酒を飲まない日米首脳

バイデン米大統領の日韓の旅が終わった。岸田首相は酒を飲まないバイデンに合わせて好きな酒を我慢し、2人はレモンソーダで乾杯した。安倍、トランプ両氏も酒は飲まずダイエットコークで延々語り合っていたので、最近の日米首脳のディナーはとてもヘルシーだ。

さて首脳会談は日米の結束を強調し、中身は盛りだくさんだった。まず安保では中国をにらんで日米同盟の強化で一致し、岸田首相は防衛費の「相当な増額」を約束、また経済では新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を発足させた。

日米首脳共同会見(23日)
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何よりバイデンが、中国が台湾に軍事侵攻した場合に軍事介入する考えを明らかにしたのには驚いた。この発言に対し当初専門家やメディアの間では、米国がこれまで取ってきた台湾有事の際の対応を明確にしない「戦略的曖昧さ」を転換したのではないかとの見方が広がった。

しかし翌日バイデンは記者から「曖昧戦略をやめたのか」と問われ「ノー」と否定した。これはわかりにくいがおそらくこういう事だろう。台湾は米国の同盟国ではないので中国に攻撃されても米国には軍事介入する義務はない。ただ米国の「台湾関係法」は台湾を防衛するための軍事行動の選択肢を大統領に与えている。つまり曖昧である以上は発言にも「幅」が許される。

バイデンは「口先男」なのか

実はバイデンが台湾への軍事介入発言をしたのは3回目だ。またかという感じもする。さらに今回は質問した記者が「台湾に軍事介入するか」の前に「あなたはウクライナで軍事介入しなかったが」と挑発したので、売り言葉に買い言葉で「介入する」と言っちゃったという面もあるのだろう。

第3次世界大戦を避けるためウクライナに軍事介入しない米国が、ある意味でロシアよりはるかに厄介な相手である中国に対し、台湾に軍事介入することを米国の世論や議会は許すのだろうか。それにバイデンの政治基盤はそれほど強くない。中間選挙で負けたらさらに弱くなる。

首脳会談でもう1つ気になったのは突然出てきたIPEFという経済圏構想である。メディアは「中国に対抗する新経済秩序」と前向きに報道しているが、フツーの人は「米国が自分で作ろうと言い出したTPPから勝手に抜けといて別の作りますって何なんだそれ」と思ったのではないか。僕はそう思った。

アメリカ主導のIPEF発足 13カ国が参加(23日)
 
「21世紀の経済の未来は、私たちとインド太平洋地域が大きなカギを握る」と語ったバイデン大統領(23日)

苦労して作ったTPPから米国が抜けたら案の定中国が入りたいと言い出し、日本は正直困っている。しかもIPEFには米国内の都合で非関税化が入っておらず、自国の商品を米国に売りたい東南アジア諸国にとってメリットがない。米国のわがままもいい加減にしてほしいなあと思うのだ。

台湾への軍事介入といい、新しい経済圏構想といい、バイデンは口先だけなのだろうか。

米国でなく日本がどうするか

中国の台頭が象徴するように民主主義は権威主義に押され気味だ。だから米国は理想と正義に燃える世界の警察官ではなくなってしまった。軍事介入にしても市場開放にしても、国内の反対があればやりたくてもできない。バイデンを「口先男」とバカにするのはかわいそうかもしれない。

日本がすべきことは一つ。「僕たちは何もしなくても米国は守ってくれる」という甘い考えは捨てることだ。岸田氏が首脳会談で約束したように防衛費を増やし、ミサイルの反撃能力のあらゆる選択肢を検討しなければならない。

3日間の東京滞在を終え、大統領専用機「エアフォースワン」でアメリカに向け帰国の途に(24日)

そして台湾有事を想定して国家安全保障戦略など戦略3文書を年内に改定し、さらに日米防衛ガイドラインも改定する必要がある。米国がどうするかではなく、日本が「自分の身は自分で守る」という強い意志を見せることの方が先なのだ。

【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫


フジテレビ報道局上席解説委員。2020年4月から立命館大学客員教授。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。

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