約7億6000万円、 これは福岡県警が発表した2021年のニセ電話詐欺の被害額だ。被害者の大部分は高齢者が占めているが、機転を利かせた「だまされたフリ作戦」で見事、犯人を撃退した91歳の男性がいる。
足立良次さん:
最初は買い物の話だったのが、いつのまにか銀行の預金の話になってる
穏やかな口調で当時を振り返るのは、福岡県春日市に住む足立良次さん(91)。

事の始まりは2021年10月。足立さんの自宅に「一本の電話」がかかってきた。
電話の男:
あなたのカードで高額商品が購入されている

足立良次さん:
外出もしないし記憶ないんだけど、だから、これはもう詐欺だな(と思った)。何とか逮捕して、捕まえてやりたいなと
不審な電話に”だまされたフリ” 警察到着まで時間稼ぎも
家電量販店の店員を名乗る男に違和感を覚えた足立さんは、一度電話が切れた隙を見計らって110番通報。

警察の了承を得て、ある作戦を実行に移した。その作戦こそ「だまされたフリ作戦」だった。
足立良次さん:
ボケ気味の態度をとった方が、うまくいくだろうと。相手は私がボケて、何も分からんようになってると思ってるから、勝手放題に次々と話を進めていくわけ

続いて電話を掛けてきたのは、警察官を装った男だった。刑事2課のクロカワと名乗ったという。
電話の男:
銀行の口座から50万円おろされているのを確認しました。通帳とキャッシュカードを証拠品として預からせていただきます

ここで、警察官を装った偽者が自宅まで来ると見抜いた足立さん。本物の警察官が駆けつけるまで時間を稼いだ。

足立良次さん:
(不正に使われてるなら)キャッシュカードを切るよって言いながら、動かしながらしゃべるのよ。そしたら、しゃべりもそれらしくいくでしょ
さらに、電話の子機を利用した時間稼ぎも試した。
足立良次さん:
これ(受話器)コードがないよ。これコードがないから、電気消えるよって。そしたら電話は大丈夫ですから、電話機を外さんでくださいと

電話から1時間半後。
足立良次さん:
(本物の警察官が)ここに待機、向こうに待機、両側から回れるようにしてね。(訪ねてきた犯人は)それこそ何が起こったか分からなかったと思うよ

通帳とキャッシュカードを受け取りにやってきた26歳の男は、待ち受けた警察官に捕らえられ、あっという間に御用となった。
表彰に「今度は別の役で」 被害は後を絶たず
この功績を認められた足立さんは、うれしいご褒美をもらった。
大切に保管していたのは2枚の表彰状。お手柄をたたえられ、春日市長と春日警察署長から表彰を受けたのだ。

足立良次さん:
今度はボケ役じゃなくて、別の役でやってやろうかなと思ってるけど
しかし、誰もが足立さんのように振る舞えるわけではない。ニセ電話詐欺の被害は日に日に深刻化していて、県警の発表によると2021年の被害額は約7億6000万円にも上り、2020年の2倍近くになっている。

そのうち、被害者の実に9割近くは65歳以上が占めている。

自分がだまされることはない…。そうした油断が被害につながると、足立さんは注意を呼びかける。
足立良次さん:
ちょっと落ち着いて考えれば、おかしいってことはいっぱいある。気づいたときに立ち止まるとか、受話器を置くとか。電話を切るとかいう行動をとれば、被害に遭わないのじゃないかなと

今回はだまされたフリ作戦で撃退できたが、被害は後を絶たない状況だ。2022年も1月末時点で、すでに1億6283万円の被害が出ているという。
(テレビ西日本)