全国の中学校の部活動は、長時間勤務など教師の大きな負荷となっている。そのため文科省では2023年度以降に、休日の部活動運営を段階的に地域に移行させる方針を示した。いま部活動改革が進む教育現場を取材した。
「ダンスのよさをしっかり伝えられる」
東京都内渋谷区立上原中学校で土曜日午後に行われたダンスの部活動。
あいにくオミクロン対策で普段のように生徒は集まらなかったが、それでも体育館内はダンスする生徒の熱気が溢れていた。ダンスを指導するAMIさんは普段スタジオで教えているダンサーで、様々なミュージシャンのバックダンサーも務めている。2021年11月から始まったダンス部ではすでに10回以上部活動が行われている。
AMIさんは「みんなすごく楽しそう」と語る。
「ダンスが好きなのが毎回見ていて伝わります。生徒とのコミュニケーションではシリアスになりすぎず、まずダンスを楽しんでもらうことを大事にしています。学校の先生が教えることもすごく素敵だと思うのですが、先生と生徒の関係だと義務っぽく習う感じになってしまうかも。やはり外部の先生が教えると、ダンスのよさをしっかり伝えられるのではないかなと思っています」
この記事の画像(8枚)「プロのダンサーが教えてくれてすごくいい」
この部活では渋谷区内の様々な中学から生徒が集まる。これまでバトントワリングをやっていたという生徒は、「新しい友達と盛り上がって交流の輪が広がります」という。
「(外部指導員だと)緊張感が上がります。学校の先生は普段からいるから、ピシッとならないです」
またこれまでダンスの経験が全く無いという生徒は「楽しい」と語る。
「プロのダンサーが来て教えてくれるので、すごくいいなと思います。学校の先生もいいですけど、これからもいろいろなダンス講師が教えに来てくれると嬉しいです」
既存の部活にない種目から外部指導員を導入
渋谷区では2021年11月に「部活動改革」のプロジェクトを開始した。担当するスポーツ振興課の田中豊課長は「部活動の地域移行の話は40年くらい前からありましたが、なかなか改革は進んできませんでした」と語る。
「しかし最近になって学校の働き方改革、とくに先生の長時間勤務も影響してか、教員志望者の減少などが社会問題化して、学校管理職の地域移行への理解は進んでいると思います。ただ、部活動を通して生徒指導という意識で取り組んでいる先生たちには、地域移行への不安や課題意識を持っていると思います」
こうした教員の不安や課題をクリアしながら、改革を進めるため、渋谷区ではまず既存の部活動にはない種目を中心に、部活動改革プロジェクトを始め、外部の指導員を導入した。
「サッカーや硬式テニスは外部指導員を受け入れる環境が整っているので取り上げましたが、野球やバスケットボール、バレーボールなど、先生が指導している割合が多い種目は含みませんでした。このような取組によって、“渋谷区の部活動のシーンが変わる”ということを示していくつもりです。来年度はこれらの種目に加えて、料理・スイーツ部も開始する予定です。子どもたちのニーズが高かったので」(田中氏)
先生が無理なく部活動に関われるように
ではこうした費用は誰が負担するのか?渋谷区では今回の部活動費を区の予算からねん出した。
「これまで外部指導員への謝礼単価は、ボランティアに近いものでした。しかしそれでは持続性がありませんし、専門性の高い人材を呼べない。今回部活動改革を推進する母体として一般社団法人渋谷ユナイテッドを設立しました」
設立の趣旨を田中氏はこう語る。
「総合型地域スポーツクラブ化して、協賛金や会費などにより自主財源をつくり、徐々に公費負担を減らすのが目標です。また、部活動に熱心な先生を渋谷ユナイテッドの指導員として委嘱することで、継続して指導を希望する先生たちがスムーズに部活動に関われる仕組みを作りたいですね。部活動を通して人間形成を図る教育人材の確保は大事と思っています」
「役割分担もでき丁寧な指導ができる」
文科省では2023年度以降、段階的に部活動を地域移行させる方針だ。こうした動きをうけ京都市でも部活動改革に向けた取り組みが行われている。京都市教育委員会の担当者はこう語る。
「これまで部活動では練習の長時間化や過剰化によって、先生の負担増につながっているのが課題でした。そこで実践研究として市内の松原中学校で2021年10月から卓球と男子バスケットボールに地域の指導員を導入しました。土日の活動における地域指導員の円滑な導入にあたっては,顧問と地域指導員による指導体制から始めて,段階的に地域指導員だけに移行する計画で進めています」
顧問の先生からは「地域指導員に入ってもらうことで,役割分担もでき,違った視点で丁寧な指導にあたることができる」という声が上がっているという。
「外部の指導員が入ると、保護者からは専門性・競技性の向上という点に期待を持たれることもあります。生徒の生きる力の育成や豊かな学校生活の実現といった,本来的な教育活動としての部活動の役割に対する理解を深める必要があると感じています」
外部指導員が問題を起こすケースもある
部活動改革の動きはいま各地で広がっているが、地域移行にあたっては外部指導員への謝金支払いや保険契約などの事務処理や安全管理マニュアルの整備、さらには外部指導員へ指導法の教育研修が必要だ。15自治体でこうした業務支援を行うリーフラス株式会社代表取締役の伊藤清隆氏はこう語る。
「外部指導員は全国で約5万人いると言われていますが、大学生や専業主婦の方、リタイアした男性が多いですね。ただ外部指導員による問題も起こっていて、生徒に不適切な発言や古い指導をしたり、生徒の進路先に介入したり、部活のユニフォームを外部指導員が指定する販売店で買わせたりするケースもあります」
「部活は教員がやるべき」の声も根強い
このためリーフラスでは採用した外部指導員に指導方法や生徒対応を研修し、部活動の現場にも行って指導がきちんと行われているか見回ることもあるという。
「私たちは指導員を最低2人以上にしています。これによって指導員1人と子供たちという、問題が起きやすい環境を排除できます(名古屋市の例)」(伊藤氏)
一方「部活動は教員がやるべきだ」という考えは依然として根強いと伊藤氏は言う。
「ある自治体の首長さんは『部活あっての学校だ。先生が部活をやらないと生徒指導が出来ない』と言われました。部活=教育という考え方で、先生が部活を厳しくやって子どもをコントロールするという発想ですね。確かに校内暴力が吹き荒れた時代は、非行を防止するために学校が部活を利用しました。そこで部活はスポーツでは無くなってしまったんですね」
部活指導したい先生は指導員として雇用
理想的な部活動改革について伊藤さんはこう語る。
「学校で部活を指導したいという先生には、部活指導をしていただくべきだと思います。一方やりたくない先生はやらなくていい。そこは外部の指導員が担当します。教育委員会と連携して、部活をやりたい先生を指導員として雇用して、部活を指導する先生には時給を支払えばいいのです」
中学の部活動を変えれば、日本の学校とスポーツの風景が変わる。子どもたちの健全な成長のために、いまこそ大人が知恵を振り絞って部活動の地域化を行わなければならない。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】