食品ロスの課題解決に向けて飲食店が打ち出した意外な一手とは。

炊いたお米に“箔”

黄金色に輝くビール。この新商品は「もったいない」から生まれたアップサイクルビール。

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大阪を中心にカレー店を展開するジパングフードリレーションズで、この日行われていたのは開発したビールの初めての瓶詰め作業。

ジパングフードリレーションズ・安藤育敏代表取締役社長:
メッチャ感動ですね。こうやって見たらすごい良い色をしている。

商品名は「箔米クラフトビール」。 お米をアップサイクルすることで“箔”がつくことから「箔米」と名付けられた。

安藤育敏代表取締役社長:
6年ぐらい前に初めて飲食を始めたときに、こんなに廃棄米とかフードロスっていうのが出るんだなというのが、まずそこに何とかせなあかんなぁって思ったのがきっかけですね

コロナ前は余ったお米を従業員のまかないなどに使用してきたが、緊急事態宣言が出されると状況は一変した。

安藤育敏代表取締役社長:
僕ら飲食店のお米はだいたい30人前とかが一気に作れちゃうので(コロナの中)来てくださるお客さんが4人とか。もう25人前とか26人前が廃棄みたいになってしまって。

そうした中で出会ったのが、捨てられてしまうパンからビールを作るなどアップサイクル事業を行うシンガポール発のフードテック企業「CRUST JAPAN」だった。

ビールを醸造する際に“炊いたお米”を使うことができないかを相談。麦芽の代わりに炊いたお米を使うことから、お米の粘り気で醸造タンクが詰まってしまうなど予期せぬトラブルもあったそうだが、配合の微調整など問題を1つ1つ乗り越えて製品化に成功した。

さらに、カスケードというアロマホップを入れることで、苦みが弱く香り高いビールに仕上げた。

飲んでみるとフルーティーな香りがして、とてもさわやか。最初はまろやかで後からスパイシーさがくるという。後味は苦味というよりも香りが最後まで持続する感じだ。

構想から6年の歳月を経て実現した“炊いたお米”を使ったアップサイクルビール。今後については…

安藤育敏代表取締役社長:
このビール自体はどんどん本当は世に広まっていってほしいんですけど、このビールが出来上がるってことは炊飯された廃棄米がどんどん出ちゃうってことなので、本当は出来ない方が良いのかなと思うんです。このビールが広まるよりかは、このビールのマインドが広まるっていうのが一番いいかもしれないですね

食品廃棄の削減で企業負担軽減

Live News αでは一橋大学ビジネススクール准教授の鈴木智子さんに話を聞いた。

内田嶺衣奈キャスター:
飲んで美味しく、そして地球にも優しいビールをどうご覧になりましたか?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
クラフトビールは原料や醸造方法の組み合わせなどによって100種類以上のビアスタイルがあります。造り手の感性や地域の物語性が楽しめるビールとして今、人気となっています。アルコール市場そのものが振るわない中、空前のクラフトビールブームが到来し、2021年には前の年と比べて200%以上の成長を遂げています

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
ただ、クラフトビールへの参入が相次ぎ激しい競争の中で勝ち残るには、差別化を図る必要性が生じています。今回の箔米クラフトビールのように、廃棄される予定だった食材のアップサイクルといったストーリーも、クラフトビールの新たな多様性の表れとして消費者に響くのではないでしょうか

内田嶺衣奈キャスター:
確かに棚に並んだ商品の中で地球への優しさが加わっているものは手に取りたくなりますよね?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
そうした消費者のマインドは学術的な研究の対象にもなっていて、アップサイクル食品について知っている消費者は10%に過ぎないが、一度知れば80%が環境に配慮した商品を求めるというデータがあります。さらにもう1つ。そもそも食品廃棄は手間暇かけて製造したものを無駄にしてしまうことを意味するので、収益性を損ない、価格を高騰させる隠れたコストでもあります。食品廃棄の削減は企業の財務負担の軽減にもつながります。こうした背景もありアップサイクルは食品業界において大きなトレンドになる可能性が指摘されています

内田嶺衣奈キャスター:
自分好みのクラフトビールとの出会いは格別なようです。それが環境に配慮したものならさらに味が引き立ち、心も豊かになる気がします。

(「Live News α」5月12日放送分より)