“睡眠休養感”という言葉をご存知だろうか? 朝の目覚めの時に得られる休まった感覚のことだ。

この睡眠休養感に関する調査で、働き盛り世代の「睡眠休養感のない短い睡眠時間(331分未満)」の人は「睡眠休養感のある中間の睡眠時間(331分以上~414分未満)」の人に比べ、死亡リスクが1.5倍高いことがわかった。

これは、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)、日本大学、埼玉県立大学の研究グループによって公表されたものだ。アメリカに住む40歳以上の約6000人の健康状態を平均約11年に渡り追跡したデータを用いて、睡眠休養感、客観的な睡眠時間、死亡リスクの関係を、働き盛り世代(40歳以上65歳未満)と高齢世代(65歳以上)に分けてそれぞれ調査。

その際、1回の睡眠時間を「短い睡眠時間(331分未満)」「中間睡眠時間(331分以上414分未満)」「長い睡眠時間(414分以上)」の3段階に分けて分析した。

“睡眠休養感のない短い睡眠時間”は死亡リスクが高い

その結果、働き盛り世代(40歳以上65歳未満)では、「睡眠休養感のない短い睡眠時間」の人は「睡眠休養感のある中間の睡眠時間」の人に比べて死亡リスクが約1.5倍高く、「睡眠休養感のある長い睡眠時間」の人は、「睡眠休養感のある中間の睡眠時間」の人に比べ、死亡リスクが低いことがわかった。

働き盛り世代における睡眠休養感、睡眠時間、および総死亡リスクの関係 (画像提供:国立精神・神経医療研究センター)
働き盛り世代における睡眠休養感、睡眠時間、および総死亡リスクの関係 (画像提供:国立精神・神経医療研究センター)
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一方、高齢世代(65歳以上)では、床上時間(睡眠をとるために寝床で過ごした時間の長さ)が長いと死亡のリスクが高く、「睡眠休養感のない長い床上時間」の人は、「睡眠休養感のある中間の床上時間」の人と比べ、死亡のリスクは約1.6倍高かった。

高齢世代における睡眠休養感、床上時間、および総死亡リスクの関係 (画像提供:国立精神・神経医療研究センター)
高齢世代における睡眠休養感、床上時間、および総死亡リスクの関係 (画像提供:国立精神・神経医療研究センター)

一般的に、健康維持に必要な睡眠はおよそ6~9時間だと言われているが、こうした結果を見ると、単に“どれだけ寝たか?”の時間だけでなく、睡眠休養感も非常に重要なようだ。

では、私たちはこれを踏まえてどんな睡眠を心掛けるべきなのか? また、この結果は今後どう生かされていくのか?

研究グループのメンバーである国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所、睡眠・覚醒障害研究部の精神生理機能研究室長、吉池卓也氏に詳しく話を聞いてみた。

高齢者は床の上で長く過ごすことは、将来の健康をむしろ損なう

――この研究結果のどこがすごい?

これまでの疫学研究では、主観的な睡眠時間と寿命・疾病発症との関係を調査した結果、短すぎる睡眠と長すぎる睡眠のいずれも将来の健康に悪影響を及ぼし、寿命が短くなると報告されていました。しかし、本来回復を促すはずの睡眠が長いことがなぜ健康を害するのかは不明でした。

今回の研究結果から、睡眠時間を客観的な方法で評価すると、短い睡眠が将来の健康を損ない、寿命を短縮させることに関しては一致したのに対して、長い睡眠はこれまでの研究とは対照的に将来の健康をむしろ促す結果が得られました。特に、この関係は働き盛り世代で明白でした。この年代の方々は仕事や育児などの活動に多くの時間を費やす結果として慢性的な睡眠不足に陥りやすいと考えると、わかりやすい結果です。
さらに、睡眠休養感を考慮すると、短い睡眠で睡眠休養感がない場合に危険因子となり、長い睡眠で睡眠休養感がある場合には保護因子となることがわかりました。

他方で、高齢者では睡眠時間自体は将来の健康と直接的に関連せず、床の上で(生理的な必要性を超えて)長く過ごすことは、将来の健康をむしろ損なうことがわかりました。同じだけ床の上で過ごした場合でも、睡眠休養感がない場合に危険因子となることもわかりました。これらの結果は、主観的な睡眠時間を用いて調査した疫学研究で示されていた、長すぎる睡眠と健康リスク増加の関係の一部を説明しうるものです。

このように、世代によって適切な睡眠のあり方が違う可能性を示した点でも新規性があります。


――研究の対象が、アメリカ在住者なのはなぜ?

