沖縄の本土復帰50周年に際し、衆議院では沖縄の経済振興などの推進を政府に求める決議が可決された。いまだ課題が残る沖縄経済を強くするために何が必要なのか。BSフジLIVE「プライムニュース」では、沖縄振興の旗振り役を長年務めてきた菅前首相と、観光産業に実績のあるマーケティング専門家・森岡毅氏を迎え議論した。

菅前首相の見るウクライナ、現状のコロナ対策と経済の両立

菅義偉 前内閣総理大臣
菅義偉 前内閣総理大臣
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反町理キャスター:
本題と別の話だが、ウクライナの状況を見て、日本の今の安全保障について菅さんが感じることは。

菅義偉 前内閣総理大臣:
安倍政権で平和安全法制をはじめ3つの極めて重要な法律を作った。日米同盟を機能させる体制を整えておいて本当によかった。また私が2021年に訪米した際、台湾海峡の平和と安定の重要性について52年ぶりに首脳声明に入れ、G7の声明にも入れた。台湾海峡にも世界が注視している。

反町理キャスター:
日本の核の問題、非核3原則については。「持ち込ませず」と言いながらアメリカの核で安全保障をというのはおかしいのでは、という議論がある。

菅義偉 前内閣総理大臣:
議論はすべき。その先は議論の展開次第。

反町理キャスター(左)、菅義偉 前内閣総理大臣
反町理キャスター(左)、菅義偉 前内閣総理大臣

反町理キャスター:
もう1点、新型コロナの話。徐々に感染者数も、特に重症者数が非常に減っている。一方、日本の1〜3月のGDPは年率換算でマイナス1%と厳しい状況。「コロナと経済の両輪」のあり方について。

菅義偉 前内閣総理大臣:
オミクロン株はその弱毒性が大体見えてきた。やはり経済と両立すべき。円安にはメリットもあり、これを活用した経済対策を行うことが必要。インバウンドや輸出など、中小企業も含め海外に目を向け、政府が主導する。特に旅行収支が減少し2兆5000億円の所得が失われる中、インバウンドは積極的に広げるべき。

沖縄の観光は非常に恵まれた環境 ポテンシャルはハワイを上回る

長野美郷キャスター:
沖縄の本土復帰50周年を前に、沖縄の経済振興などの推進を政府に求める決議が4月に衆議院で可決された。この50年の振興策では、30年間は本土との格差是正、2002年からは民間主導の自立型経済の構築が主な目的。今年度までの累計約13.7兆円の振興策の成果は?

菅義偉 前内閣総理大臣:
第2次安倍政権以降、コロナ禍前までに有効求人倍率が1を超えた。

反町理キャスター:
だが、沖縄の県民所得の年平均は国民の平均より80万円ほど低い。

菅義偉 前内閣総理大臣:
有効求人倍率が上がった要因は観光で、特にインバウンド旅行者数が日本全体で約4倍になったところ、沖縄は7〜8倍に増えていた。地価の高騰率も全国一。これからというところまで間違いなく来ている。

反町理キャスター:
政府が新たに決定した沖縄振興基本方針には、「アジア・太平洋地域との近接性等の優位性・潜在力を生かし、我が国全体の経済成長を牽引する役割も期待」とある。

森岡毅 株式会社刀 代表取締役CEO:
沖縄は、非常に恵まれた条件を持つ唯一無二の場所。爆発的に経済力人口が増加しているアジアのど真ん中にある。4時間以内の移動距離に20億人がいて、富裕層の数もどんどん増えている。南国リゾートのバケーション需要を取り込める。

反町理キャスター:
国内の観光客と海外からの観光客、森岡さんの視野にあるのはどちら?

森岡毅 株式会社刀 代表取締役CEO:
両方だが、ゆくゆくはインバウンドが主力になる。残念ながら日本は少子高齢化で、頭数という意味では構造的に難しい。日本の食い扶持として、成長するアジアの活力を内需に取り込む構造が要る。それが観光で、最も可能性があるのが沖縄。

反町理キャスター:
沖縄にはハワイと伍して戦えるような魅力、ポテンシャルがあると?

森岡毅 株式会社刀 代表取締役CEO:
ポテンシャルはハワイをはるかに超えると思っている。私はハワイにも大変敬意を持っているが、かつて軍港だったハワイは50年かけて今のハワイになった。仕事に疲れて息抜きしたい人が楽園だと思えることを戦略的に考えて、全部コンテンツ化している。日本人も総力をあげて沖縄のポテンシャルを磨かなければ。離島含めた綺麗な海資源、やんばる(沖縄本島北部)の広大な自然、伸びしろは多い。

菅義偉 前内閣総理大臣:
今回の決議は超党派と言ってよいほどの政党が一緒に決議している。国家戦略としての振興策には拍車がかかり進めやすくなる。今の時点で行うかは別に、沖縄では特区のような経済振興策などの仕組みを作り、最高の条件がある観光に特化していくことがあっていいと思う。

沖縄の観光立県は将来の日本のビジネスモデルを先導する

長野美郷キャスター:
森岡さんの会社では、沖縄にテーマパークをつくる計画を進行。ホームページには「沖縄が持つ大自然の魅力を存分に発揮する持続可能性の高いテーマパーク事業を成功させ、沖縄経済の起爆剤とし、ひいては未来へつながる日本の観光大国化に貢献」と。

反町理キャスター:
持続可能性というと、水質汚染や森林破壊につながることなく人々が楽しめるものをつくろうとしている?

