ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻は2カ月を超え、未だに激しい戦闘がウクライナ東部や南部を中心に続いている。アメリカ政府は「代理戦争」を否定するものの、ウクライナに対して136億ドルの支援に加えバイデン大統領は4月28日に軍事支援などのために330億ドル、日本円で4兆3000億円もの追加予算を議会に要求するなど徹底的なウクライナ支援に舵を切っている。この侵攻は泥沼とも言える状況に陥っているが、こうした中でトランプ政権元幹部のインタビューが注目を集めている。その内容は今回のウクライナ侵攻と「朝鮮戦争」の類似性、そして本当に警戒すべき相手が中国であり、今、世界は米中による代理戦争いわば「新冷戦」の様相を呈しているのだということに焦点を当てたものだった。

2カ月を超えた軍事侵攻はウクライナ東部を中心に未だ激しい戦闘が続く
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インタビューが話題に…ウクライナ侵攻と朝鮮戦争の類似性とは?

「ロシア、中国と新冷戦」この題名で掲載された、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューが話題を呼んでいる。インタビューの主は、トランプ政権で安全保障を担当していた、マット・ポッティンジャー氏だ。このウクライナへの侵攻を、2度の世界大戦やソ連のアフガン侵攻とは異なり、プーチン大統領のウクライナ征服の野望と中国の習近平国家主席との関係から、1950年から始まった「朝鮮戦争」に類似していると提起している。

トランプ政権で安全保障担当を務め、中国の専門家でもあるマシュー・ポッティンジャー氏

「1950年スターリンと毛沢東と金日成は、韓国への侵略が簡単であるとひどく見誤り、今日、我々が見ているのと同様に、アメリカの決意をあなどっていた」

第二次世界大戦後に朝鮮半島は、北朝鮮と大韓民国として38度線を境に南北に分断されていたが、1950年6月25日、北朝鮮軍の砲撃とともに韓国への侵攻が開始され、10万人の北朝鮮軍が南進を始めた。侵攻の開始からわずか3日で韓国政府は首都ソウルを放棄し、その後は南に追い込まれたが、アメリカを中心とする国連軍が参戦し、9月の仁川上陸作戦に成功したことで反攻に成功。逆に38度線を北に越えて10月には北朝鮮の臨時首都平壌を制圧すると、今度は中国軍が北朝鮮を支援するため国境を越えて参戦。3年間に及ぶ戦争は膠着し、400~500万人とも言われる死者を生み、今も終戦に至らず休戦状態となっている。この朝鮮戦争の背景には、米中をアジアに釘付けにしている間に、ヨーロッパなどでの基盤を固めたいスターリンの暗躍があったとされている。この構図が現在は、プーチン氏が毛沢東に、そして習主席がスターリンという構図に変化し、ウクライナ侵攻の本当の脅威は中国であり、ウクライナへの軍事侵攻から見えてきたものは、米中の対立、そして代理戦争(新冷戦)が始まっているというものなのだ。ポッティンジャー氏はこう述べている。
「役割は今や逆転し、習主席はスターリンの役を演じ、プーチン氏は毛沢東が虐殺に軍隊を送る役を演じている。この戦争が、分断された国で何らかの膠着状態に陥り、同様の形で終わる可能性さえ考えられる」

ウクライナへの軍事侵攻で注目される中露首脳の接近
朝鮮戦争の背景にはソ連の最高指導者スターリン氏の暗躍があった
朝鮮戦争で中国軍の介入を決定した最高指導者の毛沢東氏

アメリカや欧州、そして日本は何をすべきなのか?

