中国は3月19日、ソロモン諸島と安全保障協定を締結したと発表した。中国当局はその具体的内容を明らかにしないまま、ソロモン諸島の社会秩序の維持などで協力していくなどと述べており、日本、米国、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国は、中国がソロモン諸島に軍事拠点を構築する可能性について懸念を示している。

中国語のバナーと中国国旗(ソロモン諸島・ホニアラ)
中国語のバナーと中国国旗(ソロモン諸島・ホニアラ)
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中東での軍事拠点構築に向けた動き

中国の軍事的脅威拡大という問題は、ソロモン諸島の存在する南太平洋地域に限ったものではない。中国は中東にも軍事拠点を構築しようとしていると強く疑われている。中国がイランと25年間にわたる「戦略的協力協定」を締結したのは2021年3月のことだ。この具体的内容も公にされていないが、イラン当局は安全保障や港湾整備もそこには含まれると明らかにしている。

米「ニューヨーク・タイムズ」紙が入手した同協定の草案によると、中国はイランに対し25年間にわたって4000億ドルの投資を行う代わりに、イランの石油を定期的に、しかも大幅に値引きした価格で輸入することになっている。さらに同草案には、軍事訓練や演習、武器開発を共同で行うことや情報共有など軍事協力の強化も含まれており、米政府は懸念を表明している。ペルシャ湾の入り口にあるホルムズ海峡に近いジャスク港が中国によって整備され、軍事拠点化されれば、バーレーンに第5艦隊を置く米国を抑え、中国が戦略的により有利な立場に立つことにもなりかねない。

25年間にわたる「戦略的協力協定」に署名した王毅国務委員兼外相とザリフ外相(2021年3月)
25年間にわたる「戦略的協力協定」に署名した王毅国務委員兼外相とザリフ外相(2021年3月)

2021年11月には、アラブ首長国連邦(UAE)が米国からの要請を受け、UAEの首都アブダビ近くにあるハリファ港での中国の建設作業を中止させたと米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が報じた。同紙によると、米情報当局は1年ほど前からアブダビの北約80キロメートル地点にあるハリファ港で中国が不審な動きをしているという情報を得ており、その後、衛星画像によって中国が何らかの軍事施設を建設していると結論づけ、作業停止を要請したとのこと。2021年12月にはUAEの外交顧問ガルガーシュ氏が、米国の要請で作業停止を命じたことは認めたものの、軍事目的で利用されるとは認識していなかったと強調した。

イランにとってもUAEにとっても、今や中国は最重要貿易相手国のひとつであり、中国は両国を含む中東産油国の産出する石油の最大の「顧客」でもある。まずは貿易や投資、インフラ整備といった経済関係を強化し、その後、軍事的影響力の強化を図ろうとする常套手段を、中国は中東諸国に対しても適用していると見るべきであろう。

「一帯一路」に潜む中国の軍事的野心

中国は2017年には、東アフリカのジブチに海外初の軍事拠点を構築した。同じく2017年には、スリランカのハンバントタ港の港湾運営権及び港湾施設等が中国企業に99年間リースされることで両国政府が合意した。これは「債務の罠」の典型例として引き合いに出されることが多い。2021年には、日本やインドと協力して開発を進めることになっていたコロンボ港についても、入札の結果、中国企業が開発を進めることになったとスリランカ政府が明らかにした。

中国はカンボジアとの間でも、中国軍にカンボジアのリアム海軍基地の使用を認める秘密協定を締結したと2019年に報じられた。

パキスタンもグワダルに次いで、最大都市カラチの沿岸開発で中国と合意したと2021年10月に発表した。

ジブチ保障基地で行われた記念式典(2017年8月)
ジブチ保障基地で行われた記念式典(2017年8月)

習近平国家主席が2013年に発表した「一帯一路」はあくまでも「広域経済圏構想」であり、軍事的、政治的な野心はない、というのが中国の公式な立場だ。しかし現実には、中国は経済的関係を強化した国と、あいまいかつ不透明な協定を締結し、開発・整備した港湾を軍事拠点化しようとするなど、軍事的野心は否定できない。また経済的に中国への依存を強めた国は、国連などの場においても中国を非難せず擁護する立場に立つ。いまや中国政府によるウイグル人迫害問題について、中国に「寄り添う」国は中国を非難する国よりも多い。国際社会における中国の影響力は、中国の経済力に比例して明らかに増大している。

米外交問題評議会の推計によると、「一帯一路」への参加に署名している国は約139カ国であり、中国とこれら諸国のGDPは世界のGDPの40%を占め、2027年までに1.2~1.3兆米ドルになると推定されている。また、これら諸国に住む人は世界人口の63%を構成している。

中国の公式な「発言」や「発表」ではなく、中国がどの国で何をやっているか、その行動によって中国の脅威、影響力の拡大を常に推し量る必要性があり、またその範囲は日本の近隣諸国だけでなく全世界に及ぶと認識しておくべきである。日本の原油の8割がホルムズ海峡を通過して輸入されており、中国の影響力がそこに迫っていることを、忘れてはならない。

【執筆:イスラム思想研究者 飯山陽】

飯山陽
飯山陽

麗澤大学客員教授。イスラム思想研究者。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『イスラム教再考』『中東問題再考』(ともに扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)などがある。FNNオンラインの他、産経新聞、「ニューズウィーク日本版」、「経済界」などでもコラムを連載中。