発生から27年となる阪神・淡路大震災は、今も神戸の「開発」に大きな影響を与えている。壊滅的な被害を受けた街を再生する「カギ」は何か。
震災からの街づくりに突き進む、あるユニーク社長の挑戦を取材した。

いまも「復興事業」続く神戸

記者リポート:(震災発生時)
阪急の三宮駅前です。このように、かなり酷い状態で倒壊しています

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神戸の代表的な商業地、「三宮」 阪神・淡路大震災から27年、もう街に爪痕はない。
しかし、この場所に本格的な駅ビルと駅前広場が完成したのは2021年のこと。
神戸市の久元喜造市長に話を聞くと、震災の影響は今も続いていることが分かる。

神戸市・久元喜造市長:
他の都市、例えば大阪、同じ震災で被害を受けた西宮、最近では姫路ですよね。そういう周辺都市に比べて、神戸の街づくりは相当遅れた。駅前には人が集まるし、非常に大事な場所だが、残念ながら震災もあって。極端な言い方をすると、駅前がほったらかしになっていた

街づくりが遅れた理由は、震災で抱えた1兆円もの借金。さらに、過去に神戸市が進めてきた大規模開発が行き詰まり、「負の遺産」になりつつあったことも拍車をかけた。

久元市長:
それは『株式会社神戸市』の手法です。山を削って海を埋める。これによって(山に)ニュータウンができる、(海に)ポートアイランドができる

久元市長:
そういう神戸の都市経営というものが下り坂になり始めていた時に、地震が起きたんだと思います

神戸市長田区。ほとんどの店が燃えてしまった商店街がある。

震災のあと、神戸市はこの大正筋商店街に巨大な「ハコモノ」をつくった。行政の主導で進んだ大規模開発は、地元の商店主たちを苦しめた。

お茶の味萬・伊東正和さん:
『株式会社神戸市』という時代があったから、イケイケドンドンの方々が(市の)トップにおって、『これがいいチャンスやから西の副都心として』って。今になると、これだけ大きいものを造ったからメンテナンスにすごくお金がかかる。それで我々に負担がかかってきている

「再生する!」ユニーク社長が挑む長田の復興

長田区には、ちょっと変わった社長さんがいる。森崎清登さん(69)。タクシー会社「近畿タクシー」の社長だ。

近畿タクシー・森崎清登さん:
これタコ社長っていって社長さんなんですけど、これ、僕をモデルにしている。近畿タクシーのはずが、タコ社長がカポッと取ってるんですね。そしたら何と、『ク』が『ノ』になってしまって、『近畿タノシー』になってしまう

神戸のケーキ屋さんをはしごしてもらう「スイーツタクシー」など、50種類もの面白観光タクシーを生み出してきた森崎さん。
今はコロナが直撃し、観光客はほとんどいなくなった。それでも森崎さんは、観光の新しいスタイルを考え続ける。

森崎さん:
『疲れるから車で待っとくわ』と、他の仲間の皆さんに『どうぞ行ってちょうだい』ということが多々ある。その時に、『お客様!これにお乗りになってください』と申し上げますとね、『面白そうだな』と

足腰が弱い高齢の家族も、タクシーに1人残ることなく、電動カートで一緒に歩いて楽しんでもらうのが目的だ。

森崎さんの行動力、その原点となった場所がある。それが、大正筋商店街だった。

森崎さん:
幼い頃の記憶・思い出が残っている場所がなくなっている、街並みがなくなってることに悲嘆にくれるんです。
自分で思った。もう1回つくればいいじゃないかと思った。その時、言葉に出してですね、『僕は街づくりする。もう1回やり替える!再生するんや!』ってことを口に出して言ったんです、間違いなく

街づくりに加わりたいと思いながら、震災から5年が経った頃、商店街の集まりに誘われた。

森崎さん:
仮設の集会所みたいなのがあって、『隅っこの方に座らんと、ちゃんとみんなと同じようにそこに座りいな』って言ってくれた人がいて。それが(大正筋商店街の)伊東さんなんです

商店街のメンバーでもない、突然やって来た森崎さんを、みんなが受け入れてくれた。 
森崎さんは「商店街を観光地にしよう」と提案。突飛なプランにみな驚いたが、震災の語り部を始めたり、様々なイベントを開催したりと、街に活気が生まれた。

森崎さん:
名物づくりをやろうって言って、観光地やから。なら何がある?ってなったときに『ぼっかけ』があるやないかと。ぼっかけ?そら、おもろいなあって

伊東さん:
つくって終わりじゃなしに、作った後もどんどんどんどんと。ドミノピザに、季節限定のぼっかけピザも作らせたんですね。そういう形で発信したもんな

ぼっかけとは、すじ肉とコンニャクを甘辛く煮た、神戸市長田区の名物料理。
商店街のみんなでPRに励んだ「ぼっかけ」。食品メーカーも巻き込んで、知名度はグングン上がった。

伊東さん:
何とか長田の街を良くしたいという中で、森崎さんと出会って、新たなことを発見できた。社長のアイデアと知恵を借りて、街が1歩も2歩も前進できたんですやん。もうお忘れでございますか?

ハコモノをつくるより、そこに生きる「人」を盛り上げる。みんなで出し合ったアイデアが、人と街に活気を与えた。

森崎さん:
気がつくんですよ、この街は大したもんなんやと。もうあかんと思ってたけど、『大したもんなんや』と起き上がる力を、観光は与えてくれたんです

人のつながりで再生を! ユニーク社長の挑戦

森崎さんが考案した、電動カートを活用する新しい旅。観光庁の補助を受けて、実証実験が始まった。動画も撮影してインターネットに公開し、PRに活用する。

森崎さんは、老舗の洋菓子店の社長の元を訪ねた。新たな「スイーツタクシー」に向けた打ち合わせだ。

ボックサン 福原敏晃さん:
(森崎さんは)だいたい100%、『やります』言う。どんなところから何を言うてきても。『やります』からスタートする

社長同士の会話から、新たなアイデアが次々に飛び出す。

ボックサン 福原さん:
前もって予約をいただいてたら、例えばそのお客さんのためだけのケーキを作るとかね。ショーケースに入っているケーキを出すんじゃなくて。
いつコロナが解消してインバウンドが来られたとしても、すぐ対応できる態勢を持っておくということが大事。
海外の人にはお菓子教室するから!やりますからここで、教えますから。その旅行に組み込むんですよ。森崎さんが関空までタクシーで迎えに行って、その人たちを呼んできて

森崎さん:
こんな大きなものが突然現れるとは知らずに気楽に来たんですけど。大きなコンテンツをいただけたんで、これは頑張ってみようと

思いもよらないアイデアを生み出す、人と人とのつながり。
そんな市民同士のひらめきが、傷ついた街をよみがえらせ、活気づけるカギとなりそうだ。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年1月12日放送)

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