水素を作って、使って、親しむ未来の街とは。

浪江町の"水素社会"への挑戦

ミュージシャン・「LUNA SEA」SUGIZOさん:
震災で原発で最も被害の大きかった世界に対しては負の町だというイメージから、今度はエネルギーにおいて世界をリードするという立場に変貌していく様というのが、これほどドラマティックな場所はなかなかない。

この記事の画像(14枚)

先日行われたあるイベントで熱心に語るのは、人気ロックバンド「LUNA SEA」のメンバーで、ミュージシャンのSUGIZOさん。

すばらしい演奏を披露するステージのそばにはボンネットを開けた車があった。

太平洋を望む広大な敷地に設置された無数の太陽光パネル。
福島県浪江町にある太陽光を利用した世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」。

CO2を排出しないクリーンで低コストな水素の製造を目指して2年前に完成したこの施設。
燃料電池車や各地の水素ステーションへの供給のほか、去年からレースに参戦しているトヨタの水素エンジン車にもここで作られた水素が使われている。

この春には市民への水素エネルギーの普及を目的とした施設も完成するなど、水素社会の実現に向け町を挙げて取り組んでいる浪江町。

しかしなぜ、この町で「水素」なのか。

浪江町役場 産業振興課・小林直樹係長:
浪江町は東日本大震災と原子力発電所の事故で非常に大きなダメージを受けましたので、震災直後から原子力に依存しない町づくりを目指していきたいという思いが強くありました。

そこで浪江町が目を付けたのが未来の新エネルギー「水素」。
太陽光による水素製造施設をはじめ、町内の道の駅ではこの施設で作られた水素を使って発電し、照明やお湯を沸かすことに利用。

さらに敷地内に国内初のポケモン公園を開設するなど、水素を"作って・使って・親しんで"もらうための取り組みが進んでいる。

水素が当たり前に使われる社会に

そして先日行われたのがその名も「なみえ水素まつり」。
お目見えしたのは巨大な移動式の水素ステーション。

さらにキッチンカーは燃料電池で作った電気を使って飲み物を保温、冷蔵するなど燃料電池車の新たな使い方を提案している。

また、東京オリンピック・パラリンピックで使われた燃料電池車「MIRAI」も。浪江町の重機メーカーが買い取り、別の企業に貸し出すなどまさに官民を挙げて水素の普及に取り組んでいる。

この日行われたSUGIZOさんのライブの音響設備などもMIRAIで作られた電気で賄っている。

イベントの参加者:
今の電気と全く考え方が違うというところと、この先の未来を考えているところが、本当に先のことを考えなきゃいけないなと実感させられました。

脱炭素社会の到来、天然資源の高騰など、電力を取り巻く環境が大きく変化する中、エネルギー供給の新たな選択肢としても注目されている水素。

浪江町役場 産業振興課・小林直樹係長:
本当に様々な分野で水素が当たり前に使われる社会になっていかないといけないと思いますので、浪江町としてもほかの地域に真似されるような町を作っていければなと思っています。

欧州"ロシア依存"転換し水素代替も

三田友梨佳キャスター:
早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚さんに聞きます。
地球に優しい街づくり、どうご覧になりましたか?

早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:

浪江町は水素エネルギーの活用について 「原子力というエネルギーで被害を受けた浪江町は、 水素という新たなエネルギーで復興まちづくりを実現する」としていますが、 これは地域の挑戦であるとともに日本全体で取り組みを進めていく必要があります。

いまEVなど電気が注目されていますが、 火力発電ではCO2を出してしまう、太陽光もパネル設置でハゲ山にしてしまってはCO2を吸収してくれる森林を破壊してしまいますし、風力は騒音の問題があるので設置場所の問題がある。

一方、水素エネルギーは水素製造過程で炭素の回収ができ、火力や原子力に頼らずともクリーンなエネルギーを作り出すことができます。

三田キャスター:
クリーンな水素エネルギーが生産できるようになるとその活用もあわせて進めていく必要がありそうですね。

長内厚さん:
水素エネルギーはクリーンなエネルギーのゲームチェンジャーになる可能性があります。
自動車や船舶などの運輸だけでなく工場などでの活用が期待できます。

クルマに関していうと水素を充填する水素ステーションが必要ですが、ここには課題があり、全国にまだ156カ所しかなくて、まだ一カ所もない県もあります。

この建造のために政府、自治体も補助金や規制緩和などで支援していく必要があります。

三田キャスター:
日本が世界に先駆けて水素エネルギーの活用を進めて脱炭素社会の未来に貢献して欲しいですね。

長内厚さん:
日本は水素エネルギーの活用で先行していますが、世界の潮目も変わりました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、ヨーロッパはこれまでEV含めたエネルギー政策はロシアから安いLNGを買ってくることがベースにあったので、その戦略の見直しがヨーロッパで求められています。
なかでも水素を活用しようという動きはドイツなどでも出てきています。

具体的には浪江町にとどまらず、水素エネルギーの活用と開発を国を挙げて進めていき、この分野でトップランナーを目指していくことが大切だと思います。

三田キャスター:
世界に先駆けた水素社会実現のためにも浪江町のような地産地消がさらに広がっていくことが期待されます。

(「Live News α」4月19日放送分)