3Dプリンターを活用した物流革命への一手に迫った。

安く早く利用者の手元へ

東京・羽田に位置するヤマト運輸の物流拠点。

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大小さまざまな機械が並ぶ部屋でスタッフが見つめる先には、歯形の3D画像がずらりと並ぶ。
ヤマト運輸が18日から始めたのは、3Dプリンターを使った歯科矯正「マウスピースの製造・配送サービス」。

国内のマウスピースメーカーからデータを受け取ると、1人ひとりにあわせたマウスピースを1日に最大800個、物流拠点の中で作り上げ、梱包や配送までを手がける。

運送のヤマトが、なぜマウスピースの製造にまで関わることにしたのか。ヤマト運輸とタッグを組んだ矯正器具の提供を行う企業は…。

「hanaravi」を提供する各務康貴CEO:
もともと多くの患者さんに届ける中で、大量にスピーディーにマウスピースを作成していくことが求められていて、(ヤマト運輸は)一番早く荷物を届けることを大事にしている会社なので、我々の目指す方向と一致した。

ヤマト運輸の最大の強みは国内ネットワーク。

既存の物流拠点に3Dプリンターを設置することで、従来のものよりも安く、そして早く利用者の元へ届けることができる。

マウスピース製造の主流は主に海外のため、輸送には一定の時間がかかり、治療費は大手メーカーでは100万円ほどとなっている。しかしこのサービスでは、データを受け取ってから患者の元に届くまでかかるのは、およそ4日。価格は30万円程度に抑えられている。

人手不足やコスト高など、多くの課題を抱える宅配業界の新たな戦略。

今後については…

ヤマト運輸 営業・オペレーション設計部 清水淳二マネージャー:
拠点でプリントすると中間の輸送がなくなる。CO2排出削減に貢献できる運び方かなと思っていて、新しい運び方のチャレンジです。(今後は)例えば消耗品などは非常に適している。在庫負担もあるので、あまり出ないものをプリントして製品化する方が効率はいいとか、そんな取り組みを企業と打ち合わせしています。

サプライチェーン革命も

三田友梨佳キャスター:
一橋大学ビジネススクール准教授の鈴木智子さんに聞きます。モノをつくって運ぶ新たな試み、どうご覧になりましたか?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
ヤマト運輸のような物流企業が3Dプリンターを活用してモノづくりに乗り出すと、圧倒的な輸送コストの削減が図れます。

例えばVTRにあったマウスピースのように、主に海外で製造している製品の場合、日本に持ってくるには船や飛行機で運び、さらに関税など様々な手数料が必要になります。
それがラストワンマイルと呼ばれる配送リレーの最終ランナーである物流企業が、自社の配送拠点で3Dプリンターを活用して製品製造を行うと物流コストも配送期間も一気に削減できます。

今回はヤマト運輸の試みですが、UPSやDHLなどグローバル展開している物流企業も、3Dプリンターを活用したモノづくりは成長分野であるとして事業を拡大させています。

三田キャスター:
これからは様々な分野で3Dプリンターの活用が進みそうですね。

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
今後の影響についていうとサプライチェーンが大きく代わる可能性が指摘されています。
場合によっては製造メーカーは多くの部品在庫を持つ必要がなくなり、注文があればメーカーに代わって物流企業が3Dプリンターで部品製造を行うことも可能になります。

三田キャスター:
これから事業の成長を図るためにクリアすべき課題については、いかがですか?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
まず、3Dプリンティングはまだ大量生産には向いていません。現段階では従来の製造工程のスピードには勝てないんです。そのため、今回のマウスピースのような個々のケースに合わせてカスタマイズする製品を中心に活用が進んでいます。

こうした課題はありながらも、将来的にはほとんどのモノが3Dプリントできると考えられています。

三田キャスター:
宅配業界のヤマト運輸が製造までビジネスを広げたように、進化を続ける3Dプリンターの活用によっては企業の事業モデルを大きく変える力を持っているのかもしれません。

(「Live News α」5月18日放送)