農家が営むラーメン店。長野市篠ノ井にオープンした、いわゆる「二郎系」のラーメン店。店主は53歳の男性農家だ。
災害をバネに開業し、自ら育てたキャベツなど野菜もアピールする一杯を提供している。

ラーメンと農業の「二刀流」

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キャベツとモヤシがたっぷりのったラーメン。
女性客も…

女性客:
くどいようなイメージもあったんですけど、するすると食べられておいしい

昼時、店内は満席だ。

麺屋 増豚(長野市篠ノ井)
麺屋 増豚(長野市篠ノ井)

ここは長野市篠ノ井会にできたラーメン店「増豚(ぞうとん)」。豚骨醤油のスープ、太い麺、たっぷりの野菜にニンニクをトッピングした、いわゆる「二郎系ラーメン」の店だ。(ラーメン 200g(全粒粉) 830円)

羽田元毅さん
羽田元毅さん

店主は羽田元毅さん(53)。2021年12月、念願の店をオープンさせた。

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
まだまだ、たどたどしい。趣味とは違いますね

羽田さんには「店主」の他に、もう一つの顔がある。

早朝、羽田さんが向かったのは雪をかぶった畑。羽田さんは農家で、キャベツやニンジン、ホウレンソウなど10種類ほどの野菜を作っている。店で使うキャベツも、自分の畑で収穫したものだ。

羽田さんが収穫した野菜
羽田さんが収穫した野菜

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
いろいろな品種があるので、その品種を選択するところから始まる。それはそれで楽しい

元々、トラックの運転手だった羽田さん。プルーンやモモなどの果樹園を営んでいた父・良雄さんが亡くなり、引き継ぐ形で、2017年に兼業農家となった。

メインを野菜に切り替え、農業に力を入れ始めた2019年に不運に見舞われる。

2019年の台風19号災害(提供 羽田さん)
2019年の台風19号災害(提供 羽田さん)

台風19号災害だ。篠ノ井も、千曲川からの「越水」で浸水被害が広がり、堤防沿いの羽田さんの畑は全滅。農業をやめることも脳裏をよぎったが…

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
代々受け継がれた農地なんで大切にしていきたいというのがあるし、これは自分の代に変わった時に途切れてはいけないなと

雪をかぶった畑で収穫する羽田さん
雪をかぶった畑で収穫する羽田さん

その後、再起を図る中で「どうせなら自分の野菜を、より多くの人に味わってほしい」という思いが強まっていきた。
野菜を食べてもらい、おいしさをアピールする。その方法として、ひらめいたのが…

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
ラーメン食べて、野菜おいしくて『この野菜どこで売っているの?』と。じゃあ『あの店にありますよ』と言えるのがいいかなと

採れたて野菜たっぷり…独自にラーメン研究

畑で収穫したあとは、店で仕込みだ。

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
まだ凍ってるんですよね

そもそも、なぜラーメンだったのだろうか?

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
やっぱりラーメン大好きだからです。特に二郎系、この盛りのラーメンが好きで、毎日 自分が食べたいんで。生産者が見えるラーメンって、安心して食べられません?そういうのも狙い

提供 羽田さん
提供 羽田さん

家族の反対をよそに、ラーメン研究を始めた羽田さん。2021年8月から麺を打ったり、だしをとったりと試行錯誤を繰り返してきた。

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
そんなに思うほど苦労じゃなかった。逆に『店を出しても恥ずかしくない』くらいのことを言われたのが、気分が乗っちゃったきっかけ(笑)

30年来の友人・長谷川隆さん
30年来の友人・長谷川隆さん

羽田さんを「その気」にさせた一人が、30年来の友人・長谷川隆さん(53)だ。試作品を何度も食べてきた。

スタッフ・長谷川隆さん:
個人でお勝手で、奥さんに怒られながら作ったラーメンとしては、最高じゃないですかね

熱心な羽田さんを見て、長谷川さんも心を動かされた。会社を辞めて、1月に店のスタッフとなったのだ。

長谷川隆さん(右)
長谷川隆さん(右)

スタッフ・長谷川隆さん:
やるなら片手間ではできないし、(自分も)最後にやってみたかったものが一つあったのは確か。二人でなんとかやっていきながら、足して、やっと1になるようになればいいかなと

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
心強いです

53歳、しかもコロナ禍での「挑戦」。家族を説き伏せて突き進んできたのは、27歳の時に舌がんという大病を患った経験が影響していると言う。

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
俺の人生終わったなと。あのころは『がん=死』という感じの時代だったので…。あと、これとこれはしたかったという後悔をして、終わりたくないというのが本心にあった

野菜の増量「マシマシ」
野菜の増量「マシマシ」

野菜の増量「マシマシ」は無料だ。オープンして2カ月ほどだが、客足は上々だと言う。

客:
ラーメンは修業してたわけじゃない?

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
自分の家で作ってて、そこがはじまり

客:
クオリティーがすごく高い。毎日、食べたくなる

羽田さんのこだわりは「地産地消」と「食べやすさ」。スープは国産の豚骨をベースに、雪下から収穫したニンジンなども入れてマイルドに。製麺所から仕入れている麺は国産の粉を使っているが、いずれ地元産に切り替える予定。朝採れのキャベツはモヤシと一緒に。チャーシューの豚肉は信州産だ。

朝採れのキャベツを使って…
朝採れのキャベツを使って…

客:
素材の甘みを感じるというか、ただしょっぱいだけじゃない。ただ味が濃く脂があるだけじゃなく、野菜や豚の甘みを感じられておいしい

客:
おいしかった、野菜もたっぷりで。今の時期のキャベツって感じがしておいしい。旬のやわらかいキャベツの味がした

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
ラーメン褒められるより、野菜がうまいと言われる方がうれしい。ついつい、やったぜと(笑)

農業とラーメンの二刀流。羽田さんの挑戦は始まったばかりだ。

麺屋 増豚・羽田元毅さん:
50越えても、60越えても挑戦することは大事。今で言う二刀流ってやつですか。農業あってのラーメン屋だし、ラーメン屋あっての農業でもありたいし、どっちもどっちで頑張りたい

(長野放送)

長野放送
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