脅威?霞ヶ関にもチャットGPT旋風

4月に入り、「チャットGPT」に関するニュースを見ない日はない。

チャットGPTとは対話型人工知能(AI)で、まるで人間が書くような自然な文章などを生成する。2022年11月に公開され、わずか2ヶ月で世界での利用者が1億人を超えた。日本でも急速に利用者が増えている。

4月11日にはチャットGPTを開発したアメリカの新興企業「オープンAI」のサム・アルトマンCEOが来日。岸田総理と面会し、日本に進出する考えなどを明らかにした。

来日した「オープンAI」アルトマンCEO
来日した「オープンAI」アルトマンCEO
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MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究データによると、チャットGPTを含む「生成AI」を使うと作業時間が大幅に短縮される。タスクの質も向上するほか、人による差が小さくなるという結果が出ている。

その衝撃は政府も揺るがしている。

河野デジタル大臣は公務員の業務での活用に前向きな考えを示した。西村経産大臣も「業務負担を軽減するための可能性を追求していきたい」として、国会答弁に活用する可能性を検討する。農林水産省は4月中にもマニュアルの校閲作業での導入することを決定。5月前半には新たに政府の「AI戦略会議」が立ち上がり、従来のAIを議論する会議体からバージョンアップする予定だ。

西村経産相も、「チャットGPT」活用を検討することを明らかにした。
西村経産相も、「チャットGPT」活用を検討することを明らかにした。

しかし、足並みは省庁でまだバラバラなのが実情だ。ある政府関係者は「正直、一部の自民党の議員たちが力を入れて進めていて、官僚たちはまだついていけていない」とため息交じりにこぼす。別の関係者は、「AI戦略は進め方も考え方もまだ始まったばかり。霞ヶ関ではまだ利用ルールが明確化されていない上に、関係省庁が多く、“問題”は複雑なので冷静に議論すべき」と話す。

“問題”とは、個人情報や企業機密などの情報漏洩だ。利用者がチャットGPTに入力するデータは、開発企業「オープンAI」のデータとして蓄積され、チャットGPT自身の学習にも使われる。欧米では警戒感が高まっていて、イタリアのように使用を一時禁止する国も出ている。

フル活用する企業 600万円のコストカットも

企業ではどう活用したらいいか、模索が進む。

BPOサービスの「ニット」が開催するチャットGPT活用のためのセミナーが活況だ。“チャットGPTとは?”から始まり、チャットGPTの問題点、さらにチャットGPTに入力する命令文(「プロンプト」)の例文を様々なケースに応じて教えてもらえる。利用者が入力する命令文(プロンプト)の条件指定がひとつ違うだけでチャットGPTが出す答えが大きく変わるため、そのノウハウを求める声が多い。

「ニット」のオンラインセミナーの様子
「ニット」のオンラインセミナーの様子

定員100人の無料オンラインセミナーは即日で満員、参加者は情報システムやマーケティングに携わる人が多く、係長、課長クラスが半分を占めているという。

IT企業「ナイル」のオフィス(14日)
IT企業「ナイル」のオフィス(14日)

IT企業の「ナイル」では自社内での活用を積極的に進めている。自社メディアのキャッチコピー作成や議事録作成、法務書類のチェックなどで利用している。キャッチコピーは、コピーライターに委託していたものをチャットGPTに切り替えたことで年間約600万円の節約ができる試算だという。4月からは「福利厚生」として有料のチャットGPT利用料(月額20ドル:約2500円)を企業が負担する。

取材に応じる「ナイル」の宮野衆執行役員
取材に応じる「ナイル」の宮野衆執行役員

ナイルの宮野衆執行役員は「チャットGPTは、スマートフォン以来の技術革新になる。チャットGPTを活用することで大きく業務の改善ができる」と話す。厳密な利用ルールはないが、個人情報や企業機密情報は入力しないように社員に周知している。

警戒する企業も

一方で、「チャットGPTを使わない」というルールを定める企業もある。

中古車販売の「カレント自動車」は3月13日に「チャットGPTで希少な車種の価格を調査しない」というルールを社内で周知した。長年、自社で培った査定ノウハウの流出を防ぐためだという。

また、飲食店のDX化を進める「イデア・レコード」でも、現状は社員の業務利用を禁止している。sns運用でうまく利用すれば業務は効率化すると考える一方で、「やはり個人情報流出のリスクがあり、利用に否定的な人が社内では多い」と担当者は話す。4月に社内であらたにプロジェクトを立ち上げ、役員やマーケティング、エンジニアの責任者などが集まり、今後の活用の可能性について議論を進めているそうだ。

問われる日本でのチャットGPT活用

政府の「新しい資本主義実現会議」でもチャットGPTなど生成AIの活用について議論が活発化している。日本のように少子化が進み、労働者不足がさけばれる環境では活用が期待される、とされる。4月25日の会議では、AIを使った多様なサービス創出のため、日本語に対応したアプリやソフトウェアの開発を後押しする取り組みを検討していくことが示された。また、国の研究機関などがAI開発を研究する取り組みも進めていく考えだ。

「新しい資本主義実現会議」に出席する岸田首相(25日 岸田首相)
「新しい資本主義実現会議」に出席する岸田首相(25日 岸田首相)

チャットGPT側も変化を続けている。チャットGPTの開発企業は4月25日、チャットGPTに入力した履歴を残さず、追加で学習させないよう出来る新たな設定を追加したと発表した。情報漏洩のリスクを危惧する声を受けての対応だ。政府はこうした「変化」も見ながら、規制についても判断していくべきとしていて、安全対策も急務になる。

(フジテレビ経済部・井出光)

経済部
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「経済部」は、「日本や世界の経済」を、多角的にウォッチする部。「生活者の目線」を忘れずに、政府の経済政策や企業の活動、株価や為替の動きなどを継続的に定点観測し、時に深堀りすることで、日本社会の「今」を「経済の視点」から浮き彫りにしていく役割を担っている。
世界的な課題となっている温室効果ガス削減をはじめ、AIや自動運転などをめぐる最先端テクノロジーの取材も続け、技術革新のうねりをカバー。
生産・販売・消費の現場で、タイムリーな話題を掘り下げて取材し、映像化に知恵を絞り、わかりやすく伝えていくのが経済部の目標。

財務省や総務省、経産省などの省庁や日銀・東京証券取引所のほか、金融機関、自動車をはじめとした製造業、流通・情報通信・外食など幅広い経済分野を取材している。

井出 光
井出 光

2023年4月までフジテレビ報道局経済部に所属。野村証券から記者を目指し転身。社会部(警視庁)、経済部で財務省、経済産業省、民間企業担当などを担当。