長期化するキエフ市民の生活は限界に達し、地下での避難生活が余儀なくされています。

そうした中で、「地下で生活を送る一般市民」に大きな被害をもたらす可能性が浮かび上がってきました。

“地下鉄車両のイス”で眠る人も…半分は高齢者

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駅のホームで布団などを敷いて、避難生活を送る多くの人たち。これは3月28日に撮影されたウクライナの首都・キエフにある地下鉄の駅構内の様子です。

今、キエフに残る人たちの多くは、ロシア軍からの砲撃などから身を守るため、こうした地下での避難生活を余儀なくされているのです。1カ月以上続くロシアによるウクライナ侵攻により、平和で安心な我が家での暮らしから一変した地下での生活。

キエフ在住 高垣典哉さん
外に出たら本当にね、爆弾の音がするので、やっぱり怖いんでしょうね。もうほとんどは地下鉄の中で暮らしていますよ。もう普段の生活を奪われてしまって…

そう話すのは、今もキエフに暮らす日本人・高垣典哉さん。

3月28日、高垣さんはボランティアで食料を配布するために地下鉄構内を訪れました。

ここでは、多くの人がホームに布団を敷き、中には、停まっている電車の車両のいすに、横になり、眠っている人も居ます。他の地下鉄の駅構内でも、同じように布団や、テントを張って多くの人が生活しています。その中には小さな子供や高齢者の姿もありました。

キエフ在住 高垣典哉さん
ほとんどがお年寄りじゃないかな。半分ぐらいはお年寄りですね。ちょっと本当にかわいそうなんですけど、低所得者の人が多いですよね。みんな栄養失調になるんじゃないんですか

特に低所得者には厳しい状態だといいます。さらに、この地下の特徴は“駅の深さ”にあるといいます。

深さ「マンション35階分」“非日常”を忘れられる空間に…

高垣さんが撮影していた場所は深さ69m。さらに、世界で最も深いレベルにある「アルセナーリナ駅」では、地上から駅のホームまで着くまでおよそ4分20秒かかり、その深さは105.5m。マンションでいうと35階分に相当し、93mあるニューヨークの自由の女神がすっぽり入ってしまうくらいの深さなのです。

一方で、日本で最も深い東京の地下鉄・大江戸線の六本木駅は42.3m。それと比べ、2.5倍の深さがあるキエフの地下鉄は、かなり深く掘られていることが分かります。

この“深さ”が、ロシア軍からの砲弾の音を遮断。地上で起きている“非日常”を忘れられる空間だといいます。

では、そもそもなぜキエフの地下鉄はこんなに地下深くにあるのでしょうか?

ソ連時代の“核シェルター” 「市民への直接的な攻撃あり得る」

軍事ジャーナリストの井上和彦氏によると…

軍事ジャーナリスト 井上和彦氏:
キエフの地下鉄っていうのはソ連時代にそもそも作られたもので、核戦争の危機のいわゆる核シェルター、市民が退避する核シェルターの役目を持っていたということで、地中深く掘られているんですね。

ソ連時代に作られた核シェルターの役目を兼ねた地下鉄。いまそこでウクライナの市民が生活しているのです。空襲の音がなるべく耳に入らないということや、落ち着いて就寝できるということで、市民が駅に移動しています。さらに、生物・化学兵器や核の攻撃も地上からなら被害が少ないという面でも駅への避難の要因になっているといいます。

しかし今、この地下深くの避難生活さえ脅かされる恐れが出てきました。海外メディアは、イギリスの情報筋によると、ロシア軍が化学兵器を扱う部隊をウクライナ領内に投入したとみられることが分かったと報道。これが、「地下で生活を送る一般市民」に大きな被害をもたらす可能性があるというのです。

非常に大きな被害が心配されるのは、非常用の出口がないことで、例えば駅構内に生物・化学兵器を放り込まれた場合に、より被害が大きくなってしまうのではないかということです。

地下鉄のシェルターでは、入り口に警備を配置して、撮影には申請が必要といった対策をとっていますが、実際地下シェルターにいる市民への直接的な攻撃というのはあり得るのでしょうか?

ロシア政治に詳しい筑波大学の中村逸郎教授に話を聞きました。

筑波大学 中村逸郎教授
市民への直接的な攻撃は考えられますね。市民たちも少しはゆっくり寝られるところで、地下鉄のプラットホーム、非常に広いんですね。ですから、皆さん夜はここで寝たいということで、沢山の皆さんが来るんですけども、そこに逆にロシア軍が地下鉄を狙ったりすると、非常に大惨事になるということですね。ソ連時代は、この地下鉄自体撮影が禁止だったんですよ。つまり、核戦争が起こったときのシェルターというので、国家機密ということもあって、撮影が出来なかったんですね

地下鉄のシェルターの安全性が必ずしも確かではないことを指摘しました。

(「めざまし8」3月29日放送より)