本は長い時間が経つと日焼けなどで経年劣化してしまうこともある。それを乗り越えた古本がTwitterで話題となっている。

栃木市の古書店・吉本書店のアカウントが投稿したのは、2冊の本を撮影した画像。販売のために仕入れたものが、実は1970年代後半に刊行されたものだという。保存状態はとてもよく、言われなければ古本とは思えない。

1970年代後半に刊行された古本だった(提供:吉本書店)
1970年代後半に刊行された古本だった(提供:吉本書店)
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投稿は6万以上(2月3日現在)のいいねを集めたが、注目されたのがカバーとして使われていた半透明の紙。グラシン紙と呼ばれるもので、本のダメージを代わりに受けるかのように、焦げ茶色になっていた。

古本から剥がしたグラシン紙(提供:吉本書店)
古本から剥がしたグラシン紙(提供:吉本書店)

カバーを取って「きれいさ」に驚き

投稿では「グラシン紙は本当に偉い。身を挺して本を守ってくれる。」とコメントしていたが、この古本はどんな状態だったのだろう。まずは吉本書店の担当者に聞いてみた。


――話題となった投稿の状況を教えて。

古書の即売展に持っていく本の値段付けをしているときに、真っ黒こげに変色して劣化したグラシン紙のカバーの掛かった文庫があって、いつもカバーを取った時のきれいさに驚いていました。面白がってくださる方もいるかと思い、投稿しました。


――グラシン紙は書店ではどう扱われている?

半透明なつるっとした紙で、古本店では書籍の保護や劣化を防ぐために使われます。投稿した文庫のグラシン紙はもともと出版社で掛けたものです。

半透明なので表紙などが分かる(提供:吉本書店)
半透明なので表紙などが分かる(提供:吉本書店)

――グラシン紙で包んだ本は状態が違う?

書籍には日光も湿気も埃も大敵なので、ガラス扉のついている本棚、日光の差さない書庫など、保管場所によっても大きく変わりますし、グラシン紙なしではアッという間に日焼けします。特に赤と黄色の褪色(色の抜け)がひどいですね。


――書店で頼めばグラシン紙で包んでもらえるものなの?

それはできないと思います。古本店では初版本や稀覯書にはグラシン紙をかけますが、あくまで古本店が商品の本のコンディションを保つため。新刊を買う人でも古本を買う人でも、本をとてもとても大切に扱う方は自分で掛けていらっしゃいますね。

中華まんの敷紙やクッキングシートにも

古本によく使われているという、グラシン紙はどんなものなのか。製造する日本製紙(本社:東京都)の担当者に特徴や用途を聞いてみた。


――グラシン紙はどんな用途で使われる紙なの?

製紙メーカーとしては、本を保護するための性能を意図的に付与した訳では無く、中身が見える包装紙を意図して製造したところ、本の包装紙として使用され、好評を得たものと認識しております。(使われるのは)薬包紙・分包紙、中華まん・ケーキ等の敷紙、グラシンカップ、クッキングシート、窓付き封筒の窓などで、食品に接触する用途が多いです。

実はこんな用途にも使われている(提供:日本製紙)
実はこんな用途にも使われている(提供:日本製紙)

――本の保管には適しているの?

グラシン紙の特徴である半透明性により、包まれている本の視認性が上がる事が最も適している理由として挙げられると思います。透明性だけで言えばフイルムの方が有利ですが、多くのプラスチックで使用している可塑剤の影響により、長期保管で紙(本の表紙)が変色するケースもあります。グラシン紙の原料は、木材パルプ(セルロース)のみですので、例え経時劣化しても、接触している材料に与える影響は少ないと言えると思います。

グラシン紙と一般的な紙の使用原料(提供:日本製紙)
グラシン紙と一般的な紙の使用原料(提供:日本製紙)

――グラシン紙の素材と製造方法を教えて。

弊社のグラシン紙の原料は、木材パルプ(セルロース)のみです。また、使用される用途に応じて、オーダーメイドしたものも製造しており、若干の耐水性・撥水性・透明性の向上は可能です。グラシン紙は、木材パルプを細かく潰した原料を使用して紙を製造し、その紙をスーパーカレンダーという設備で高圧で潰すことで透明性を出しております。一般的な紙との比較で言えば、(1)木材パルプを細かく潰す、(2)スーパーカレンダーで潰すという点が特徴的な製造方法の違いになります。

グラシン紙の製造工程(提供:日本製紙)
グラシン紙の製造工程(提供:日本製紙)

――パラフィン紙というものも聞いたことがあるが、グラシン紙とは違うの?

パラフィン紙とグラシン紙を(言葉として)混同して使われるケースもあるようですが、厳密にいえばパラフィン紙は紙にパラフィン(蝋)を含侵させたものになります。そのため、パラフィン紙はグラシン紙と比べて、特に耐水性が優れています。ただし、パラフィン紙で本を包装して長期保管した場合、パラフィンが浸み出すなどの懸念はあると思います。


今回話題となった書店の担当者は「本離れと言われる時代でも、こんなにたくさんの方が興味を持ってくれたのは、うれしい驚きです」とも話した。今は電子書籍も普及しているが、紙の本ならではの魅力もある。グラシン紙は古本を支えてきた、縁の下の力持ちかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。