ポッティンジャー氏はさらに、「中国が世界における権威主義の母船であることに疑問の余地はない。しかし、これらの敵対勢力が互いにどのように結びつき、どのように連携を強めているかを見抜けなければ、大きな失態を犯す危険性がある」とも警鐘を鳴らす。

ボッティンジャー氏は今回のウクライナ侵攻によって、アメリカはNATO諸国などと結束して、継続的な軍事支援や情報共有を行っている点を評価する。しかし一方で、日本、オーストラリア、インドが参加する4カ国の安全保障対話「クアッド」が中国に対して果たすべき役割は大きいとも指摘する。奇しくも、5月下旬にはバイデン大統領が就任後初めとなる日本訪問に合わせて、クアッドの会合も東京で開催される。インドが国際社会の期待に反して、今回のロシアの軍事侵攻に対して慎重な対応を続けているという不確定要素はあるものの、ホスト国の日本の岸田首相が、対中国についてどのような方針を4カ国として打ち出することができるかに世界が注目している。

バイデン大統領の訪日に合わせて開催される「クアッド」では岸田首脳の手腕が問われる

事実、当時のスターリンが朝鮮戦争の隙間を縫って、ヨーロッパでの軍事基盤を拡大させようとしたように、中国の動きも活発化してきている。アジア太平洋地域をみれば、このウクライナ侵攻の間、中国が南太平洋の島国ソロモン諸島と安全保障協定の署名を交わしたことが、世界に衝撃を与えた。ソロモン諸島側は否定しているものの、中国が軍隊と艦船の足場となる軍事基地を設置する可能性も高まっている。中国がこの地域に軍事力を背景に進出することで、一気にアジア太平洋地域の不安定が増すことは想像され、近い未来に日本やアメリカなどが結束して対抗していくのかも確実に問われていくことになる

中国は南太平洋のソロモン諸島と安全保障の署名を交わした

日本の周辺を見回しても、プーチン氏はかつて「アイヌ民族をロシアの先住民族に認定する」と発言し、昨今では、ロシアの議員が「ロシアは北海道の権利を有している」と発言。中国では沖縄の日本の領有を認めず、「沖縄は中国に本来は帰属している」などの、中国が沖縄の領有権を主張する言説も度々報じられている。日本のいわば、「ウクライナ化」に向けた動きともとれる状況が生じる可能性は否定できない。

■中国の台湾侵攻は迫っているのか?その先の日本有事の可能性は?

さらにウクライナ侵攻を踏まえ、日本にとっても大きな脅威となるのが、中国の台湾への侵攻ではないだろうか。去年11月にアメリカの国防総省が発表した報告書では、中国は2027年までに最大で700発、2030年までには少なくとも1000発の核弾頭の保有を目指している可能性があると指摘する。また、中国は軍の近代化を加速させており、台湾有事の際には、信頼性のある軍事的な選択肢を得ることができると警鐘を鳴らしている。まさに日本の眼前に脅威は迫っており、安全保障体制の強化が不可避とも言える現状である。

中国は台湾に向けて圧力を強め続けている

ポッティンジャー氏は台湾への侵攻の可能性について、「論理的で冷静な分析によれば、中国の戦争プランナーは二の足を踏んでいるはずだ」と指摘するが「しかし、論理的で冷静な分析は習近平の得意とするところではない。習近平はこの時点では、錯覚した鏡の反射で世界を見ているのです」とも述べ、脅威は捨てきれないとしている。
「独裁者が長く権力を維持すればするほど、自信とパラノイアの間のパラドックスは鋭くなります。そして、信頼できる情報が少なくなってきて、戦略的な誤算を犯す素地があるのだと思う」

日本とアメリカの間には、日米安全保障条約が結ばれ、第6条にはこう記載されている

「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリ力合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」

台湾と日本の有事において、アメリカ軍の参戦は疑いないと考える一方で、日本の決心をめぐり激しい世論戦、経済戦が繰り広げられ、国民の決心が問われることになるかもしれない。1955年の保守合同はまさに冷戦期の体制に向けた我が国の大きな政治体制の変換だった。今年の夏に行われる参議院選挙では、ポッティンジャー氏のいう米中対立の「新冷戦」に向けた、国内政治の大きな転換期になるかもしれない。

中西孝介
中西孝介

フジテレビ 報道局 政治部 与党担当キャップ・ニュース制作部を経て、現在FNNワシントン支局

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