「孤独」という言葉を聞いた時、どんなイメージを持つだろうか?

「ひとりぼっち」「寂しい」「仲間外れ」などネガティブなイメージを連想することの方が多いかもしれない。しかし、そんなマイナスイメージとは裏腹に、実は「誰かと共に行動するより、一人で過ごすほうが好きだ」と常日頃から考える人は少なくない。

『「1人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)などの著書がある、独身研究家の荒川和久さんが行っている調査によれば、 孤独が寂しいと思う人と快適だと思う人の割合は、「だいたい半々」だという。

荒川さんの話をもとに、「孤独」という言葉の意味をあらためて問い直したい。

今や業界にも浸透した「ソロ旅」

一般的には誰かと一緒じゃないと楽しみにくいと思われがちな活動を「ソロ=一人」で楽しむ「ソロ活」。例えば、ソロ焼肉、ソロ居酒屋、ソロキャンプ、ソロディズニーなど。これが近年、脚光を浴びている。

荒川さんによれば、数あるソロ活のなかでも定番は「ソロ旅」、つまり「一人旅」だという。「特に多いのが女性の1人旅です」と、荒川さん。

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「少し前までは、女性の一人旅で温泉旅館に行くと『自殺の恐れがある』などの理由で泊めてもらえない時代があった。なぜそんな理論に結びつくかというと、社会の中に“女の人がひとりで旅する訳がない”という前提があったからです」

女性が一人でも気にすることなく外食や旅行などのソロ活を満喫する現代では、「女性の一人旅=ワケあり」のようなイメージはもはや時代遅れだ。

また以前は、旅行会社が企画した「パック旅行」も最少催行人数が2人とソロ旅を前提としない募集内容が多かったが、それも大きく変化している。ソロ旅や一人旅は今や観光業界にとって無視できない存在だ。事実、ソロ旅に関連したキャンペーンも増えている。

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「現在は旅行の予約サイトでも、1人分の予約ができますし、部屋も追加料金など払うことなく自由に選べるようになりました。1人旅って、その日の朝にふと思いついた時に、フラッと出かけられるのが醍醐味ですよね。旅といっても別に海外に行く必要もなく、それこそ電車に乗って日帰り旅でもいい。

ですが、どこかに行きたいなと思っても家族がいたり、恋人がいたりすると『今日、あそこに行ってみない?』と提案しても断られたり、現地でも行きたい場所が合わなかったりして、面倒なことが生じがちです。だから視点を変えてみるとソロ活は合理的な選択とも言えるのです」

一期一会でファンの仲間と出会うソロフェス

また、コロナ禍では音楽フェス自体が中止となったケースは多いが、2019年頃から音楽フェスに一人で行く「ソロフェス」をする人々も増えたという。

「音楽フェスのような大勢のアーティストが出る中で、すべてのアーティストのファンなわけはないですよね。絶対に何人かの『お目当て』がいる。逆に言ったら、そのお目当てのライブだけ盛り上がれば、あとはごはんを食べたりお酒飲んだりしていたいわけです」

友人と行くと目的のアーティストが異なる場合もあるだろう。よく知らないアーティストのライブでも「お付き合い」の気持ちで盛り上がらなければいけなかったり、自分の観たいライブの時に「ごはんを食べよう」と言われたりして、意見が食い違うことも多いはずだ。

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「自分が好きなアーティストのファンは、その場に集まっているわけです。だから、ひとりでフェスに行っても、実際はひとりじゃない。僕はこれを、いわゆる『茶室型の人間関係』と呼んでいます。

茶室に集まる人は確実に、お茶に興味がある人たち。そのフェスのAというアーティストのライブで盛り上がっている人たちは、確実にAのファン。名前も素性も知らなくたってAが好きだという気持ちだけで、一期一会で友達になれる。一緒に写真を撮って盛り上がっても、名前も聞かずLINEも交換せずそのまま別れることもある。それでも心の中は満たされるじゃないですか」

現在のようにソロ活が注目を浴びるようになった背景には、SNSの存在がある。ソロ活の投稿を見て、「自分もそうだ」「自分もソロ活がしたい」と勇気づけられる人々の存在がいた。

