「ウクライナから第三国に避難された方々の、わが国への受け入れも今後進める」

岸田首相は3月2日、ウクライナから国外に避難した人を日本が受け入れる方針を表明した。そして一夜明け、日本在住のウクライナ人や難民支援団体らが都内で緊急記者会見を開き政府への提言を発表した。

「これは人道的な大惨事だと思います」

「既にご存じかと思いますが、いまロシアがウクライナに侵攻しています。」

会見で日本在住のウクライナ人、オレクシイさんはこう語り始めた。留学生として来日し、日本の大学院を卒業していま日本で働いているオレクシイさんは、さらにこう続けた。

「ウクライナ政府の報告によると昨日の時点でミサイル、クラスター爆弾や戦車などで残念ながら2千人以上の民間人の命が失われています。約90万人の避難民が発生し、これは人道的な大惨事だと思います。家族はウクライナにいて、母はキエフにいます。毎日電話していますが、爆発の音が聞こえたり状況は大変です」

オレクシイさん「キエフにいる母に毎日電話をしている」
オレクシイさん「キエフにいる母に毎日電話をしている」
この記事の画像(21枚)

「多くの声を可視化して政府を後押しする」

今回政府へウクライナからの避難民の受け入れ提言を行ったのは、有志による団体「日本からウクライナを想う市民の会」だ。この発起人の1人である渡部カンコロンゴ清花さんは、難民のキャリア支援を行うNPO法人WELgee(ウエルジー)の代表理事を務めている。

渡部さんは団体を立ち上げた理由をこう語る。

「いままでの日本の難民受け入れの態勢だと、最も大事な時に何もできなくなってしまうと感じました。多くの声を可視化して政府を後押ししたかった。それが立ち上げた理由です」

「日本からウクライナを想う市民の会」の記者会見。中央が発起人の1人・渡部カンコロンゴ清花さん
「日本からウクライナを想う市民の会」の記者会見。中央が発起人の1人・渡部カンコロンゴ清花さん

避難民受け入れの政府への7つの提案

岸田首相は2日夜、ポーランドのモラウィエツキ首相と電話で会談し、ウクライナから周辺国に避難した人を受け入れる方針を伝えた。さらに岸田首相は「まずは親族や知人が日本にいる人の受け入れを想定しているが、それにとどまらず人道的な観点から対応する」と強調した。

岸田首相・ポーランドのモラウィエツキ首相
岸田首相・ポーランドのモラウィエツキ首相

渡部さんは政府の動きを歓迎しながら、会見では政府に対して以下の7つの提案をした。これらのうちいくつかは政府がすでに発表したものも含まれている。

「難民申請に迅速な保護の実施を」

ウクライナからポーランドへ避難する市民ら(26日)
ウクライナからポーランドへ避難する市民ら(26日)

アクション1
現在コロナ対策により、ウクライナ人の家族であっても入国に制限がかかっています。この枠組みの一部緩和などを検討してください。

アクション2
「第三国定住(※)」の枠組みは年に上限60名です。すでにウクライナから国外避難している避難民の中で希望する人々を対象に拡充を検討してください。
(※)難民キャンプ等で一時的な庇護を受けた難民を、当初庇護を求めた国から、新たに受け入れに合意した第三国に移動させ、長期的な滞在権利を与えること

アクション3
避難民や在日のウクライナ人からの難民申請があった場合、平時のように不安定な法的地位で不定期に待機させるのではなく、迅速な保護を実施してください。

「難民ではなく留学生として受け入れを」

ウクライナから避難した人であふれるポーランド・プシェミシル駅(2月27日)
ウクライナから避難した人であふれるポーランド・プシェミシル駅(2月27日)

アクション4
「無償資金協力による留学生受入事業」の対象国に、ウクライナも加えることを検討してください。

アクション5
難民ではなく留学生として入国を受け入れる枠組みとして、「国費外国人留学生制度」の拡充をしてください。

アクション6
今後日本語学校等がウクライナからの学生を受け入れることができるよう、日本語学校等への資金援助を検討してください。

アクション7
 企業がウクライナからの避難民を雇用した場合、通常よりも「在留資格認定証明書」の発給などをスムーズに行えるように準備を進めてください。

「殺されたくない。平和を求める人を受け入れる」

渡部さんは「岸田首相の発表の後『よかったね』と声をかけられました」と語る。

「しかし『これでよかったね』ではなく、これから実務面の様々な課題解消を含めて、このアクションを皮切りに、加速させる検討をぜひ進めていきたいです」

オレクシイさんもこう語る。

「悲しい思いで自分が出来ることを探していた中で、普段から難民のために頑張っている渡部さんからメッセージを頂き一緒にやることにしました。殺されたくない、殺したくもない。平和を求めている人たちを受け入れるため(日本が)全力で頑張ってくれると信じています」

賛同者を募る署名活動は3月1日からスタートし、3日現在約4万筆が集まっている。

「平和を求める人たちを受け入れるため(日本が)頑張ってくれると信じている」
「平和を求める人たちを受け入れるため(日本が)頑張ってくれると信じている」

「これを機に変わったねとしなくてはいけない」

これまでも難民申請者の支援を行ってきた渡部さんは、こう強調した。

「難民の存在について日本でここまで大きな声になるというのは珍しいことです。もちろん突発的に何かが起こった時には話題になりますが、自分事として見ることが出来ないのです。すでに日本に来ている難民申請中の人たちからも『日本はどうなるのか?ここまでなっても受け入れないのか?』とこの問題は注目されています。これを機に(日本の難民受け入れ政策が)ガラッと変わったねとしなくてはいけないと思っています」

ロシアがウクライナに侵攻(2月25日)
ロシアがウクライナに侵攻(2月25日)

今後ウクライナからの避難民は700万人を超えるという予想もある。「新しい施策を作り出さないでも、既存のスキームから避難民受け入れを拡充する」(渡部さん)今回の提言を、政府は真摯に検討するべきだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(21枚)
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。