。ベトナムや極東をにらみ、沖縄で何ら制限なく基地を運用していたアメリカにとって不必要な足枷であり、自由使用の保障を返還合意の条件としたのだ。
一方、これを認めれば、政府にとって命取りになることを意味していた。

毎日新聞社の元記者・西山太吉さん:
事前協議を事実上無くするアメリカ軍の出撃を保証するということは、条約上書けない。改正するということになる。第2の安保闘争になりますよ

日本の安全保障にとって「沖縄返還は歴史的転換点」

1969年11月、沖縄返還を合意した佐藤・ニクソン共同声明。
アメリカの真の狙いである基地の自由使用は盛り込まれなかったが、この後の会見で、非常時には事前協議に前向きに応じる考えを佐藤が表明したことで、事実上 安保条約は骨抜きに。

施政権が返還されても、沖縄の基地は占領状態と変わらないことが明らかになった。
屋良朝苗主席は、この日から返還までの道のりを幾多の困難が待ち受ける「いばらの道」と呼んだ。そして、日本の安全保障体制にとっても沖縄返還は歴史的な転換点となった。

毎日新聞社の元記者・西山太吉さん:
沖縄返還は、平和の島から戦争への準備の島に転化したわけだ。それは沖縄にとっても日本にとっても、大きな国の形、姿というものが変わったということです。そういうことです。沖縄返還にはそういう意義があるということです

沖縄返還密約をスクープ「言論の自由を守るために闘った」

沖縄返還が迫った1971年、毎日新聞社の外務省キャップだった西山太吉さん。アメリカが支払うべき軍用地の原状回復費400万ドルを、日本が肩代わりする密約をスクープした。

翌年、密約問題は国会でも追及されたが、政府はその存在を否定し続け、外務省職員から機密電文を入手した西山さんを国家公務員法違反の容疑で逮捕した。

毎日新聞社の元記者・西山太吉さん:
私は言論の自由を守るために闘ったと思います

メディアは記者の逮捕を一斉に批判したが、裁判の過程で密約問題は男女の問題にすり替えられた。政府への追及が一気に弱まり、職員が有罪となったことで西山さんは自らペンを折ったのだ。

のちに密約を裏付けるアメリカの公文書や、返還交渉に関わった政府高官が密約があったことを証言。西山さんが暴いた400万ドルも氷山の一角だったことが明るみに出たのだった。
しかし、政府はいまだ沖縄返還密約を認めていない。

毎日新聞社の元記者・西山太吉さん:
基地の自由使用も事前協議だっていうじゃない。本土並みだっていう。返還をきれいごとで美しくしたいわけだ。しかし実態はそうじゃない。基地は自由使用だ。占領状態の事実上の継続や。もう一つは莫大な金が吸い取られてるわけ。矛盾や

復帰50年の節目に…沖縄返還を見つめなおす

平和主義を掲げる主権国家として大きな矛盾を抱え、新たな基地負担の歴史の原点となった沖縄返還。復帰50周年の記念式典で、岸田総理大臣は次のように述べた。

岸田総理大臣:
戦争によって失われた領土を、外交交渉で回復したことは史上まれなことであり、日米両国の友好と信頼により可能となったものでした

毎日新聞社の元記者・西山太吉さん:        
全部密約であり、国民に対して虚偽の説明をしておったわけですからね。よく考えて沖縄返還を見つめなおさなければ、何の意味もないですよ。喜んでいるだけじゃ。いまの日本政府に、内閣に基本認識が全然ないよね、全くない。式典だって、あんなものはナンセンスですよ。本当に意味はないです

(沖縄テレビ)

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