新潟県内で唯一、司法解剖などを行う「死因究明教育センター」。
遺体の声なき声に耳を傾ける解剖医たちの姿と、現場の課題を取材した。

新潟市中央区の新潟大学大学院医歯学総合研究科。
警察車両が入り、校内が慌ただしくなる。警察が搬入したのは一人の遺体。
ここは大学院内に設置された県内で唯一、司法解剖などを行う機関「死因究明教育センター」。

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死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
亡くなった方の死因を明らかにすることによって、その方の人権を保障する、守る

センター長を務める高塚尚和教授は県内に4人しかいない解剖医の一人。
センターは解剖医のほか、歯科医師・臨床検査技師などから構成され、日々遺体の身元や死因の調査に当たっている。

死因究明教育センター・高橋直也放射線診断医:
(背骨が)2、3、4…4があって5、6がどこかにいっている

死因究明教育センター・高橋直也放射線診断医:
こういうのって解剖でわかるもの?

死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
(解剖して)開ければわかる

遺体の声なき声に耳を傾ける解剖医。

死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
外表に傷があるかどうかというようなことを丁寧に見る。食事してからどのくらい経った、どんなものを食べたのか、そういったことが捜査上大切になることもあるので、必ず胃の中も開ける。警察も立ち会っていて、重大事件だと検察庁も立ち会う

これまで、ほかの先進国に比べて解剖率が低く、“死因不明社会”とも言われてきた日本。その体制に関する問題が浮き彫りとなったのは、新潟を巻き込んだある事件だった。

遺族からの希望で解剖…そして事件発覚

2007年、愛知県で当時17歳だった新潟市出身の力士が稽古中に死亡。病院で死因は「急性心不全」と判断された。
しかし、傷だらけの体を不審に思った両親の希望で新潟大学病院が行政解剖を実施したところ、死因が「外傷性ショック」であったことが明らかに。その後、親方や兄弟子による暴行事件が発覚した。

死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
きちんと専門家が診断・判断をすることが重要。それがちょっと弱かったんじゃないかなということは一つ言えると思う

事件を受けて国も動き出した。
2013年には死因身元調査法が施行され、裁判所の令状がなくても、警察判断での解剖が可能に。また2020年4月には行政や大学などが協力して、死因究明の施策を進める法律も施行された。
これにより県警が取り扱った遺体の解剖率は、暴行事件が発覚した年から上昇。いまだ高い値とは言えないものの、2020年初めて5%を超えた。

事件から2021年で14年。
警察の法医学への理解の重要性が増す中、高塚教授が訪れたのは新潟市西区の警察学校。

死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
みなさん方、最初に現場に行かれますよね。そのときに、どうやってご遺体を見て、どういうふうになっていたらおかしいなと考えなきゃいけないのか、事件性を考えなきゃいけないのか

高塚教授は毎年県警と連携し、警察学校の生徒のほか、新たに刑事部へ配属された警察官などに法医学の講義をしている。

死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
刑事だけではなく、交通・警備、色々な部門に進むと思う。あまり日頃の業務で遺体と接することがない方も、やはり何かあったときに遺体がどうなのかを考え、思い出していただければ

犯罪の見逃し防止に向けた取り組みが進む現場。
一方、課題も残っている。解剖と並行して行われているのは、遺体の血液などから薬毒物や感染症などを調べる生化学検査。

死因究明教育センター・小山哲秀臨床検査技師:
新型コロナウイルスの抗体はないので、感染はしていない

感染症が陽性の場合、解剖する人たちが感染するリスクも出てくる。
しかし…

死因究明教育センター・小山哲秀臨床検査技師:
(新潟は)全例解剖する前にPCR検査とか、警察から頼まれたらすぐにやる。だけど全ての大学がそういうふうにやれるわけではない。もう(死因究明等推進基本法が)施行して1年以上経っているけど、我々に何か恩恵があるかというと何もない。はっきり言って

死因究明に関する設備の整備には、まだ地域ごとに格差があるのが現状。

「恨まれる」精神的負担が多い解剖医

死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
(解剖の時間は)だいたい半日で1体

ーーきつくない?

死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
あまりやるのは、きつくもなる

解剖医の人数が少ないうえに、精神的な負担も伴う解剖。

ーー感謝されることは?

死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
基本的にはない。むしろ逆に「知らなければよかった」「明らかにならなければよかった」と恨まれるというか

それでも今後、高齢化による“多死社会”を迎え、センターの役割がさらに重要となることが予想されることから、高塚教授は歩み続ける。

死因究明教育センター センター長・高塚尚和教授:
亡くなっているという事実を戻すということはできない。そこから分かったことを、生きている人のためにフィードバックするということ。そのために死因究明等を行っているということは申し上げたい

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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