「救急車が遅くてイライラ…そんな経験はありませんか?」

このようなコメントを、静岡県の袋井市森町広域行政組合袋井消防本部がTwitterに投稿をして、大きな注目を集めている。ツイートには緊急走行中の救急車内を収めた動画もあり、ゆっくり走らなければならない理由がよくわかるのだ。

緊急走行中の救急車が遅くてイライラ…
そんな経験はありませんか?
車内では傷病者の負担を減らすため運転手は救急車を揺らさないよう、手に汗を感じながらハンドルを握り道路の凹凸や車にも注意しながらペダルを踏んでいます。
ご理解ご協力お願いします。

動画では「救急車はとにかく揺れます」とのテロップとともに、車内のストレッチャーに横たわった人が、救急車の走行中に体が浮き上がるほどの衝撃を受ける様子が映し出される。

(袋井市森町広域行政組合袋井消防本部のTwitter公式アカウントより)
(袋井市森町広域行政組合袋井消防本部のTwitter公式アカウントより)
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続けて「揺れる車内での処置」として、AED(電気ショック)や注射、喉に管を入れるなど、命を守るため様々な処置をとっていることを紹介。血管などピンポイントな場所を狙っての処置を揺れる中で行うのは大変なことだろう。

(袋井市森町広域行政組合袋井消防本部のTwitter公式アカウントより)
(袋井市森町広域行政組合袋井消防本部のTwitter公式アカウントより)

また動画では「揺らしてはいけない症状」も解説。くも膜下出血や骨折している人を揺らさないのはもちろんだが、低体温やめまい、嘔吐している人も該当するというのだ。

(袋井市森町広域行政組合袋井消防本部のTwitter公式アカウントより)
(袋井市森町広域行政組合袋井消防本部のTwitter公式アカウントより)

一刻を争う救急車は「揺らしてはいけない症状」の人を運ぶことが多々ある。そんなときにハンドルを握る機関員(運転手)は、道路の凹凸や車両に細心の注意を払い、できるだけ揺れないよう運転しているとのことだった。

(袋井市森町広域行政組合袋井消防本部のTwitter公式アカウントより
(袋井市森町広域行政組合袋井消防本部のTwitter公式アカウントより

実際に乗る機会はそこまで多くないであろう救急車の車内の様子を再現したこの動画が公開されるとたちまち、多くのユーザーの話題になり、動画は約54万回再生され、いいねは2万4000がついている。(3月17日現在)

ちなみに編集部では以前、消防署のサイレンにクレームが寄せられた話題をお伝えした。

参考記事(熊谷市のお昼のサイレン「苦情」で中止!? 来年から鳴らさない本当の理由を聞いてみた

早く走行してほしいと感じる運転手もいると考え投稿

今回のTwitterへの投稿は、もしかしたら救急車がゆっくり走ることへの苦情があったということなのだろうか? また、この動画のように体が浮き上がるような道路状況というのは多いのだろうか?

袋井市森町広域行政組合袋井消防本部の担当者に聞いてみた。

――なぜ動画を公開しようと思った?

緊急走行中の救急車に早く走行してほしいと感じる運転手の方がいるのではと考え、理解を
求めるために動画を公開しました。


――動画作りでこだわったポイントを教えて

まず動画の冒頭2秒で人々を惹きつけることが大切だと考えました。そして、分かりやすく伝えるにはどのような構成がいいかといったことを考え、動画を作成しました。皆さんが外から見る救急車と比較して、車内の様子を伝えることにこだわりました。


――救急車が“ゆっくり走る”時はどれくらいのスピードなの?

ゆっくり走行するときの速度は決められていません。車内の処置によっては、一時停止する場合や起伏の大きな道路では徐行する場合もあります。ちなみに緊急走行時の制限速度は高速道路で100㎞/h、一般道路で80㎞/h と道路交通法で規定されています。

動画内の走行は、管内でも特に起伏の大きな道路

――サイレンは“ゆっくり走る時”も鳴らすの?

サイレンを吹鳴することが、緊急自動車の要件の1つとなっているため、ゆっくり走る場合でも、サイレンを止めることはありません。

ちなみに、サイレンの吹鳴や赤色灯の点灯のいずれかを忘れた状態であると、緊急自動車に該当せず様々な道路交通法の特例が認められません。


――“ゆっくり走る”ことで苦情を寄せられたことはある?

当消防本部へ遅い救急車に対して直接クレームを受けたことはありません。また、走行中にクラクションを鳴らされたり、煽られたりしたこともありません。


――動画では車内がとても揺れていた。普段の走行でもあのような状況は多いの?

動画で再現した走行は、管内でも特に起伏の大きな道路になります。起伏の大きな道路を通常の速度で走行すると動画のように揺れは大きくなります。道路の起伏の大きさと走行速度により揺れは変わり、高速道路の継ぎ目や道路のわだちなどでも救急車は揺れます。

最新車両では「スイング式架台」など揺れない装備も

――救急車自体に揺れを抑える工夫は?

車両本体は、前輪は「ダブルウイッシュボーン式トーションバースプリング」、後輪は「車軸式半楕円板ばね」が使用されています。

車内の傷病者を収容する部分には、防振ベッドを採用しており、最新の車両では、前後加速による揺れを吸収し、加速・減速時の不快感を減らすスイング式の架台や、磁気ダンパー・空気バネを使用する事で傷病者への振動を出来る限り吸収する事ができるよう改良されています。

画像はイメージ
画像はイメージ

――「低体温」「嘔吐」「めまい」は、なぜ揺らしてはいけない?

低体温症は心臓に負担がかかりやすく、致死性不整脈を生じやすいので体位変換は愛護的に行うよう示されています。そのため、激しく揺らさないよう気をつけています。

めまい、嘔吐、嘔気では激しく揺らすことで症状を悪化させてしまいます。特にめまいでは頭部を安静に保つように示されています。


――動画を公開した反響は?

業務で反響を感じることはありませんが、SNSでは多くの反響を頂いています。これだけ多くの反響は嬉しく思いますが、逆に住民の消防業務への期待度も高いことを改めて認識することになりました。

サイレンを鳴らしながらゆっくり走る救急車には、傷病者の負担を減らすという理由があった。もしこのような状況を見かけたら、イライラせずに「車体を揺らさないよう気をつけている」ことを思い出してほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。