年代物を指す「ビンテージ」という言葉。ワインに限らず車や楽器にも使われるが、その発想で古いマンションに価値を見出す再生プロジェクトが長野市で進行中だ。
悩みの種の古いマンションを再生
記者:
おしゃれな扉に天使のレリーフ。一見、美術館のように見えるこちらの部屋ですが、実は賃貸マンションの一室なんです

長野市鶴賀の「光ハイツ」は築44年のマンション。押し入れや天袋があった昭和の香り漂う部屋を斬新なデザインにリフォームした。

光ハイツを所有するアドイシグロ・石黒ちとせ社長:
魅力はまだ引き出せる。自分たちでつくれる楽しさに気づきました
手掛けているのは「アドイシグロ」。干支のオブジェを飾って市民を楽しませている、看板製作会社だ。

光ハイツは会社の所有でマンション経営もしてきたが、4代目・石黒ちとせ社長の悩みの種でもあった。
アドイシグロ・石黒ちとせ社長:
親から引き継いだ光ハイツですが、古くなってどんどん家賃が落ちたり。どうしたらいいんだろうと常に悩んで…
入居者の減少に悩んでいた2009年ごろ、石黒社長は経営者の会合で、建物を改修して価値を高めるリノベーションの手法を知った。
アドイシグロ・石黒ちとせ社長:
看板も塗装したり、貼ったり、鉄で骨をつくったりとか、いろんな材料を加工することをしてきたので。「何とかなるだろう」といつも楽観的な感じで

8年前に「長野ビンテージビルプロジェクト」をスタートさせ、光ハイツと市内のもう一つのビルの一部でリノベーションに乗り出した。
光ハイツではこれまでに15室を改修。入居率は57%から85%にまで上がった。入居者は…。
20代女性:
他にない唯一のお部屋がすごく気に入っています。転勤などがなければ、ずっと住んでいたいなと思っています
40代女性:
以前から住んでるような落ち着く感じがしています。看板屋さんなので、気になるところをすぐに直してくれるのも魅力です
アドイシグロ・石黒ちとせ社長:
光ハイツは以前は問題の塊みたいで、手放したいものだったのに。今は宝になっている
「美術館」に「ジャパニズム」 部屋ごとにテーマ
空いている部屋を案内してもらった。
アドイシグロ・石黒ちとせ社長:
ここはルーブル美術館の「赤の間」をテーマにしたお部屋につくっています。看板屋なのでこういったアール(曲線)化するものも得意です。フランスのイメージかと思いきや、押し入れも残したままにしています

続いて案内してもらった部屋のテーマは「ジャパニズム」だ。
アドイシグロ・石黒ちとせ社長:
外国人から見た日本、というイメージの部屋をつくってみようということで

おしゃれな障子は古いふすまを再利用した。
アドイシグロ・石黒ちとせ社長:
ふすまの中身の骨をきれいにして塗って、障子風にしたものです。リノベーションは新しいものをゼロからつくっていくんじゃなくて、あるものをどうやって生かすかを考えながらつくっていく。そこが難しいところでもあり、面白いところでもあるので
古い建物の味わいを大切に
古い家財を再利用してリノベーション中の部屋もある。

アドイシグロデザイン担当・馬場一樹さん:
ここに扉があって収納スペースだったんですが、扉の端材をデスクワーク用のカウンターとキッチン上の棚に再利用しています
さらに、これまでにリノベーションした部屋は全て…。

アドイシグロデザイン担当・馬場一樹さん:
DIY可能物件(要相談)なので、入居者の好きなように部屋をいじっていただくことが可能です
石黒社長は「街の景観」に関係する会社として、これからも建物の再生に力を入れていきたいと話している。

アドイシグロ・石黒ちとせ社長:
建物も古いほど味わいが出たり、街の象徴的な立場になっていく。看板屋なので景観をつくるということも大きなテーマになっていて、ビンテージビルでも看板でもつくっていければ良いなと思います
(長野放送)