「ニーズに合わせて増加 昼間につく除夕の鐘」について平松秀敏解説委員に解説頂く。

社会部・平松秀敏解説委員:
「除夜の鐘」を巡る今どきの事情について取り上げます。最近最も話題になっているのは除夜の鐘の「騒音問題」。鐘の音がうるさいという近隣からのクレームにより、除夜の鐘を取りやめるお寺もある

この記事の画像(13枚)

一番話題になった東京・小金井市にある「千手院」は住宅街のど真ん中にある。

除夜の鐘の音をめぐって、2013年に近所の人が民事調停を申し立てた。民事調停というのは裁判ではないものの、裁判所の調停委員会のあっせんによってトラブルを話し合いで解決する制度のこと。

話し合いの結果、「防音パネルを設置すること」と「鐘の突く時間を限定すること」を条件に除夜の鐘を突くことはできるようになったが、千手院ではそれ以降、除夜の鐘を行っていない。2021年の大晦日も鐘を鳴らさないという。

「除夜の鐘」ならぬ日中に突く「徐夕の鐘」が増加

除夜の鐘をやめてしまうのではなく、時間帯をズラして日中に鐘を鳴らす寺も増えていて「除夜の鐘」ならぬ「除夕の鐘」と呼ぶという。

静岡の大澤寺は騒音の苦情電話により2004年に除夜の鐘を中止。檀家からの要請もあって2014年から再開したが、昼間に鐘を突いている。2021年も午前11時から鐘を突くという。

「高齢化」が原因で除夜の鐘の時間を早める

一方で、騒音対策ではなく「高齢化」により「除夕の鐘」を行っているお寺もある。

群馬県の宝徳寺では、深夜に鐘を鳴らしていた頃は80人程度しか集まらなかったが、昼間に鐘を突くようになってからは2019年には1000人に増えた。お年寄りにとって寒い中に夜中に寺まで行くのは大変だ。日中あれば子どもと一緒に参拝できる。高齢化が進む地方ならではの発想の転換といえる。

福岡市の東長寺も2018年から時間を早めて午後6時に鐘を突いているという。大晦日にお寺の作業を手伝ってくれるのはお年寄りが中心で深夜の作業は大変ということで、時間帯をズラした。

鐘を突く時間を早めたが、実は「大騒ぎする若者対策」にもなった。例年、除夜の鐘の時間帯に、カウントダウンイベントを終えた若者たちが詰めかけ、深夜3時まで騒がしかったという。時間を早めて除夕の鐘にしたところ、そんな若者たちが姿を消した。

除夜の鐘をYouTubeでライブ配信

そして今どきの事情と言えば、やはり「ライブ配信」。京都の浄土宗総本山・知恩院は、僧侶たちが、体を使って豪快に鐘を突くことで有名。大晦日だけで、3万人も訪れるという。

コロナの影響でで密になることを避けるため、2020年は参拝自体を中止してYouTubeでのライブ配信に切り替えたという。2021年は人数を限って参拝を受けるが、ライブ配信は続けていくという。

他にも、神奈川「貞昌院」や静岡「龍谷寺」、鹿児島「西本願寺鹿児島別院」などのお寺も、コロナ対策で密になり過ぎないためや、遠方の人にも除夜の鐘を楽しんでもらおうと、除夜の鐘をライブ配信を行っている。

今どきの事情を紹介してきたが、騒音問題、高齢化、コロナ対策、ライブ配信など、私たちがニュースで取り上げているような事情が、除夜の鐘にも押し寄せている。

この点について専門家に話を聞いた。

鈴鹿大学・川又俊則教授:
除夜の鐘は地域の協力あってのもの。関わる人のニーズや時代に合わせた工夫をしていくことは当然の流れ。明確なルールがあるわけではないので昼に打つなど変化しながらでも続いていくことが重要

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏:
時代が変わっちゃったよね。子どものころはやっぱり夜中に鐘ついて、寝て、朝起きたらお年玉がもらえることがワクワクしていた。ライブ配信もいいけど、108の煩悩をぶっ飛ばすのが除夜の鐘の本来の姿だから、みんなに覚えていてほしい

(「イット!」12月28日放送分より)