アメリカで携帯電話の「5G」を巡って、航空便の欠航が相次ぎ、現地の通信会社は、空港周辺でのサービス開始を延期した。

「5G」とは第5世代移動通信システムのことで、高速・大容量・低遅延など様々なメリットがあると言われている。
総務省の資料によると、アメリカでは2019年から本格展開し、日本では東京オリンピックが予定されていた2020年からサービスが本格的に始まっている。今回問題になっているのは、アメリカで1月19日から新たに5Gで使われる予定になっていた周波数の電波で、航空当局が一部の旅客機の計器に干渉するおそれがあると指摘したのだ。
これを受けて日本では、全日空と日本航空が日米を結ぶ一部の便を欠航。
この周波数の電波を使う予定だったアメリカの携帯電話大手「AT&T」と「ベライゾン」も、空港周辺でのサービス開始を延期すると発表した。

ここで気になるのは、5Gは既に日本で使われているサービスだが、これはアメリカだけの問題で国内の空港には影響がないのかということだ。また5G対応のスマホは安心して使っていいのか?
ITジャーナリストの三上洋さんに聞いた。

今回の5Gサービスの延期は3回目
――そもそもとして、この問題の経緯を教えて
まずアメリカでこの周波数の5Gサービスが延期されたのは、実は今回で3回目なんです。もともと去年12月にスタートする予定だったものが、航空当局の要請で1カ月延期になりました。
そして今年1月の頭から始まる予定だったのが今度はバイデン政権の介入で、もう2週間延期され、そして19日に始まるはずだったのが、さらに延期になりました。
――何が問題になっている?
5Gの電波はいろんな周波数を使うのですが、大きく分けて周波数が低くてカバーエリアが広い「sub6」と、周波数が高くて大容量高速に使える「ミリ波」というものがあります。アメリカではAT&Tとベライゾンが「sub6」の3.7~4.2GHzを、周波数オークションで落札しました。
実は、この周波数の隣にある4.2~4.4GHzは、ずっと以前から「レーダー高度計」というものに使われています。レーダー高度計は、飛行機から電波を出して地上までの距離を測るもので、離着陸するときなど空港周辺だけで使います。
連邦航空局は、このレーダー高度計と「sub6」で干渉が起きるとしています。またボーイングなどの航空業界でも、昨年から問題があるのではと指摘していたんです。
フランスなどでは、空港近辺の5Gは出力を下げ、指向性を強めてレーダー高度計に影響が出ないようにしています。しかしアメリカは国土が広いので5Gの電波を高出力してもOKだったんですね。
日本は飛行機に影響が出ない周波数を使用
――日本の5Gは日本の空港に影響がない?
日本ではちゃんと調査をして、レーダー高度計に影響が出ないような周波数を使っているので大丈夫です。
――今後はどうなる?問題解決の道筋は?
この問題は、利害関係がぶつかっているところがあります。まず「航空業界」は、国土が広いアメリカにとって非常に重要で、飛行機が飛ばないと経済に大きな打撃になってしまいます。
もう1つは「携帯電話業界」の5G、これを普及させるのはアメリカの国策としても重要です。
この2つの間で、バイデン政権が「ちょっと止めて」みたいなことをやってる。今のところ延期しただけですので、どう解決するかは、はっきりしていません。
――携帯電話業界と航空業界のどっちの問題なの?
どちらも悪くなく、基準がちゃんとできてないのが問題なのかなと思います。政府が空港での5G使用のルールをちゃんと決めておけばよかったんでしょうね。
――日本の5Gのスマホは安心して使っていい?
そうですね。携帯電話の基地局の問題なので基本的には関係ないと思います。

三上さんによると、空港周辺のサービスが延期されたことで飛行機に問題が起きることは現状ではないという。今回はアメリカの新たな5Gサービスの電波の周波数が、レーダー高度計の周波数に隣接することが問題だったため、日本の空港やスマホの使用に不安を感じた人は安心して良さそうだ。