忘れてはいけない大会経費

「東京オリンピック・パラリンピック」。2021年で最も話題に上がったトピックの1つにあげない人はいないだろう。猛威を奮う新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、前代未聞の1年延期を経て開催された今大会。選手達の奮闘に多くの勇気と感動を与えられた。

大会が終了し3ヶ月がたった今、その感動は忘れることはない。しかし、我々はこの大会を開催するにあたって、1兆円を超える費用が使われていること、そして我々が支払っている税金も使われていることを忘れてはいけない。

大会経費1兆4530億円 追加の公費負担なし

「大会経費は簡素化をはじめとする支出抑制や無観客開催に伴う契約の見直しなどにより1兆4530億円となった」

2021年12月22日。武藤事務総長が大会組織委員会の理事会後の会見で大会経費が1兆4530億円になる見通しを明らかにした。仮設工事中止・会場使用期間短縮などで会場関係支出は640億円減、ほぼ全会場を無観客としたことで輸送費・警備費が削減、新型コロナウイルス対策費も観客対象の支出がほぼ不要に。こうしたことが要因との説明だった。

その結果、2020年12月に公表された大会開催前の「バージョン5」の予算、1兆6440億円から約2000億円削減。内訳はそれぞれ大会組織委員会が6343億円、東京都が6248億円、国が1939億円となり、多くの予想に反し、東京都や国による“追加の公費負担は発生しない”見通しとなった。

大会経費の見通しを明らかにした武藤事務総長(2021年12月22日)
大会経費の見通しを明らかにした武藤事務総長(2021年12月22日)
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“チケット代”減収分はどうやって補填?

大会は原則無観客開催となり900億円分のチケット収入がほとんど見込めなくなったことで、収入が不足し東京都や国が代わりに負担するという見方が強まっていた。

チケット収入は学校連携観戦チケット分などの4億円にとどまり、896億円の減収に。収入全体としては、867億円減の6343億円となった。一方、支出全体は、組織委が簡素化や支出抑制で239億円節減でき、6971億円。

(収入)6343億円 -(支出)6971億円 = マイナス628億円

この628億円の支出超過。どのようにして「追加の公費負担なし」、つまり収支均衡にできたのだろうか。

大会組織委員会の不足分 東京都が実質肩代わりへ

大会経費の見通しが発表される前日、大会組織委員会、都、国は経費の分担を見直し、都が一部の仮設整備費などを「共同実施事業負担金(安全対策)」として支出することで合意、628億円支出し、大会組織委員会の収支の差額を実質的に肩代わりするかたちとなった。

都が負担するはずだった大会経費の大幅な削減が見込めたことから、“新たな公費負担なし”で負担できるという理屈だ。

都からの“支援”を受け収支均衡となったことに大会組織委員会の武藤事務総長は、次のように評価した。

「チケット収入の減収が生じた中で、歳出削減に加え共同実施事業の見直しによって結果的には収支を均衡することができた。予算収支を均衡させることは重要なことなので責任は果たすことができた」

都が大会組織委の不足分を“肩代わり“する形に
都が大会組織委の不足分を“肩代わり“する形に

“追加負担はない”ものの・・・膨れ上がった大会経費

そもそも東京大会の経費が初めて公表されたのは2013年。物理的にも金銭的にもまとまっている「コンパクト五輪」をうたっていた招致委員会は、大会開催計画文書「立候補ファイル」で7340億円と公表した。

そこから東京開催が決定し、実際にかかる輸送費やインフラ整備費など関連経費が計上され、新型コロナウイルスの感染が拡大する直前の2019年、大会経費は総額1兆3500億円にまで上っていた。

その後、2020年1月に日本で初めての新型コロナウイルスの感染者が確認され、その勢いは広がる一途をたどり、3月に安倍元総理大臣が大会の1年延期を決定することに。簡素化や支出抑制に取り組まれる中、2020年12月上旬に大会前最後となる予算の発表があった。

「確実に開催するためには強固な財政基盤が不可欠。組織委だけで賄いきれない費用について国、都の負担で合意した」

当時の大会組織委員会の森喜朗前会長はこのように話し、大会の延期や新型コロナウイルス対策に伴う追加経費を総額2940億円計上することで、大会組織委員会、東京都、国の三者で合意したと発表した。こうして2020年12月に公表された「バージョン5」では、大会経費の総額は1兆6440億円にまで膨れ上がっていた。

組織委・森喜朗前会長「組織委だけで賄いきれない費用は国・都の負担で合意」(2020年12月4日)
組織委・森喜朗前会長「組織委だけで賄いきれない費用は国・都の負担で合意」(2020年12月4日)

透明性・信憑性から国民の理解を

オリンピック・パラリンピックとしては初の1年延期を経験し、新型コロナウイルスへの対応など、様々な課題があったことには間違いない。しかし、選手達は応援に応えるように、オリンピックでは、日本選手団は史上初となる27個の金メダルを獲得し、メダルの総数は58個となり過去最多を更新した。さらにパラリンピックでも過去2番目に多い51個のメダルを獲得。こうして、選手達は輝かしい成績を残し、国民は大会を通して多くの勇気と感動を与えてもらった。

一方で、大会経費については、大会組織委員会、東京都、国、それぞれにおいて十分な説明、そして透明性が示されていない。すでに2030年の冬季オリンピック・パラリンピックの誘致に札幌市が乗り出しているが、こうした数字の部分の透明性・信憑性がしっかりと示されない限り、国民からの理解は得られないだろう。

(執筆:フジテレビ経済部 東京オリンピック・パラリンピック担当 秀総一郎)

大会経費について組織委・都・国から十分な説明はなく、透明性は示されていない
大会経費について組織委・都・国から十分な説明はなく、透明性は示されていない
秀 総一郎
秀 総一郎

フジテレビ報道局経済部記者。経産省・公取委・エネルギー・商社業界担当。
1994年熊本県生まれ 幼少期をカナダで過ごす。
長崎大学卒業後、2018年フジテレビ入社。
東京五輪、デジタル庁担当を経て現職。