実に激烈な演説だった。
21年1月6日に起きたアメリカの議事堂襲撃事件からちょうど1年を迎えたこの日、バイデン大統領は強烈なパンチを何度も繰り出した。この秋に80歳を迎えるとはまるで思えなかった。

“前大統領”へ強烈パンチ
主たる相手は前大統領。
意図してその名は使わず、敢えて前大統領と呼び続けた。
その数16回。
曰く
「前アメリカ合衆国大統領は2020年の大統領選挙に関して、嘘の網を作り出し、拡げた。彼は原理原則より力を信奉するからだ。アメリカの利益よりも自分自身の利益を重視しているからだ。彼の傷ついたエゴの方が民主主義や憲法より大事だからだ。」
「前大統領と彼の支持者達は彼らが勝つ唯一の道は、あなた方の票を抑圧し、我々の選挙を破壊するしかないと決心したのだ。」
「選挙について嘘をつく前大統領とこの議事堂を攻撃した暴徒達程、アメリカン・バリューとかけ離れた者はいない。彼らは支配したいのだ。南北戦争のゲティスバーグの戦いやノルマンディー上陸作戦などで我々が勝ち取ってきたものを破壊したいのだ。投票の権利や自治の権利、我々自身が我々の行く末を決める権利を破壊したいのだ。」
「彼は単なる前大統領ではない。彼は敗れた前大統領なのだ。自由で公正な選挙において700万票差で敗れたのだ。」
これらの言葉をライブで耳にしたかどうか筆者には不明だが、この「敗れた前大統領なのだ」に、極端な負けず嫌いの前大統領は大いにプライドを傷付けられたことだろうと想像する。

「民主主義の喉元に短刀を突き付けることを何人にも許さない」
返す刀で、バイデン大統領は中国やロシアにも刃を向けた。
「我々は歴史の岐路にある。国内でも国外でも我々は民主主義と専制主義の戦いの最中にあるのだ。…中略…中国やロシアなどの専制主義者達は、民主主義に残された日々が減っていくことに賭けている。」
「実際、彼らは私にこう言い放ったことがある。“民主主義は時間が掛かり過ぎる。国内の対立に囚われ、現在の複雑で日進月歩の世界で成功するのは難しい”と。彼らはアメリカが彼らのようになることに賭けているのだ。」
しかし、「私はそんなことになるとは信じていない。そんなのは我々ではない。決して、そんなことにはならない。」

前大統領による選挙の否定、虚偽の主張、更に、その支持者らによる政治的暴力行為は、中国やロシアのような専制主義国家と同じように、アメリカにとって脅威とバイデン大統領は認識しているのだ。
もっとも、暗黒の日々が終われば光と希望の日々がやってくる旨を強調した辺りで、真珠湾攻撃を引き合いに出したのは大いに気に食わないのだが、これは本題から話が逸れるのでさておく。
そして、バイデン大統領は次のように決意を述べた。
「一年前にこの連邦議事堂で起きた戦いは私が求めたものではない。しかし、見て見ぬふりをするつもりもない。」
「私はこの国を守り、民主主義の喉元に短刀を突き付けることを何人にも許さない。」
「ここアメリカにおいては票を投ずる国民とその意思が勝利を収めるのだ。」

だが、あの前大統領が大人しく引き下がるはずは無い。
また、アメリカ大統領の辛らつな発言一つで中露両国がアメリカへの対抗心を捨てるはずもない。
誰が大統領でも、アメリカの内憂外患は続くのである。
【執筆:フジテレビ 解説委員 二関吉郎】