「日本には『困った時はお互いさま』という言葉がある。政府としてもこの精神で、ウクライナからの避難民を積極的に受け入れていく」

岸田首相は3月16日夜の記者会見でこう述べ、ウクライナ避難民を受け入れていく姿勢をあらためて強調した。一方学びの場でも、ウクライナの学生を受け入れるなど動きが出ている。3月末をめどに70名の学生を受け入れる日本経済大学を取材した。
ウクライナから留学生3人が来日
福岡県にある日本経済大学では、2020年からウクライナのキエフ国立言語大学と学術交流提携を結んでいる。15日には2021年末より予定していた他大学も含む交換留学生3人が来日した。
日本経済大学学長の都築明寿香氏はこう語る。
「当初の予定がコロナで遅れたところにロシアのウクライナ侵攻が始まって、学生には『保護者とよく話し合って最終決断をしてください』と伝えました。そして『行きます』という返事があったので、もともと学費は免除だったのに加えて寮費なども免除して、避難民学生として対応させて頂きますと伝えました」
羽田空港に都築氏が迎えに行くと、3人の荷物がとても少ないことに驚いたという。
「彼女たちが避難先から来たことを実感しました。現地のことや家族のことはあえて触れずに、日常的な話をするようにしました」

男子学生は徴兵されるので出国できない
現在キエフ国立言語大学では200人の学生が日本語を勉強していて、そのうち70人が現在訪日ビザを申請している。都築氏はこう続ける。
「遅くても来週中にはビザがおりるので、25日から来日する予定です。年齢は17歳から25歳ぐらいまでで、ほとんど女子学生です。男子は国民総動員令で徴兵されるので出国できませんが、ウクライナでは17歳で大学生になれて、徴兵の対象は18歳からなので17歳の男子学生は数名来日予定です」
都築氏は大学の先生にも「よかったら学生と一緒に避難しませんか」と呼びかけた。
しかしある先生は「夫が徴兵でウクライナに残るので、自分と子どもだけで日本に避難することはできない」と断ったという。

子どもを日本で学び続けさせるのは希望
70人の学生はまだ7割がウクライナ国内に留まっている。
「皆が無事日本にたどり着けることを願うばかりです。もっと多くの学生が避難したかったと思いますが、渡航費が無い学生もいます。私たちは来日してからは支援できますが、現地では渡航費を渡す術がないのでそれぞれ工面してもらうしかないのです」
日本経済大学では今後もウクライナから避難民学生の受け入れを続けるつもりだ。
「親にとって子どもを安全な日本に送り出し、学びを続けさせるのは希望だと思います。ある男子学生からは『自分は留学したいけど、戦わなければいけません。でもこういう明るい話を届けてくれて、ありがとうございます』と言われました。学生たちは今後1年にわたって日本で学び、その後は母国に戻るのか、または日本で学び続けるか、就労するかを選択することになります。私たちはどの選択をするにしても、学生を100%サポートしていこうと思っています」
軍事侵攻始まりホストファミリーに連絡
東京外国語大学4年生の山﨑有紗さんは、2020年7月まで1年間ウクライナのキエフ国立大学に留学していた。ロシアの侵攻に心を痛めた山﨑さんは、ウクライナに平和の祈りを届けたいと#SunflowerFromJapanというプロジェクトを始めた。
このプロジェクトでは「#SunflowerFromJapan」「#PrayForUkraine」のハッシュタグとともに、ウクライナの国花であるひまわりの絵をSNSに投稿してほしいと呼びかけている。
山﨑さんは語る。
「キエフ国立大学に留学したのは、旧ソ連地域で人道支援に将来携わりたいという思いがあったからです。2月24日にロシアによる軍事侵攻が始まり、驚きと同時にお世話になった人たちが心配で、ホストファミリーや友人、大学の先生たちにすぐに連絡しました。返事はすぐ来たのですが、何もできない辛い日々が続きました」

ウクライナ人留学生「無関心がとても怖い」
このような中、山﨑さんは留学を支援してくれた仲間らと何ができるのか議論した。
そして議論に参加した在日ウクライナ人留学生から、「遠い日本から応援があるというのはウクライナ人にとって励みになる。無関心がとても怖い」「物理的な支援はもちろんだけど、傷ついている人たちが多くいて精神的なサポートが必要だ」と言われ、このプロジェクトは「やる意味がある」と確信したという。
山﨑さんによると、15日現在で2600件以上のハッシュタグがあり、ツイッターでも1100件以上リツイートされている。
「現地のホストファミリーは、私のSNSの投稿をシェアして、『日本から有紗が応援してくれています。ありがとう』と投稿してくれたり、同世代の子たちからは『すごく嬉しい。気にかけてくれて、本当にありがとう』というようなメッセージをたくさんいただいています」

避難民がPCR陽性判定で来日できず
3月14日には山﨑さんがホストファミリーと住んでいたアパートからわずか3.9キロの地区が攻撃された。
「SNSで見た時にゾッとして。まさかと思って、すぐにあの連絡したら『離れているから、大丈夫だ』と言うのですが、やはりショックでした」

大学のクラスメートだったウクライナ人の女子学生は、日本に避難しようといまワルシャワで待機している。
「本当は16日の便で成田空港に到着する予定だったのですが、来日できなくなりました。日本はPCR検査で72時間以内の陰性証明が必要ですが、陽性判定が出てしまったのです」

戦火から逃れる人々に対してPCR検査の結果次第で国境を閉じるのは、物事の順序が違うのではないか。まずは避難を優先させ、入国してから隔離・治療することはできないのか。
岸田首相の「困った時はお互いさま」の言葉の本気度がいま試されている。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】