滋賀県彦根市にある「彦根城」。江戸時代初期に築城され、天守は国宝にも指定されている。ここでの活動をめぐり、ちょっとした騒動が起きた。
城内の天守前にある広場では1980年ごろから、住民が「ラジオ体操」を楽しむ場所となっていた。早朝の午前6時30分からほぼ毎日、20~30人が参加していたというが、2022年春、彦根市がこれをやめてほしいと呼びかけたのだ。
住民には継続を求める声もあり、有志が陳情書を提出することに。ただ、市側にもやむを得ない理由があったそうで、住民側も要請に従うことを話し合いで了承。2022年5月17日からは、城の駐車場に場所を移して体操を続けることにしたという。
防犯や防災のため…開場時間外でも入場できる状態だった
彦根市によると、彦根城の開場時間は午前8時30分~午後5時で、入場料も発生する。ただ、ラジオ体操が行われる早朝は徴収されていなかったという。今のタイミングでやめるようにお願いしたのは、どうしてだろう。彦根市の担当者に聞いた。
――天守前の広場はどんなところ?ラジオ体操をしているのは把握していた?
彦根城の天守の下にある広場になります。普段は、ゆっくりと景色を眺めたり写真を撮られたりいただける場所です。ラジオ体操は市民の方々が自主的にされていて、許可を出しているわけではありませんが、市側も把握はしていました。

――約40年続いたものをどうして禁止した?
防犯や管理面での不安があり、控えていただきたいとお願いしました。実は彦根城の入場ゲートはこれまで、開場時間外も施錠はしておらず自由に入れる状況でした。ただ、近年は全国で文化財が被害に遭うことがあったり、沖縄の首里城が全焼することもありました。
もちろん、ラジオ体操の参加者がトラブルや問題をおこしたことはないのですが、開場時間外は警備も薄くなりますし、特例を認めると他団体が利用を求めたときに収拾がつかなくなります。彦根城は市民だけでなく国民の宝でもあるので、何かあると責任がとれない状況でした。市議会でも管理面のご意見をいただいていて、検討の結果、今回のタイミングとなりました。
――市民側との折り合いはどうついたの?
私どもも彦根城の開場時間内であれば、体操をしていただくことは問題ございません。ただ、早朝に行うのであれば場所を変えていただきたいとお願いし、了承をいただきました。彦根城の周囲にはお城の見える公園などもあるため、そうした場所での活動をお願いしております。

――今回の件に関して伝えたいことは?
ラジオ体操の活動は否定しておらず、健康増進の意味でもよいことだとは思っております。こちらの事情もご理解をいただいたうえで、活動をいただければと願います。
有志代表「(市の要請は)理解はできている」今後は駐車場で継続へ
彦根市によると、5月16日の閉場時間で初めて施錠し、17日以降も開場時間外は施錠をして入れないようにしているという。
では、住民側はどのように受け止めているのだろう。彦根城でのラジオ体操を約30年続けてきたという、有志代表の男性(80)にも聞いてみた。
――なぜ、彦根城でラジオ体操をするようになった?
(ラジオ体操の)先輩から聞いた話も含みますが、やはり気持ちがいいこと。朝日に照らされて琵琶湖や山々がきれいに見える。ストレス解消にもなりますし、健康にもいいです。
――ここでしかできない体験のようなものはある?
彦根市のシンボルと言えるお城がありますし、朝の空気は澄んでいて景色もきれいです。人間関係が楽しくなるところもあって、最近も転勤で彦根に来た人がラジオ体操に参加して仲良くなったと喜んでいました。こうしたこともいいことだと思います。

――市側への陳情書の提出、その後の了承の経緯を教えて。
市側から(早朝のラジオ体操を)やめてほしいという話があり、私たちも一定のルールに基づいて行っていたので陳情書を提出しました。残念ではありますが、私たちも彦根城にいつでも入れるのはどうかと思ったので、市長さんとも話し合って従うことにしました。理解はできています。
――市側に伝えたいことはある?
ラジオ体操は続けていきますが、こんなに注目されるとは思いませんでした。ラジオ体操が広まる絶好のチャンスなので、市側には今回のことを機会に、彦根市を日本一健康な地域にしてほしいですね。
市側の判断は国宝を守るためであり、市民側も納得した上で従うとのことだった。お城の駐車場でも、彦根城のすぐそばであるので、住民たちのラジオ体操はこれからも続いていくだろう。