睡眠休養感が私たちの将来の健康に影響するかを検討するには、様々な年齢層の方々の健康状態を長期にわたり追跡する必要があります。私たちは限られた研究期間・コストの中で一つの答えを得るために、米国睡眠研究資料(National Sleep Research Resource)と呼ばれる公開データベースからこの目的に適う研究(Sleep Heart Health Study: SHHS)のデータを抽出しました。

本データセットは、主観的な睡眠時間や睡眠休養感とともに、携帯型脳波計を用いて自宅で客観的睡眠量を計測したデータを含む、大変貴重なものであり、一から同等のデータを採集するためには長い年月とコストがかかります。


――今後、日本で研究を行う予定はある?

将来的に日本人を対象とした研究において睡眠休養感の健康指標としての意義を確認する必要があると考えています。他方で、日本で同等規模の研究を実施するためには、多大なコストがかかります。

※イメージ
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休養感に着目し、睡眠の良し悪しを考える

――睡眠時間が短くても、本人がよく眠れたと感じれば睡眠休養感はあるということ?

睡眠休養感の有無そのものは主観的に判断されますが、睡眠の主観的評価と客観的評価にはズレが生じることも稀ではありません。主観的な睡眠休養感と客観的な睡眠量の両面から睡眠を評価することで、生理的な必要性に見合った睡眠が取れているかをより適切に見積もることができると考えられます。


――高齢世代は眠れない時は、無理に横にならないほうが良い?

高齢世代の方であれば、時間にゆとりがあってもあまりに長く床の上で過ごすことには注意が必要です。年齢とともに生理的に必要な睡眠量が低下することを理解したうえで、適切な睡眠スケジュールを保つことが重要と考えられます。


――私たちはどんな睡眠を心掛けると良いの?

私たち人間は活動によって蓄積した疲労を回復するために、床に入って睡眠をとり、眠りから覚めると休まった感覚(睡眠休養感)を得ます。これまでは、睡眠の長さに焦点が当てられてきましたが、私たちの研究結果から、睡眠時間の長さのみならず、床の上で過ごす時間の長さ、これに伴う休養感にも着目し、これらのバランスで睡眠の良し悪しを考えることが健康管理上重要となることが示唆されます。

睡眠休養感を尋ねることで、健康障害リスクを評価

――この結果はどう生かされていく?

睡眠時間は最もわかりやすい簡便な睡眠の量的指標である一方で、自身が眠っていた時間を正確に評価することは困難であることが分かっています。また、睡眠時間の長さと床の上で過ごした時間の長さを区別することも意外に難しいことです。このために、近年開発が活発に進められている、簡便に客観的な睡眠時間・床上時間を計測可能なウェアラブルデバイスの正確性をより高め、健康維持のために活用できるよう普及を促すことが求められると思います。

さらに、睡眠休養感は睡眠時間を補う指標となる可能性があり、客観的な睡眠時間・床上時間と併せて評価することで将来の健康リスクをより適切に見積もることが可能となると考えられます。


――健康診断などではどう生かすべき?

厚生労働省が毎年実施している国民健康・栄養調査では、睡眠時間を調査項目として用いていますが、睡眠休養感を併せて尋ねることで、国民の健康増進により役立てることができます。さらに、健康診査(健診)などの際に、習慣的な睡眠時間とともに睡眠休養感を尋ねることで、個人における睡眠による健康障害リスクを評価することもできると思われます。

我々は、健診などの機会に、睡眠休養感の調査に加えて簡易脳波計・ウェアラブルデバイス等による簡便な客観的睡眠測定を追加することでより健康維持・増進に役立てることが可能かどうかを評価する研究を始めました。


睡眠で大事なのが、「時間」だけでなく「睡眠休養感」にもあったことが明らかとなった今回の研究結果。特に働き盛り世代の人は、忙しくて睡眠時間が少なくなりがちかもしれないが、睡眠休養感も意識してほしい。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。