自民・公明両党の幹部が政府に申し入れた年金生活者らへの5000円程度の臨時支給への批判が収まらない。

FNNがこの週末に実施した世論調査では「支給すべきでない」が54.5%と「支給すべき」の41.2%を上回る結果となった。

年金減額分を給付金で穴埋め

事の発端は、3月15日の午後。自公両党の幹事長・政調会長4人が首相官邸を訪れ、新型コロナの感染拡大の影響で受給額が減る年金生活者に、一律5000円を給付する案を岸田首相に要請した。これを求めた背景には、「年金額の減少」と「賃上げ」がある。

申し入れ後取材に応じる自公幹部(15日)
申し入れ後取材に応じる自公幹部(15日)
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年金支給額は現役世代の賃金動向と連動しており、新型コロナ感染拡大の影響で現役世代の賃金が減少したため、年金の額は新年度となる次の4月から0.4%減額される予定となっている。一方で現役世代については、今後の賃上げに向けた取り組みによって、コロナ禍での賃金減少が緩和される可能性がある。しかし、年金生活者にはこの賃上げの直接的な恩恵は及ばない。こうしたことを踏まえて、年金の減額分を給付金で穴埋めしようというのが、今回の発想だ。

バラマキ批判が殺到

ところが、この「5000円給付案」が報道されると、インターネットなどで「高齢者のみ優遇して不公平」などの批判が殺到。国会でも17日の参院予算委員会で立憲民主党の蓮舫議員が「なんで高齢者だけなのか。7月は参院選なので、これを選挙目当てと言うのではないか」と岸田首相に迫った。岸田首相は「物価をはじめ、様々な状況をしっかり見た上で、政府として検討をしたい」と返したが、蓮舫氏は「検討に値しないと思う」と切り捨てた。

与党内からも「参院選前にバラマキモードに入った」(与党関係者)、「この政策は愚の骨頂」(自民党幹部経験者)と批判の声があがった。

「これを選挙目当てと言うのではないか」立憲・蓮舫議員(17日参院予算委員会)
「これを選挙目当てと言うのではないか」立憲・蓮舫議員(17日参院予算委員会)

批判予想される中でなぜ提案

こうした「バラマキ批判」について十分予想できた中、なぜ与党は給付案を打ち出したのか。ある与党関係者は「公明への選挙対策のお土産だ」と指摘する。

複数の関係者によると、今回の給付案は自民党の提案に、公明が同調した形だという。公明党幹部も「うちは自民党の茂木幹事長の提案に合わせただけだ」と話す。

今年に入って、自公両党は参院選をめぐる「相互推薦」などの選挙協力で“隙間風”が指摘されていた。一方で、13日に行われた自民党大会で公明党の山口代表が「あらゆる選挙区の状況を確認しながら、結果の伴う歩みを進める」と述べるなど、「隙間」の修復を図ってきた。

公明・山口代表(13日)
公明・山口代表(13日)

こうした経緯があったため、今回の「5000円給付案」の狙いについて「これでうちと手打ちしたかったのだろう」(公明党幹部)との見方が出ている。一方で、公明党内からは「5000円という額は少ないと正直思ったが、注文を付けないほうが良いと思った。うちが注文すれば深く関係することになるから、しないように向こう側が言ってきた通りにした」との声も聞かれており、給付案についての批判は事前に予想していたようだ。

止まらぬ批判・・・異例の“差し戻し”も

さらに自民党内から事前に党内議論がなかったことを巡り「あの案はひどい。やっちゃ駄目だよ。議論もしていないし」(自民重鎮)など不満が出始める中、「評判が悪ければ、一度下げて、経済対策で盛り込めばいい」(自民党幹部)と事実上の方針転換を示唆する声が上がる。

公明党の石井幹事長も会見で「様々な批判があることは承知している」とした上で「今回の対策も総合的な対策の一部という位置づけだから、年金支給者だけに対応して他の人にはやらないのかということではなく、多くの方に波及するような追加経済対策も考えている」と追加の対策を打ち出すことで「5000円給付案」をその中の一つとして位置づける考えを示した。「高齢者優遇」による不公平批判を避ける狙いがあるとみられる。

政府関係者は「党内に差し戻して議論する方向性になる」と解説し、永田町内外から批判が高まる給付のあり方を巡って、党内で再検討される見込みだ。

一部の層への給付金は、その度に不公平批判が起きてきた。特に今回は、ロシアによるウクライナ侵攻で、物価高に拍車がかかる恐れがあるため、実感できる賃上げが出来なければ、不公平感が増大する恐れもある。また「毎月ならまだしも1回だけの給付に意味があるのか」という指摘もある。

政府与党の難しい舵取りが迫られそうだ。

(フジテレビ政治部)

政治部
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