世界で最も低い水準?「致死率0.002%」の虚実

2年3カ月にわたって新型コロナウイルスの感染ゼロと主張してきた北朝鮮。5月12日に初めて感染を発表し、その後は国家非常防疫司令部が、連日「発熱者」、「死者」、「回復者」などの数字を公表している。

最新の発表(24日)によると、23日午後6時(日本時間同)までに、一日の新規発熱者は13万4510人あまりで、死者はゼロ。4月末からの累計は、発熱者が294万8900人あまりで、300万台に迫った。そのうち254万8590人(86.425%)が回復し、40万230人(13.573%)が治療中としている。死者は68人で致死率は22日以降、0.003%から0.002%に下がっている。

北朝鮮メディアは24日、新規の発熱者が3日連続で20万人を下回ったと報道した
この記事の画像(7枚)

世界の新型コロナの致死率は平均1.2%程度で、アメリカ1.2%、イギリス0.8%、ドイツ0.5%、日本0.4%などとなっている。これに比べ、北朝鮮の致死率は0.002%と世界の中でもダントツに低い。(CoronaBoardの集計)

ワクチン接種率が事実上ゼロで、治療薬もない北朝鮮で、致死率がこれほど低いとは考えにくく、北朝鮮の発表は実態を反映していないと見られている。検査体制が整っていない北朝鮮では、新型コロナ感染確認はわずかで、残りは原因不明の発熱者として分類される。しかし、感染力の強いオミクロン変異株の場合、発熱症状が出る感染者の割合は30%に過ぎないという。実際の感染者数は北朝鮮当局の発表の3倍以上に上る可能性があることになる。

韓国の専門家は実際の致死率は少なくとも1%で、2%になる可能性もあると指摘している。致死率を1%と仮定すれば、人口約2600万人の北朝鮮の新型コロナウイルスの死者は13万人、2%とすれば30万人に達する懸念がある。洪水による飢饉の発生で、30~100万人の餓死者が発生したとされる1990年代後半の「苦難の行軍」に匹敵する被害が発生する恐れもゼロではないのだ。

住民の不安解消に躍起、コロナ対策宣伝強化

北朝鮮当局が懸念するのは、住民の間に不安が広がりパニックが起きることだ。金総書記は「悪性ウイルスよりもさらに危険な敵は、非科学的な恐怖と信念と意志の弱さである」と述べて、社会の動揺を防ぎ、防疫措置を徹底するため政治宣伝を強化するよう指示した。朝鮮中央テレビは、コロナの治療法、自宅隔離の注意、薬の飲み方、病気にならない生活方法などの番組を連日、多数放映する異例の対応を続けている。

番組はいずれも、オミクロン変異株について、感染拡大は早いが、症状は風邪に似て「軽い」、薬を飲んで自宅療養すれば「完治する」と強調し、住民の不安解消に躍起となっている。一方で、ワクチンの接種やPCR検査を勧める内容は一切伝えられていない。

中でも目につくのが、「薬の服用法」を教える番組だ。朝鮮中央テレビのキャスターが解熱剤や抗生物質について、摂取量や服用回数を詳しく説明する。北朝鮮では薬局で薬を購入し、自宅療養する患者が多いことが理由と見られる。

北朝鮮で使われている薬は、パラセタモール、ボルタレン、イブプロフェインなどの解熱鎮痛剤、抗生物質としてはペニシリンが一般的なことがわかる。北朝鮮には入っていないためか、コロナ治療薬には触れていない。特に、子供の場合は体重によって服用量が変わるとして、量を調節するよう注意している。今回のコロナのケースでは、薬の過剰摂取が問題となっており、注意が呼び掛けられている。

朝鮮中央テレビのキャスターが薬の服用法を詳しく説明

また、感染者が自宅隔離で治療にあたる場合の注意についても紹介している。同居している家族が患者を世話する際には、マスクと手袋を着用し手洗いを徹底すること、独立した部屋がない場合は家族同士で常に1メートルの距離を空けることなどを呼びかけている。また、病気の治療に役立つ日常生活習慣として、①清潔な環境、②1日に2リットルの水を飲む、③口や鼻をよくすすぐ、④元気よく過ごし、ウイルスについてはあまり話さない、⑤体を動かす、⑥本を読んだり音楽を聴くなど楽しい活動をすることなどを勧めている。

自宅隔離の場合、家族の間でも1メートル距離をあけるよう推奨
病気の治療に良い日常生活として、深呼吸、読書、音楽鑑賞などを勧めている

オミクロン変異株の危険性の低さを強調しているのも特徴だ。デルタ株に比べ「致死率が75%低い」、患者の93%は自宅で隔離して回復できる、人工呼吸器が必要な患者はわずか2.8%であるなどと伝え、不安が広がらないよう配慮している

「普通の風邪と同じで、自宅で療養すれば十分良くなる。怖がる必要はない」
「高熱が数日続いたが、解熱剤や鎮痛剤を飲み、塩水でうがいしたら、回復した」
「薬局で薬を飲み、自宅で休養したら2日以内に症状が治まった」

回復した人のインタビューも多数放映されているが、「数日で治る」「薬を飲めば治る」など深刻な病状にはならないとの証言が大半で、当局の発表を裏付ける内容となっている。

新型変異ウイルスの出現も

北朝鮮の新規発熱者は、15日に39万人を超えピークに達した後、減少傾向を見せ始め、20日には約18万6090人と20万人を割り込んだ。北朝鮮当局は、新型コロナの感染が「安定的に抑制的に管理されている」と感染拡大防止に自信を示している。

公式活動の場でマスクを着用していた金総書記は20日、軍の元老であり自身の教育係でもあったとされる玄哲海元帥の遺体を弔問した際、マスクなしで参列し、感染が鎮静化しつつあることをアピールした。

軍重鎮の玄哲海元帥の遺体をマスクを付けずに弔問

しかし、実際には予断を許さない状況が続いている。最初に感染が拡大した平壌では感染者は減少しているが、他の地域では感染が増えつつある。北朝鮮は金総書記の命で軍が動員され、備蓄用の薬品や食料が各地に配布されていると宣伝しているが、ラジオフリーアジアは現地消息筋の話として、地域によって深刻な医薬品・食料不足が生じていると伝えた。

金総書記から送られた医薬品の到着を喜ぶ北朝鮮の住民

新型変異ウイルスの出現も懸念されている。

WHOは最近、北朝鮮を念頭に「確認されていない伝染があるところで、常に新しい変異が現れる危険性が高い」と警告した。これまでも主要な変異が、ワクチン接種率が低い地域で発生してきたためだ。デルタ株は2020年10月にインドで初めて報告され、オミクロン変異は2021年に南アフリカで発生した。イギリスで発生したアルファ株の場合も、変異が確認されたのは、ワクチン接種が始まる前だった。専門家は「ウイルスが体内に留まる時間が長くなり、流行拡散と重症者の発生が速い速度で進行すれば、変異が発生する確率も上がる」と懸念を表明している。

【執筆:フジテレビ客員解説委員 鴨下ひろみ】

鴨下ひろみ
鴨下ひろみ


フジテレビ客員解説委員。香港、ソウル、北京で長年にわたり取材。北朝鮮取材は10回超。顔は似ていても考え方は全く違う東アジアから、日本を見つめ直す日々です。特集「鴨ちゃんねる」で中国や朝鮮半島の気になるニュースと話題の人を徹底追跡。北オタクのこだわり満載です。

国際
記事 95