太平洋戦争の開戦から、2021年で80年。長崎に原爆が投下されたことは国内外で広く知られているが、県内各地には他にも数多くの戦争の爪痕が残されている。

その一つ、五島市福江島の東南東、約35kmの海底には、旧日本海軍の潜水艦24艦が今も眠っている。終戦の翌年、1946年にアメリカ軍の艦砲射撃などによって沈められたのだ。

五島市福江島
五島市福江島
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2017年、この海域を大学教授らの研究チームが音波探査をしたところ、旧日本海軍の潜水艦が海底約200メートルにほぼ垂直に突き刺さった状態で見つかった。

研究チーム:
おーすごいね…(視認された長さは)57メートル

下は海底で、画面の上には艦首とみられる部分がある。高さは約60メートル。周りに見える細かな点は魚影だ。

海底にほぼ垂直に突き刺さった状態で発見 潜水艦の艦首とみられる部分
海底にほぼ垂直に突き刺さった状態で発見 潜水艦の艦首とみられる部分

工学博士・東京大学名誉教授 浦環さん:
(発見した)この時は本当に感動したね。本当…分かってなかった。びっくりこいた。記者会見しなきゃ、説明書作らなきゃ、とか。この時はまだ「伊47」とは分かってない

水深200mの海底に沈む24艦を特定

五島市福江島に2019年から移り住んだ東京大学名誉教授の浦環(うら・たまき)さん、73歳。海洋ロボット研究の第一人者だ。

2017年、浦さんを中心とした研究チームが、五島列島沖に沈む旧日本海軍の潜水艦に関して調査を始めた。

工学博士・東京大学名誉教授 浦環さん:
あるテレビ会社が「『伊402』が沈んでるはずなんで調査したい」と。それは成功して、他はそのままほったらかしになっていて。せっかくここまで来たんだから、他の23艦が一体どうなってるのか、どれがどの艦なのか、きちんと調べたいなと

調査にかかる費用は、クラウドファンディングなどによる募金で賄った。

水中音波探査機で水深約200メートルの海底を調査したところ、24艦の潜水艦の影を確認することができた。

その後、無人潜水機での撮影にも成功し、さまざまな資料と照合して全24艦の名前を特定した。海底にほぼ垂直にそびえたつ潜水艦は、大型の「伊47」と分かった。

工学博士・東京大学名誉教授 浦環さん:
ここの先に魚雷発射管があって、その先から切れてる。この辺は大きく壊れてる。この辺が爆発させたんだろうな

垂直にそびえたつ潜水艦は「伊47」と判明
垂直にそびえたつ潜水艦は「伊47」と判明

原爆の運命を変えたかもしれない「伊58」

そして、これら24艦の中には、戦争の歴史を変えたかもしれない潜水艦がある。

基準排水量1000トンを超え、特攻兵器の一つである人間魚雷「回天」も搭載できる大型潜水艦「伊58」だ。

1945年7月、広島県の呉から南方へ出撃した「伊58」は、フィリピン沖でアメリカの重巡洋艦「インディアナポリス」を撃沈した。

「インディアナポリス」は、8月6日に広島に投下される原爆の部品をアメリカ本土からテニアン島へ輸送した艦船で、「伊58」に撃沈されるわずか4日前にその任務を終えていた。撃沈があと4日早ければ、原爆投下を巡る歴史は変わっていたかもしれない。

工学博士・東京大学名誉教授 浦環さん:
名前は書いてないので、艦の形から見ないといけない。それも壊れてる部分が多い。さらに、網がかかってるから近寄れないとか、内側が見えないとか。だから、どれがどの艦かというのは本当に苦労しました

工学博士・東京大学名誉教授 浦環さん:
日本のすぐそばにこんなに沈んでるんだとほとんど誰も知らないし、私自身も知りませんでした。実際にモノがあるっていうことは、見るっていうことは、とても重要なことだと思います。モノからくるオーラというのは、我々に与えるものがとても大きい。それが海の底に沈んだまま、今もずっと保存されていて、そこで見えるようになったということは、戦争を考える上で大きな意味があるのではないかと

戦争の無残さ伝えて…「伊58」元艦長の遺族

今回、「伊58」の関係者の遺族に話を聞くことができた。

約1300年の歴史を誇る京都の梅宮大社。宮司の橋本以裕(はしもと・もちひろ)さんの父親、橋本以行(はしもと・もちつら)さんは、「伊58」の艦長だった。

潜水艦の被害を考え、レーダーをつけるよう上層部に陳情したという
潜水艦の被害を考え、レーダーをつけるよう上層部に陳情したという

橋本以裕さん:
父親が、いわゆる58号の初代艦長として任命された時に最初に何をやったかというと、潜水艦にもレーダーをつけろと。海軍の上層部に陳情に行って、潜水艦の被害を考えてみろと。出ては帰ってこない、出ては帰ってこないばっかりだから、非常に何度もうるさく言ったらしいですよ

家には「伊57」の遺品が数多く残されている。

橋本以裕さん:
父親が亡くなった時、遺品を整理していたら、あれ、こんな古ぼけた時計…って。それで掃除し直してここに(棚)入れた。これは伊58の士官室の壁にかかっていた時計。父親が使っていた双眼鏡と、記念品として飾っている

橋本以裕さん:
父親は、日本軍は必要以上に損害が多すぎると。それは戦争中から言ってましたんで、できるだけ自分の味方の損害を少なくすることをやかましく言っていた。父親が艦長を務めていた時は、伊58潜もですが、他の艦の艦長をした時もそうですが、1人も戦死者、事故死を出してない。その面では厳しい艦長だったと。部下の方から聞いた話ですけど

「伊57」の遺品の数々
「伊57」の遺品の数々

橋本以裕さん:
「インディアナポリス」の話は、小さい時はどんな船かもわからなかったですけど、父親が昭和30年頃に戦記を書き始めた時に「え、そんな船だったのか」「原子爆弾に関係があったのか」と。(テニアン島に)揚げるまでにやっつけたら、もっとすごかったんだろうけど。それは父親はよく言ってましたね

以前、海没処分の映像を見た時には涙を流したという父親の以行さん。特攻に赴く回天の乗員に対しても無謀な出撃は許さず、命を重んじる軍人だったという。

特攻兵器の一つ、人間魚雷「回天」
特攻兵器の一つ、人間魚雷「回天」

橋本以裕さん:
今、海底に眠ってる船ですね。それは戦争の無残さっていうかね、こんな70数年過ぎてまで見つかったんですからね、将来の平和のために伝えられたらいいんじゃないかなと。いずれは藻屑となって消えていくでしょうけど…

数奇な運命を辿った旧日本海軍の潜水艦「伊58」。海没処分となった他の23艦の潜水艦とともに、今も五島列島沖に眠っている。

引き揚げには膨大な資金が必要なため、研究チームでは今後すべてのVTR化を検討して、戦争の記憶の継承をしていければと考えている。

海底に眠る潜水艦の物語は「海の墓標」というタイトルで、FNS九州8局の共同制作の「ドキュメント九州」として1月17日にテレビ西日本とテレビ長崎で放送。その後、随時、九州・沖縄のフジテレビ系列局で放送される予定だ。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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