単独の巨大肖像画、金正恩館
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が2012年4月11日、朝鮮労働党のトップ「党第一書記」(当時)に就任して10年の節目を迎えた。
「敬愛する(金正恩)総書記同志は新たな並進路線を提示し、(中略)国家核兵力完成の歴史的大業を遂に実現した」
「敬愛する総書記同志の卓越した領導によって、社会主義国家政治制度の優越性と威力が比べものにならないほど強固になり、最悪の条件でも最強の国力を築く歴史的大業が完成した」
平壌で10日、就任10年を祝う中央報告大会が開かれ、会場には金総書記の巨大な肖像画が単独で掲げられた。朝鮮労働党の崔竜海(チェ・リョンヘ)政治局常務委員兼最高人民会議常任委員長が報告し、金総書記の10年間の業績をこう絶賛した。
この記事の画像(9枚)金総書記は2017年の「火星15型」発射の後、核・ミサイル開発の完了を意味する「核武力の完成」を宣言した。崔氏の発言は一連の核ミサイル開発を金総書記の最大の業績として称えたものだ。
さらに党機関紙「労働新聞」は11日付で、平壌中心部に位置する朝鮮革命博物館内に「金正恩館」が設けられ、金総書記の業績を示す800点あまりの資料が展示されたと報じた。金正恩館には「社会主義強国の建設から転換的局面を開いていくための闘争時期」として4つの展示室が設けられ、2016年5月に開かれた第7回党大会以降の5年間にわたる金総書記の「指導業績が集大成されている」という。
1号室には、同大会での金総書記の写真や古典的労作(著作物)、直筆の書類、黎明通り建設の模型などの資料が展示された。
2号室は北朝鮮の「防衛力を高め、有利な対外的環境づくりのために闘争した資料」が展示されており、「国家核武力建設の偉業完成」との表示の下、金総書記がICBMの発射を命じた直筆の命令書や、ミサイルの石碑などが飾られている。
また、「有利な対外的環境づくりのために闘争した資料」としてトランプ米大統領(当時)や習近平・中国国家主席らと会談した写真も確認できる。
3号室には「自力更生」のスローガンと共に経済面での成果、4号室には金総書記が米朝非核化交渉の決裂を受けて2019年12月に党の重要会議で提示した「正面突破戦」などの指導が展示されている。
さらに、金総書記のトップ推戴10周年を祝う記念切手も発行された。切手は赤地に金色の文字で「敬愛する金正恩同志が我が党と国家の最高水位に高く推戴された10周年慶祝」と書かれ、中央に笑顔の金正恩氏があしらわれている。
こうした金総書記の偶像化を示す宣伝扇動が強化されているのは、金総書記が祖父・金日成(キム・イルソン)主席、父・金正日(キム・ジョンイル)総書記と並ぶ指導者になったことを示すもので、今後、そのプロセスはいっそう加速しそうだ。
核実験か、弾道ミサイル発射か?
北朝鮮の記念日は4月に集中している。11日の金総書記のトップ就任10周年に続いて、13日は国防第一委員長就任10周年、そして15日には金日成主席生誕110年の節目を迎える。
北朝鮮は金日成主席の生誕110年を盛大に祝うとしており、北朝鮮がこれに合わせて7回目の核実験や、追加のICBM発射を強行する可能性が高いと見られている。
金総書記は2022年3月、国家宇宙開発局と西海衛星発射場を相次いで現地指導し、「軍事偵察衛星をはじめとする多目的衛星を多様な運搬ロケットで発射できるよう衛星発射場を現代的に改修、拡張」など「偵察衛星の開発と発射」を進めるよう指示した。北朝鮮はこれに先立ち、偵察衛星関連の「重要試験」と主張し、弾道ミサイルの試験発射も2回実施している。
このため、偵察衛星の打ち上げと称し、事実上のICBMの追加発射をする可能性が考えられる。ただ、過去の衛星打ち上げで北朝鮮は国際海事機構(IMO)や、国際民間航空機関(ICAO)に事前通告している。現段階でこうした動きがないとすれば、4月15日に合わせた衛星打ち上げは想定していないのかもしれない(もちろん通告なしで打ち上げる可能性もゼロではない)。
また、北朝鮮はすでに3月24日にICBM「火星17型」を発射して成功させたとしている。4月15日までに想定できる最大の成果が果たされているとすれば、可能性が高いのは第7回の核実験の方かもしれない。
ウクライナ情勢を利用
北朝鮮は2021年1月に国防発展5カ年計画を定めた。
その中核は次の五つだ。
(1)超大型核弾頭の生産
(2)1万5000キロ射程圏内の任意の戦略的対象を正確に打撃、掃滅する核先制および報復打撃能力の高度化
(3)極超音速滑空飛行戦闘部の開発導入
(4)水中及び地上固体エンジン大陸間弾道ロケットの開発
(5)核潜水艦と水中発射核戦略武器の保有
2022年に入ってからの11回にわたるミサイル発射は、この5カ年計画に沿って進められていると見られる。
北朝鮮はあくまで北朝鮮の計画に沿って核ミサイル開発の高度化を進めているわけだが、ウクライナ情勢の影響も見過ごせない。2017年の第6回核実験や、ICBM発射では、ロシアや中国も賛成して国連安全保障理事会(安保理)の制裁強化が決議された。しかし、3月24日に発射されたICBMについて、国連安保理は一致して批難声明を出すことができなかった。ロシアのウクライナ侵攻により、安保理が機能不全に陥っているためである。
米国が北朝鮮制裁に動いたとしても、中国やロシアが積極的に同調する状況ではない。北朝鮮がこの機に乗じて、必要な核開発を一気に進めてしまおうと考えてもおかしくはない状況だ。
平壌の金日成広場と美林飛行場一帯では、大規模な軍事パレードの準備が進められている。韓国軍関係者は11日、「数万人が集まって準備している。行事程度で群衆大会と表現すればよい」と述べ、パレードにICBMなどの大型兵器は登場しない可能性があることを示唆した。北朝鮮がどのような形で武力挑発を強行するのか。目が離せない状況が続く。
(執筆:フジテレビ客員解説委員 鴨下ひろみ)