被告の口から出た「何も考えてなかった」
神奈川県大井町の東名高速で、5年前、あおり運転をされた末に夫婦が死亡した事故。石橋和歩被告(30)は危険運転致死傷などの罪に問われている。今年1月に始まった”やり直し裁判”は、すでに法廷での審理を終えている。記者には、裁判を傍聴する中で、印象的な場面があった。


(今年2月の被告人質問)
検察官:パッシングしたらどういう反応すると思いましたか?
石橋被告:その時は何も考えてなかった
検察官:何のためにパッシングをしたのか
石橋被告:どこかに停めようとしていたと思う
検察官:パッシングすると相手の車が停まると考えた?
石橋被告:その時は何も考えていなかった
2017年6月5日夜、石橋被告は、東名高速の中井サービスエリアにいた。その際、萩山嘉久さん(当時45)から、駐車場所について注意を受け、それに腹を立てて、萩山さんの車を追いかけたとされる。萩山さんの車には、妻の友香さん(当時39)と娘2人が同乗していた。

石橋被告は、執拗にパッシングを繰り返し、車の前に割り込むなどの”あおり運転”を4回繰り返したとされる。そして、ついに萩山さんの車は、高速道路上に停まった。自分の車を降りた石橋被告は、萩山さんに詰め寄り、胸ぐらをつかむなどしたとされる。
(今年2月の被告人質問)
検察官:相手に「海に沈める」と言った?
石橋被告:言ったかもしれないし言ってないかもしれない
検察官:「道路に放り投げる」とは言った?
石橋被告:言ったかもしれないし言ってないかもしれない
暴行事件の現場は、夜の高速道路の追い越し車線上だった。そこに後続のトラックが突っ込んできたのだ。この事故で、萩山さんと友香さんが死亡し、娘2人も大ケガをした。石橋被告自身も負傷している。


”異例”やり直し裁判 4年前の被告は
石橋被告をめぐる裁判は、異例の展開をたどった。2018年12月、横浜地裁は、石橋被告に懲役18年を言い渡した。しかし、二審の東京高裁が、翌年の12月、一審の裁判手続きに違法な点があったとして、裁判のやり直しを命じたのだ。
上記の検察官と石橋被告のやり取りは、今年2月、やり直し裁判での被告人質問の際のものだ。実は、4年前の一審の被告人質問で、石橋被告は、事故当時の様子について、次のように供述していた。

(4年前の被告人質問)
石橋被告:たばこ吸いよる途中に、萩山さんから「邪魔やボケ」みたいなことを言われて、たぶんカチンときた。ムカついて追いかけたと思います。
弁護側:(萩山さんの車に)追いついて何を?
石橋被告:パッシングしたと思います。「止まれ」っちゅうこと。
弁護側:(車を止めた後)あなたは何と言いましたか?
石橋被告:「ケンカ売りよんか」とかそんな感じで。
検察側:止められないぐらい頭に血が上っていた?
石橋被告:はい。
検察側:萩山さんにどんな口調で話しましたか?
石橋被告:怒鳴りよったと思います。
石橋被告:子供がいることは分からず、子供がいることを知っていれば何もしなかった。こういう事件を起こして申し訳ないことをしたと思っています。本当にすみませんでした。
懲役18年求刑 6月6日判決へ
4年前の被告人質問でも「覚えていない」と述べる場面が多かった石橋被告。一方で、感情を露わにして、事故当時の心境を語ることも少なくなかった。それ故に、法廷での言動が批判されることもあった。
ところが、今回のやり直し裁判では、「何も考えてなかった」「覚えていない」を繰り返すばかり。終始、他人事のように見える。法廷戦略の変更なのか。4年前との”違い”に違和感を覚える。

法廷では「自分は事故になるような危険な運転はしてないし、人がけがをしたり亡くなったりする事故はしていない」と起訴内容を否認している石橋被告。事故の責任は、突っ込んできた後続のトラックにあると主張している。
また、事故が起こる直前の様子については「相手の車が減速して停まって自分も減速して停まった、相手が先に停まった」と説明している。検察側の求刑は懲役18年。判決は6月6日に言い渡される。