サッカー元ブラジル代表選手のエジミウソン・モラエス氏が今月来日し、経済的理由でサッカーを諦めざるを得ない日本の子どもたちを支援する活動開始を発表した。エジミウソンさんの活動から見えた、日本の困窮家庭の子どもたちにいま必要なものを取材した。
経済支援で子どもにスポーツを諦めさせない
「素晴らしいスタート切れると確信している」
都内で行われた会見でエジミウソンさんは、設立したエジミウソンファンズ・アジアが日本の子どもたちの支援を本格的に開始すると発表した。エジミウソンさんはこう続けた。
「この目的はスポーツを通じて子どもの成長をサポートすることです。活動を通して子どもたちに経済的な支援をしながらスポーツに取り組めるよう支援していきたい」

エジミウソンさんにとって日本は特別な存在だ。エジミウソンさん自身も子どもの頃経済的な理由でサッカーを続けるのを諦めようとしてことがあり、それを救ったのがチームメイトだった日本人の友人から提供された300ドルだった。またエジミウソンさんが代表に選ばれたブラジル代表チームが、ワールドカップで優勝に輝いたのも日本の地だった。
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体験格差が教育格差となり貧困が連鎖する
会見前にはサッカー教室が行われ、エジミウソンさん自らが子どもたちにサッカーの指導を行った。エジミウソンさんにサッカーを教わった子どもの母親はこう語った。
「子どもがサッカーをやりたいけど、どうすればいいのかわからなかった。こうして少しでも体験できて、いろいろな人と出会えることは、コロナ禍の中ではできなかったのでよかったです」

このサッカー教室には、経済的に困窮する家庭を支援する認定NPO法人キッズドアの子どもたちも参加した。キッズドア理事長の渡部由美子さんは会見で、こうした取り組みの大切さを訴えた。
「このイベントにはサッカーを習わせたいけど習わせられない子どもも来ています。また、小さいときはやっていたけど事情があってできなくなった子どももいます。教育格差が起こるのは、塾に行けないだけではありません。このようなイベントに参加できないために、いい大人との出会いが少なくなる。そして将来の夢がなくなって、勉強をしなくなり貧困の連鎖が生まれる。教育格差を無くすためには勉強を教えるだけでなく、こういう体験の機会をどう確保するかが重要なのです」

大人が応援することで子どもは伸びていく
そして渡辺さんはこう続ける。
「コロナで非正規雇用の方が仕事に行けず、ますます生活が苦しくなりました。そのため習い事を辞めた子どもはたくさんいると思います。今回のエジミウソンさんの取り組みで、『お金が無くてもサッカーをできるんだよ。お金がないからと諦めなくてもいいんだよ。日本は君たちを応援する社会なんだよ』と発信されることが大事です」

キッズドアでは2020年度から困窮家庭の高校生や浪人生に、大学進学支援の奨学金を出している。その理由を渡辺さんは「お金がない子どもも大学に行っていいと伝えたくて」という。
「すべての子どもが夢や希望を持てる社会になって、大人が応援することで子どもがどんどん伸びていくチャンスを得られるといいなと思います」
「神様に与えられた私の人生を子どもたちに」
サッカー教室を終えたエジミウソンさんは、その感想を問われるとこう語った。
「コロナの影響で全世界が難しい状況に陥った中で、子どもたちが楽しむ気持ちを育ててあげることが大事だと思っています。今回子どもたちの笑顔を見てあらためて感じたし、こうした機会を増やしていきたいと思いました」
そしてこう続けた。
「第二の人生の中で子どもたちを支えたい、経済的支援をしたいと、現役時代にブラジルで財団を立ち上げました。神様に与えられた私の人生を、子どもたちに還元したい。日本でも子どもたちに経済支援をしながら夢や目標を育てる環境づくりをしたいと思います」

「大人は君たちを応援している」を送り続ける
この活動ではサッカークラブに所属するが経済的に続けるのが難しい18歳以下の選手に、10万円の給付型奨学金を来年の年明けから給付する予定だ。原資となるのはエジミウソンファンズ・アジアがクラウドファンディングなどで募る寄付や支援金となる。
子どもたちに経済支援とともに「社会や大人は君たちを応援している」とメッセージを送り続ける。このことの大切さを、エジミウソンさんの活動は日本社会に改めて気づかせたのではないか。