森岡毅 株式会社刀 代表取締役CEO:
それも大事にしている点だが、計画している沖縄本島北部は沖縄の中でもまだ所得が低い地域。ここに持続可能な事業を作り、雇用を生み出して地域社会の安定性、豊かさに貢献するという点。この採算性には、第2次安倍内閣から菅内閣で取り組まれた政府によるインフラ整備が欠かせない。

菅義偉 前内閣総理大臣:
当時の仲井真沖縄県知事から、観光で雇用を生み利益をあげるために空港に第2滑走路が必要だという話があり、政権として受けとめて造った。また沖縄本島北部に向けても、道路を開いた。観光地としての可能性は出てきている。

反町理キャスター:
観光をめぐるインフラなどについても、知事と政府・自民党は話し合ってきた。参議院選挙も近いが、沖縄の選挙では基地問題だけが争点と見られがちなことへの違和感は。

菅義偉 前内閣総理大臣:
もちろん違和感を感じてきたが、現実的にそういう状況にある。その中でも政府の今までとってきた対応が地元で評価されてきていると思っている。

反町理キャスター:
テーマパークの先に見える日本のビジネスモデルはどのようなものか。

森岡毅 株式会社刀 代表取締役CEO
森岡毅 株式会社刀 代表取締役CEO

森岡毅 株式会社刀 代表取締役CEO:
テーマパークとは、ビジネスの投資や地域を活性化させるための経済の増幅装置としての街。極めて経済効果が高く、沖縄の貧困問題に対しても意義がある。もう1点、知財で食べていく日本の重要な滑走路になる。アメリカの賢い方々はディズニーランドで、日本の労働力でミッキーマウスを宣伝させ、日本人のお客を呼んで売り上げを立て、ライセンス料を本国に持っていっている。日本はマンガ、アニメなどさまざまなコンテンツ知財を生み出す天才がたくさんいらっしゃる国。同じことができるはず。

反町理キャスター:
菅さんのビジョンにおいて感じる可能性は。

菅義偉 前内閣総理大臣:
官房長官のとき、日本を観光立国にしたいという中で必要だったのがビザ。この緩和により、観光客数が6年ちょっとで3200万にまで増えた。自然、気候、文化、食の4項目において、世界で最も国外からの観光客が多いフランスに勝るとも劣らない。そこに森岡さんが言ったコンテンツを含めれば、どんどん膨らんでいくのでは。

観光客の滞在日数を伸ばし、沖縄に大きな投資を

長野美郷キャスター:
沖縄への観光客数は本土復帰以来右肩上がりで推移し、2019年には1000万人を突破してハワイと同等に。一方、平均滞在日数はハワイの8.90日に対して3.73日、観光消費額はハワイの約20万円に対して約7万円。こうした課題解決に必要なことは。

森岡毅 株式会社刀 代表取締役CEO:
宿泊日数が全てのトリガー。沖縄の北部には美ら海水族館という素晴らしい水族館がある。その次に滞在できる施設がもうひとつあれば、人は宿泊する。このテーマパークはそれを狙い、大きな投資を呼び込むための変化の起点になることを目的としている。

反町理キャスター:
沖縄に対する地域振興策に特化した上で、沖縄を豊かにしたノウハウをどう全国に散らしていくのか。

菅義偉 前内閣総理大臣:
地域によって違ってくる。沖縄には全国の米軍基地の約7割を置かせていただいており、特別な振興などの法律ができる。他の地域ではなかなか同じような形ではできないのは当然。それは国民の皆さん、よく理解していただいているのでは。

長野美郷キャスター:
視聴者の方から「重い基地負担をしてもらっている沖縄には税制優遇をして、経済特区にすることはできないか」というメール。

菅義偉 前内閣総理大臣:
優遇措置も、ものによってはつくるのが当然のことだと思う。

菅前首相「一議員として縦割りや前例主義を排し、国民のための政策推進を」

菅義偉 前内閣総理大臣
菅義偉 前内閣総理大臣

反町理キャスター:
視聴者の方から「コロナ禍、ロシア・ウクライナ情勢、台湾情勢、北朝鮮の核ミサイルという世界情勢の中、もう一度総理として仕事をしたいと思いませんか」というメール。やり残したことは。

菅義偉 前内閣総理大臣:
やり残したことはないと思っている。ただ、これからも縦割りや前例主義を壊して国民にとって必要なことを行っていきたい。

反町理キャスター:
一部報道で、参議院選挙後の内閣改造で「副総理兼カーボンニュートラル担当大臣」という話もあった。また勉強会をやるというお話があったが。

菅義偉 前内閣総理大臣:
政策として推進していきたいが、役職につくのではなく、一議員としてしっかり支えて進めていきたい。勉強会については、縦割りや前例主義を排除していく中で知らないことがまだたくさんある。

反町理キャスター:
その勉強会は参議院選挙が終わってから?

菅義偉 前内閣総理大臣:
当然だと思います。

BSフジLIVE「プライムニュース」5月19日放送