スーパーやコンビニで購入したレシートを撮影するだけで、1円から10円が買い取りされるアプリ「ONE(ワン)」。すでに300万ダウンロードを突破し、累計1億枚以上のレシートを収集している。このサービスを開発したのが、20歳でWED株式会社を率いる山内奏人さんだ。幼い頃から天才プログラマーとして注目されていた山内さんは、さらなる高みに向けていま何を思うのか聞いた。(聞き手:解説委員 鈴木款)

ミッションは「消費の未来を追求する」
――WED社のミッションは「消費の未来を追求する」ですが、買い物に注目したのはなぜですか?
山内奏人さん:
もともと物事を可視化するのが好きで、グーグルやフェイスブックは人の興味を可視化していますが、僕は人の営みを可視化できたらと考えました。そこで「お金を払う」という行動を通して、人の営みや生活を可視化できると思い、それから消費に興味をもったんですね。
僕はやりたいことが無限にあって何か制約をつけないとやることが決まらないので、「消費の未来を追求する」がこの先10年、20年のテーマとして面白いかなと思いました。
――消費が人の営みに直結しているということですね。
最近だとESGの文脈で「消費は投票だ」と言われていて、興味深いと思っています。何かを消費をすると、良くも悪くも作り手やそのステークホルダーへの支援につながってしまう。僕らが販売促進のお手伝いをしているユーグレナさんは環境に配慮して商品に紙パックを使っています。これはESGに近くて、いいものを世の中に届けるお手伝いするのは、凄い力にもなるし責任もあることだと思います。

いいものを世の中に届けて発展させる
――消費のほかにはいまどのような分野に興味や関心がありますか?
消費と一言で言っても様々な文脈があります。それこそエシカルのような文脈もありますし、サブスクリプションもあるし、無限にやることがあるんですよね。いま僕たちは物理的な買い物、つまりオフラインでの買い物の販売促進をやっていますが、長期的にはオンラインの販売促進もやっていきたいと思っています。
――社会課題の中で解決したいと考えているものはありますか?
社会課題・・僕らはいいものを世の中に届けて発展させていくことが、デジタルプラットフォーマーとしてやるべきことだと思っています。そこはやはり一番僕らが得意な分野ですし、やっていきたい分野ですね。

「Z世代はラベル付け。僕らは“負けスタート”」
――ところで自分をZ世代として意識したことはありますか?
いや、あまりないですね。Z世代って後からラベル付けされているものなので。世代としては、一回り上の世代はゆとり世代といわれたり、父親や母親の世代はバブルを経験していたりという意味で違うと思っています。僕らは凄く「負けスタート」なんですよ。日本が負けているいま、僕らの周りには「マイナスからどうやって這い上がっていくか」と考えている人が多いと思います。

――これまで影響を受けた人はどんな人ですか?
ウォルト・ディズニーやリチャード・ブランソン、レッドブルのディートリヒ・マテシツとか1つの分野で帝国を築いてきた人には凄く憧れますね。国内ですと孫正義さん。僕は15歳のころ初めてお会いして衝撃を受けて、強い人だなと感じましたね。
「作り手であり続けたいなと思います」
――同世代ではいかがですか?
僕と同い年で起業している人はまだまだ少ないんです。ただ同じ頃創業した人たちはやっぱり意識します。まったく分野が違いますが、F1の角田裕毅選手には勇気を与えられます。世界のトップ20人しか参戦できないのに日本人がいるだけでもすごいのに、何百人もいるチームとコミュニケーションをとっている。アーティストではYOASOBIの幾田りらさんが同い年です。すごいなあと観たり聴いたりしています。
――20歳で会社経営をやっていて、10年後、20年後の自分の姿イメージはありますか?
作り手であり続けたいなと思います。この1年はマネジメントに徹していたので、人間としての完成度は上がっていますが、プレイヤーとしては弱くなっている感じがします。起業した15歳の時や「ONE」をリリースした17歳の時はもっと強かったなあと。最近ちょっと大人になりすぎている自分を感じているので、今年はもう1回現場に戻りたいなあと思いますね。

――最後に何かサービスについて言い足りなかったことはありますか?
1月27日にシリーズCラウンドの資金調達をして、上場までのカウントダウンがようやく始まった感じです。
――ありがとうございました。
取材後記:
これまで多くの若者の起業支援を行ってきた経済産業省の石井芳明新規事業創造推進室長は、「中学生でピッチコンテストに出ていた山内さんに出会った時、デジタルネイティブとしてのスキルと、屈託なく自分のやりたいことに取り組む姿勢に感心した」と語る。
筆者も初めて山内さんに会ったのは中学2年生のときだったが、彼は既に天才プログラマーと言われていた。
Z世代の起業家について石井さんに評価を聞くとこう続けた。
「こういう人たちが次の時代を作っていくんだろうな、僕らも世代間で切磋琢磨しなければと思いました。正直、評価っておこがましいし、まだできないですね。いつの時代も次のアクションを起こすのは若手なので期待大です」
まったく同感である。旧い世代がやるべきことはこの世代の“じゃま”をしないことだけだ。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】