「キエフの地下鉄でスパイを確保。子どものおもちゃに弾薬を隠していた」

ウクライナメディアがこう報じたのは、ロシアのスパイを確保したということ。2月末には、1回目の停戦協議に参加したウクライナ側の代表団の1人が射殺されたと報じられていますが、イギリスのミラー紙によると、ロシアのスパイだったとしています。

今もウクライナで暗躍している可能性があるとされる、ロシアのスパイ。めざまし8は、アメリカの元CIA諜報員と日本の元警視庁公安部外事警察の人物を取材。戦地でどのような活動をしているとみられるのかを聞いた。

ウクライナ軍に潜伏、細かな情報まで把握?

元CIA諜報員 ジョン・サイファー氏:
プーチン大統領は元KGBであり、近所のいじめっこのような存在です。彼は弱みを嗅ぎ分け、弱みを搾取し、利用します。

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30年にわたって、アメリカのCIAで諜報員として活動していたジョン・サイファー氏。プーチン大統領についてこう話します。

元CIA諜報員 ジョン・サイファー氏:
彼は西ヨーロッパ諸国を不安定にしようとして、弱みにつながる情報を拡散させ、虚偽の情報を流しました。要人の暗殺もしています。脅迫したら、西ヨーロッパの諸国は手をひくと思ったからです。

そして、サイファー氏は、ウクライナでの暗躍が取り沙汰されるロシアのスパイについて、ある可能性を示唆しました。

元CIA諜報員 ジョン・サイファー氏:
今後も停戦協議にスパイを潜入させる可能性はあります。ロシアはスパイを使って外国政府に潜入したこともありますし、ロシアが外交官や職員を置いている国連やフォーラムなどの国際機関でも、日常的にスパイを使っています。

今後もウクライナの要人として、ロシアのスパイを停戦協議に潜り込ませる可能性があるというのです。では、そのスパイはどんな役割を担っているのでしょうか。

元警視庁公安部 外事警察 勝丸円覚氏:
公安部の中に「外事警察」という部分があるのですが、主にそこに所属しておりました。ロシアのスパイ対策に従事した。

こう話すのは、数年前まで警視庁公安部で外事警察の捜査員として所属していた勝丸円覚氏。現在は作家として活動しています。外事警察とは、外国による対日工作やスパイ活動、国際テロリズムなどを捜査する公安部に所属する部署。勝丸氏が指摘したのは、ウクライナに潜むロシアスパイの実態です。

元警視庁公安部 外事警察 勝丸円覚氏:
(ロシアとウクライナは)人種的にも近い、言葉も近いですね。そして距離も近いので、スパイ側が情報提供者運営をしやすいはずです。

見分けがつきにくい状況の中で、ロシアのスパイが行っているのは軍人としての潜伏。

元警視庁公安部 外事警察 勝丸円覚氏:
軍の情報機関であるGRUというのがあるのですが、彼らは軍の情報機関ですので、軍服を着て、中に部隊と一緒に入っていると思います。ウクライナ軍の配備状況など、いろいろなところから、それこそウクライナ軍の中にいる情報提供者などから情報を収集していると思います。

勝丸氏によると、ウクライナ軍の関係者としてロシアはすでにスパイの潜伏を済ませていて、情報を逐一、本国に送っている可能性があるといいます。

元警視庁公安部 外事警察 勝丸円覚氏:
今回のようなことが起こってから何か始めるのではなくて。平和な時、何もない時からスパイは情報提供者を運営して情報収集していましたので。例えばですが、ウクライナの軍に関することであれば、戦車の台数だとかそれを操縦する人たちが何人のシフトで回しているかなど、かなり細かいことをロシアはもう把握していると思います。

果たしてロシアのスパイは今、ウクライナでどんな情報収集を行っているのでしょうか?専門家とともに詳しく見ていきます。

ロシアには3つのスパイ組織が存在 役割は

ロシアとウクライナによる情報戦は、どのように展開されているのでしょうか。

勝丸氏によると、プーチン大統領が所属していたKGB(国家保安委員会)があり、KGBはソ連の崩壊に伴い組織としてはなくなったのですが、解体されて2つの組織に変わったということです。それが、SVR(ロシア対外情報局)とFSB(連邦保安局)。さらに、もともと存在していたGRU(軍参謀本部情報総局)はそのまま残って、3つの組織に別れたことになります。

この3つの組織がそれぞれ、ウクライナ国内で暗躍していると考えられるといいます。3つの組織の役割分担はどうなっているのでしょうか。

SVR(ロシア対外情報局)は対外中心の諜報機関となり、海外を軸にした防諜。FSB(連邦保安局)は国内の防諜・防犯や通信などの傍受、スパイやテロリストの国内浸透を防ぎサイバー戦に中心的な役割を担当しているといいます。そして、GRU(軍参謀本部情報総局)は軍隊直轄の独立諜報機関とされます。

なぜ今回スパイの存在が注目されることになったのかというと、1回目の停戦協議にいたウクライナ側の代表団の一人が射殺されたことだといいます。

ウクライナ側の主張は、「彼はウクライナのスパイだった」というものであり、二重スパイだった可能性があります。この件でも情報戦が繰り広げられています。2021年には、ロシアのGRU(軍参謀本部情報局)のスパイが、ウクライナの戦車の情報を盗み逮捕されたといいます。

「侵攻知らなかった」内部文書にスパイの本音?

では、実際にスパイとはどのような行為をしているのでしょうか。

東京工科大学の落合浩太郎教授は、「ウクライナの今後の動向や政府要人などの弱みを収集」を指摘。また、軍事ジャーナリストの井上和彦さんによると、「道や街路樹に爆撃目標のマークをつける」というのもスパイの仕事だといいます。

さらに元警視庁公安部の勝丸円覚さんによると、「親ロシア派の政治家の活動を支えるため、資金を提供する」こと。筑波大学の中村逸郎教授は、「ウクライナの軍人にウォッカを飲ませて酔わせる」こともスパイの役目だといいます。

筑波大学 中村逸郎教授:
実は今回、2月10日ごろから、ウクライナの最前線の兵士たちのところにロシア人がウクライナ人兵士を装って軍に入り、ウォッカを飲ませて士気を下げ、混乱させるというような情報作戦をとっていたと言われています。開戦が2月24日なので、その前から大量にそういう人たちがウクライナに入っていったという情報もでています。

3つの組織があるロシアですが、一枚岩かをめぐって様々な動きがあります。FSB(連邦保安局)が作成した内部文書というものが、イギリスの報道機関に流出しました。入手した“ロシアの内部文書”にスパイの本音が書かれていたといいます。

FSB(連邦保安局)は「ウクライナへの侵攻の計画を知らされてなかった。なのに、この侵攻の失敗の責任を押しつけられるだろう」というもの。また、分析をしろといわれるが、ロシアが勝者となるように分析させられた、と不満を抱いている内容だったといいます。

SVR(ロシア対外情報局)も報告しており、「先制攻撃の口実のため、ウクライナの核兵器製造のうわさを集めようとしていた」とあります。そして、FSB(連邦保安局)からは「勝利への選択肢はなく、敗北しかない」と書かれていたといいます。

プーチン離れが進むロシアでは、こういった不満が上がってきているのかもしれません。

(「めざまし8」3月11日放送)