「15、16歳の頃にリクルートをして、アイドル活動、ユーチューバーの活動をさせて、18歳の誕生日になったとたんにAVに撮影させたという事案もありました」

国会議員に被害の実態を説明していたのは、AV(アダルトビデオ)など性産業に関わったことで悩みを抱えた人を支援する団体「ぱっぷす」の理事長を務める金尻カズナ氏だ。18歳高校生のAVの出演が実質的に“解禁”され、性の搾取の被害が拡大するとして警鐘を鳴らす。

成人年齢引き下げで状況一変

これまでAVの出演は、18歳未満であれば児童ポルノ禁止法で認められず、18歳・19歳については、親などの同意のない契約を取り消すことのできる民法の「未成年者取消権」を行使することで取り消すことが出来た。

しかし、4月1日を境に状況は一変する。成人年齢の引き下げにより、“18歳の大人“が誕生することで、18歳になれば親などの同意を得なくても契約を結ぶことが可能となったのだ。

「ぱっぷす」によると、AVの出演に関連した被害相談の数は、

▲2019年度が76件(20歳未満13件)

▲2020年度が90件(20歳未満6件)

▲2021年度が81件(20歳未満が20件)

20歳未満の相談数が1~2割程度に抑えられていることについて、金尻氏は、「未成年者取消権が抑止力になっていたことに加えて、弁護士を立てなくても、取消権を使えば容易に解決することができたことが大きい」と話す。

“泣き寝入り”を懸念

3月30日、金尻氏らが議員に手渡した要望書では、「成人年齢が18歳に引き下げられることにより、被害者であることの立証責任が求められます。しかし、加害者の脅しは電話や対面であり、文章など効力のある証拠が残りません」と指摘。「加害者にとっての外形的な証拠がそろっているので、裁判所に仮処分を申し立てても認められることはまずありません。現在20歳以上の被害者であっても“立証困難”なのに、18歳・19歳であれば泣き寝入りを余儀なくされることは明らか」として被害者の救済制度を創設するよう求めた。

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この問題に取り組む立憲民主党の山井和則議員は、「18歳・19歳のAV出演強要の被害者も増えると思うが、それ以上に深刻なのは、高校生あるいは子どもを狙った性暴力、性犯罪が増える可能性があることだ。決して他人事ではない」と危機感を募らせている。

国会で連日議論に 政治が出来る対策は

国会では連日この問題が取り上げられている。3月28日の参院決算委では、岸田文雄首相は「教育啓発を進めると同時に、民法など様々な法律を適切に適用することによって、しっかり対応していく」と話し、「法律の中で最大限やれることは追求する」と強調した。また、3月31日の本会議では「超党派でご議論いただいている立法措置の内容、議論の状況をしっかりとフォローアップしたうえで、政府としての対応を検討していきたいと考えている」と述べた。

与野党は、現在、AVの契約について18歳・19歳が取り消し権を行使することが出来るようにする議員立法について協議を行っている。中心メンバーの一人でもある山井議員は「協議の中では、20歳以上の人への対応も必要だという声もある。もちろん、その方が良いに決まっている。でも今は大急ぎで成人年齢引き下げで出来た穴を埋めないといけない。被害者が出てからでは遅い」として“政治判断“が必要だと強調した。

(フジテレビ政治部・野党担当 原 佑輔)

原 佑輔
原 佑輔

関西テレビ・東京駐在記者、フジテレビ政治部で野党担当。1986年愛知県生まれ。立命館大学卒業後、2009年関西テレビ入社。大阪府警、行政(大阪府・市)、大阪地検特捜部などの担当、京都支局長を経て現職。

政治部
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