新潟県内で司法解剖などを行う死因究明教育センター。
高齢化も進むなか、2021年の解剖数は過去2番目の多さに。

年末まで対応にあたった解剖医たちの活動と、未来への思いを取材した。

「死因究明には最初の現場状況が重要」

新潟大学大学院 高塚尚和 教授
新潟大学大学院 高塚尚和 教授
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2021年12月、新潟市西区の県消防学校救急課で教壇に立っていたのは、新潟大学大学院の高塚尚和教授。

死因究明教育センター長 高塚尚和 教授:
死体硬直、一般的には大体死後2~3時間が経ったら発現する

「最初の現場状況が重要」
「最初の現場状況が重要」

その専門は、救急医学でなく「法医学」。

死因究明教育センター長 高塚尚和 教授:
私たちが死因や状況等を考えるとき、最初に入ったときの現場の状況というのは重要。救急の方に、最初の現場がどうだったのかということも記録に残していただく。また、私たちにも教えてほしい

「死因明らかにし、人権守る」県内で唯一司法解剖行う死因究明教育センター

新潟県の死因究明教育センター
新潟県の死因究明教育センター

大学の教員といえば、学生の指導や研究が主な仕事だが、高塚教授の法医学教室は違う。

ここは法医学教室に設置された死因究明教育センター。新潟県内で唯一司法解剖などを行っている。

“死因を明らかに”
“死因を明らかに”

センター長の高塚教授は解剖医、そのほか身元を調べる歯科医や血液などの検査を行う臨床検査技師など10人ほどからなる組織だ。

死因究明教育センター長 高塚尚和 教授:
(亡くなった人には)話していただけない。我々が死因を明らかにすることによって、その方の人権を守る

仕事納めの日も緊急解剖 年末年始は2人の解剖医で分担

センターに休みは無い
センターに休みは無い

2021年12月28日、仕事収めのこの日も緊急で解剖が行われていた。

死因究明教育センター長 高塚尚和 教授:
緊急解剖が決まったのは、結局きのうの夜

いつ解剖が入るか分からないため、年末年始もセンターに休みはない。

死因究明教育センター長 高塚尚和 教授:
(年末年始は)彼と半分ずつで担当。年内は舟山先生で、年明けが僕

死因救命教育センター 舟山一寿 助教
死因救命教育センター 舟山一寿 助教

センターの解剖医は高塚教授のほかにもう1人、舟山一寿助教がいる。

死因究明教育センター 舟山一寿 助教:
私は実家が岩手県。(年末年始は)岩手県には帰らない。気は抜いているが、呼ばれたら対応するという感じ

新年に思いをはせながら、大学をあとにした高塚教授たち。

大晦日にも緊急解剖…“頑張るしかない”

大晦日に緊急解剖
大晦日に緊急解剖

しかし、大晦日の朝、舟山助教の姿は大学に。
急遽入った解剖の依頼は、事件性も疑われる事案だった。

臨床検査技師 小山哲秀 助教
臨床検査技師 小山哲秀 助教

非番の高塚教授のほか、結局ほとんどのメンバーが大学に。

臨床検査技師 小山哲秀 助教:
仕事だから、仕事は仕事で頑張るしかない。警察の人だって、救急・消防の人だってみんな同じ

解剖にかかった時間は約7時間
解剖にかかった時間は約7時間

午前に始まった解剖は休憩をとることなく続き、終わったころにはすっかり辺りが暗くなっていた。

死因究明教育センター 舟山一寿 助教:
行為者が犯罪に問われるかどうかが決まるというような解剖だったので、慎重に丁寧にやって。7時間近くかかった

新潟県 2021年の解剖数は過去2番目の多さ
新潟県 2021年の解剖数は過去2番目の多さ

死因究明教育センター 舟山一寿 助教:
まさかきょう、こういうことになるとは思わなかった。お寿司屋さんへ“大晦日のおつかい”を頼まれているので、そこに向かってから帰る

2021年、一年間の解剖数が過去2番目の多さとなった死因究明教育センター。
忙しい一年がようやく幕を閉じた。

平和な一年と家族の健康を願って…新年を迎え舟山助教は初詣へ

舟山助教 家族で初詣
舟山助教 家族で初詣

そして新年を迎えた1月2日、舟山助教は家族と神社へ初詣に訪れていた。

(Q.大晦日のお寿司は間に合った?)
舟山助教の長男
ギリギリで間に合った

舟山助教の次女:
お年玉もらった!

新年に願うことは…
新年に願うことは…

4児の父としての顔も持つ舟山助教。

死因究明教育センター 舟山一寿 助教:
平和な一年でありますようにと、家族の健康を願った。家族が健康でいないと、仕事も手につかないと思うので

“遺伝子の変異”が原因か…若年者の突然死をめぐり遺族への対応検討

若年者の突然死
若年者の突然死

年が明けても忙しい日々が続く死因究明教育センター。
舟山助教には年をまたぎ、継続している仕事もあった。それは2021年に行った、若年者の突然死における解剖。

遺伝子異常の場合、血縁者にも影響
遺伝子異常の場合、血縁者にも影響

死因究明教育センター 舟山一寿 助教:
遺伝子解析の結果が返ってきて、やっぱり要検討

元気なはずの若者が突然亡くなった例では、遺伝の異常が原因とされるものも研究で明らかとなってきていて、その場合は血縁者も同じ病気を発症するおそれがある。

新潟大学医歯学総合病院 遺伝医療センター長 池内健 教授
新潟大学医歯学総合病院 遺伝医療センター長 池内健 教授

今回の対象者も、一部で遺伝子の変異が判明。遺族への報告を前に、舟山助教は大学病院の遺伝医療専門の医師たちと結果について話し合っていた。

新潟大学医歯学総合病院 遺伝医療センター 入月浩美 助教:
(見つかった変異は)データベース上も、病的意義を強く示唆するものではない

新潟大学医歯学総合病院 遺伝医療センター長 池内健 教授:
心電図については検査を受けていただくようお勧めして、そこで何も問題がなければ、現時点ではそれ以上、介入の必要性は高くないのではないかなと

現在の知見では“はっきりしない”との結論
現在の知見では“はっきりしない”との結論

結果、遺伝子との関連は“現在の知見でははっきりしない”との結論に。遺族へは定期的な心臓の検査を勧めることにした。

死因究明教育センター 舟山一寿 助教:
遺伝の関係が全くないということを断言できるわけではない。(心電図で)何か悪い兆候が出てきたときには、早めに対策が取れる

「法医関係者が増えてほしい」
「法医関係者が増えてほしい」

同じように亡くなる人が減ることを願って、リスクを伝える一方で…

死因究明教育センター 舟山一寿 助教:
(変異の報告を)悪い方向に、『人生ぶち壊しだ』と思う方もいるかもしれない。こういう研究がどんどん進んで、もっと色んなことが分かってくると、もうちょっと何かを言える方が増えてくるのかなとは思う。だから、もっと法医の人が増えてほしい

死因が明らかになる社会へ
死因が明らかになる社会へ

未知の部分が多く、様々な葛藤のなかで行う死因の究明。それでも未来へつながることを信じ、センターの活動は続く。

死因究明教育センター長 高塚尚和 教授:
(死因究明が)新しい病気の発見、あるいは病気との関連性を明らかにする一つのきっかけになっていただければ。“どうして亡くなられたのか”それが明らかになる社会、そういった社会が実現されることを望んでいる

(NST新潟総合テレビ)