FNN記者のイチオシのネタを集めた「取材部ネタプレ」。今回は、経済部・財務省担当の井出光記者が「”悪い円安”政府は止めないの?」を伝える。

”悪い”どころか”最悪”な円安

井出記者:
連日、円安に関するニュースが続いています。4月13日に1ドル126円台をつけ、20年ぶりの円安水準となりましたが、そこからまた進んで、4月20日は129円台と、円安に歯止めがかからない状況が続いています。

これを受け、サイゼリヤの堀埜一成社長は「全ての輸入食材の価格に影響が及ぶため最悪の状況」吉野家ホールディングスの河村泰貴社長は「牛肉の価格が上がっている。経営への影響は小さくない」と深刻に語っています。

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中でも、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「円安のメリットは全くありません。日本全体から見たらデメリットばかりだと考えます」と強めの口調で話しました。

この柳井社長の考えにあるように、現在の円安は、今「悪い円安」との見方が強いようです。

「悪い円安といえる」…大臣異例の指摘

加藤綾子キャスター:
そもそも、円安に「良い」「悪い」という違いがあるのですか?

井出記者:
まさにそこが疑問で…私たち財務省担当の記者の間でも、実際、何が「悪い円安」なのか話題になっていました。そうした中、4月15日の鈴木財務大臣の記者会見で「悪い円安って何?」という根本的な質問が飛びました。

その質問に対し、鈴木大臣は「円安が進んで輸入品等が高騰している。それに応じて原材料を価格に十分転嫁できないとか、賃金がその伸びを大きく上回るような、それを補うようなところに伸びていないという環境」と答えました。

井出記者:
つまり、「悪い円安」とは…円安によって輸入する原材料費が高くなる。それなのに企業がその高くなった原材料費を商品の価格に反映できず、経営が苦しくなる。給料も上がらず、結果、家計が苦しくなる、ということです。

さらに、鈴木大臣はこの発言のあと、今の円安を「悪い円安と言えるのでは」と指摘。財務大臣が、円安が「良い」「悪い」と言うことは、極めて異例のことでした。

その一言で市場が反応…「口先介入」

井出記者:
大臣が「悪い円安」とまで言うのなら、なぜ、政府はなにもしないのか?
実は、今回取材している中で、政府が円安に対して、”対処しそうでしなかった”瞬間がありました。円安が一気に進んだ4月13日、「財務大臣が円安について何らかのコメントを出すのでは」という情報が入りました。

なぜ、コメントが注目されるかというと、例えば財務大臣が「これ以上の円安は望ましくない」などと発言します。すると市場は、「政府が円安ストップに動くかもしれない!」と期待し、円安を落ち着かせる効果があるためです。これを市場では「口先介入」と呼んでいます。

この日、13日の午後3時すぎ、20年ぶりの円安水準を更新し、財務省の記者クラブはザワつきました。各社カメラを持って鈴木大臣を追いかけ、エレベーターから降りてきたところを直撃しました。でも、鈴木大臣の答えは「為替の水準についてはコメントしないということになってるわけです。私の不用意な発言が影響与えてはいけないので」というもので、踏み込んだ発言はありませんでした。

”通貨マフィア”を直撃

井出記者:
そこで、財務省のもう1人のキーマンに話を聞くことにしました。為替政策に大きな権限を持つ財務官というポストを務める神田さんです。
実はこの神田さん、ある異名が…。「通貨マフィア」と呼ばれているんです。

加藤キャスター:
「マフィア」と聞くと怖そうですが、神田さんだからそう呼ばれているのですか?

井出記者:
この「財務官」というポストを務める人は代々「通貨マフィア」と呼ばれていて、例えば、大臣が出席する国際会議の裏で、各国とこっそり秘密の会合を行い重要な方針を決めたり、ちょっとした発言1つでも相場が大きく動いたりします。そうした行動と強い力がマフィアに例えられ、「通貨マフィア」と呼ばれているんです。

神田さんはフランクな人で、いつもなら取材にも丁寧に答えてくれます。
そこで、午後4時すぎごろ、財務省に帰ってきた神田さんを直撃しました。部屋までは距離があるため、歩きながら質問をたくさんぶつけましたが、何も答えてくれません。

そして最後に…「ちょっと、今日は、今は勘弁してください」と言って、部屋へと入っていきました。

なぜ大臣も財務官もコメントを避けたのか。取材を進めると、実は財務省の中でコメントを出す・出さないの議論になったものの、最後の最後で今回は「出さない」と決断したことが分かりました。理由は、今回の円安は異常とまでは言えず、まだ政府が踏み込んだコメントをする段階にはないと判断したからのようです。

政府の最後の切り札「為替介入」

井出記者:
政府は他にどんな対策を準備をしているのか。注目なのが「為替介入」です。今回であれば、政府が市場で円を大量に買って、無理やり円高に持って行くという方法になります。

この為替介入が最後に行われたのは、2011年、東日本大震災の直後でした。今とは逆で、1ドル75円台と「円高」だったときで、一日で8兆円ものお金を投入し、大量の米ドルを買って、円を売り、円安に持っていきました。

では、今回もこの為替介入をするのか。財務省幹部に取材すると、「なかなか難しい」「2011年とは状況が違う」ということでした。

ただ、この為替介入は先ほどの財務官たちが話し合って超極秘で行うため、「介入するよ」などと言う人はいません。政府は今のところ有効な対策を打てずにいますが、今後さらに円安となった時に為替介入という切り札を切るか、取材現場での取材が続きそうです。

加藤キャスター:
円安をめぐる動きがさらに進む場合、政府もこのままというわけにはいかないですよね。

住田裕子弁護士:
もう130円間近ですので、悪い円安の影響は色々出てきていますよね。海外から日本の一番弱いところをつかれているんですね。日本の債務対GDP比は、世界から見ても先進国最悪ですからね。財務省としても為替介入だけでなく、緊縮財政の方向に大きく舵を切らないと、バラマキの補助金もそろそろ対策をとらないといけないという危機感もある。無駄なお金を使えないという状況がありますから、歳出カットや緊縮財政の方向に動くと、それは一つの必要な方向だと思う。ただ、将来を担う若者のためにもきちっとした投資、教育投資もしてほしい、それが日本の経済を強くする一つの方策だと思います。

(「イット!」4月20日放送より)

記事 612 経済部

「経済部」は、「日本や世界の経済」を、多角的にウォッチする部。「生活者の目線」を忘れずに、政府の経済政策や企業の活動、株価や為替の動きなどを継続的に定点観測し、時に深堀りすることで、日本社会の「今」を「経済の視点」から浮き彫りにしていく役割を担っている。
世界的な課題となっている温室効果ガス削減をはじめ、AIや自動運転などをめぐる最先端テクノロジーの取材も続け、技術革新のうねりをカバー。
生産・販売・消費の現場で、タイムリーな話題を掘り下げて取材し、映像化に知恵を絞り、わかりやすく伝えていくのが経済部の目標。

財務省や総務省、経産省などの省庁や日銀・東京証券取引所のほか、金融機関、自動車をはじめとした製造業、流通・情報通信・外食など幅広い経済分野を取材している。

記事 30 井出 光

フジテレビ 報道局 経済部(財務省担当)。野村證券から記者を目指し転身。社会部(警視庁)、経済部で内閣府、経済産業省、民間企業担当などを経て現職。