「実際、『ソロ活』的なことを行う人たちはこれまでも存在しました。その一方で、社会生活を送る上で揶揄されたら嫌だな、と自分を抑えてきた一人好きの人もいたわけです。

そんな人たちがSNSを通して、好きなようにソロ活をして揶揄もされない人々の存在に気付き始めた。『じゃあ、堂々とソロ活してもいいんだ』と思える人が増えている。今は、そんな過渡期だと思います」

「孤独」と「孤立」は違う

ソロ旅もソロフェスも、「自分にはできない」「一人で寂しそう」と感じる人はいるだろう。そもそも孤独への耐性は人それぞれに備わった「性質」で、意識的に変えられるものではない。

そして、孤独への耐性が高いから良い、低いから悪い、とジャッジするものでもない。

「ソロ活と、誰かと共に行動する『トモ活』とのバランスは、個人によって快適な割合が異なります。だから、孤独耐性が高い人も低い人も、それぞれのバランスを保ちながら生きていくと考えた方が実は良いのです。すべて誰かと一緒に行動しなければ、とか、いつも誰かと一緒にいなければ、という極端な考え方になってしまう人は、実は孤独に苦しみがちです」

孤独耐性が高くても低くても、「孤独」にマイナスなイメージが多くあれば生きづらさを感じる場面もあるだろう。では、もし今、孤独にとらわれがち人がいたならば、どうすればいいのだろうか?

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「まず前提として、孤独と孤立を分けて考えなくてはいけません。『孤立』とは、社会で生きる中で誰からも助けられず、頼る人が誰もいない状態です。それには手を差し伸べなければならない。でも『孤独』とは、あくまで自分の主観的な感情です。それに対して誰も善悪の判断はできない。そのことにまず気付くことです」

孤独への感情は主観的で、「人それぞれ」であり、「孤独は悪だ」と自分の主観的な誰かの「正しさ」を押し付けるのは「正しさの暴力」だと荒川さんは語る。

「例えば昔、一人でお弁当を食べる学生が、居場所がなくてトイレにこもる『便所飯』という問題がありました。あれは本人が、一人でお弁当を食べること自体を嫌だと思ってなかったとしても、周囲が主観的な感情で『あいつ本当は一人じゃ嫌なはずなのに、意地張ってるよ』などと勝手に判断して揶揄していた場合もあったでしょう。そして本人もそれを避けたくてトイレにこもったりしていた。

逆に揶揄ではなく、良かれと思って『こっちに来て、一緒にご飯食べようよ』と声をかけたとしても、果たして本人にとって本当にいいことなのか。そのことを考えたほうがいい。だからこそ『孤独対策』のあり方は多様であるべきで、一元的な対策ではむしろ危険なのではと思います」

「新しい自分」を自分の内側に充満させる

家族や同僚、友人などに囲まれ、物理的に人がたくさんいたとしても、孤独を感じる人はいる。誰も自分のことをわかってくれない、相手のことを実は何も知らないと感じる、いわゆる「つながり孤独」だ。

こういった人々に、物理的に「孤独ではない環境」を提供しても解決にはならない。知ってほしいのは、孤独との向き合い方だ。

「自分とは違う誰かと向き合えば、その度に必ず違和感という自分との違いを感じます。これが孤独の感情が生まれる一つのポイントになる。この孤独を自分の外側に置いて主観的に見ると、“怖い、寂しい”という感情になります」

相手との「違い」を寂しく感じ、ネガティブにとらえれば孤独は募るばかり。そうではなくて、「違い」を認識することで「新しい自分」を発見できたと捉えてみる。

そうすれば誰かと向き合って「違い」を感じるたびに「新しい自分」が見つかったと思えるようになるだろう。この発見を毎回、自分の外側に放置せず、自分のなかに取り込んでいくのだ。

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新たな発見もそのままにしておけば忘れてしまう。人に話したりSNS等で発信したり、自分の中で整理してアウトプットすることで血肉となり、自分の内側にため込んでいけるという。

「人と接する時だけじゃなく、本を読んだり、旅に行ったり、映画を見たりすると、その度に『新しい自分』が生まれます。それを全部内側に取り込んでいけば、自分の中にたくさんの『新しい自分』が充満している状態になる。

それらが密接に絡んで、自分の中でネットワーク化されるわけですね。それを認識すれば、『自分は色んな人に会うことによってこんな充実した人生を送ってこれたのだ』と感じられる。同時に、それは『新しい自分』を生んでくれた相手への感謝にもつながる。そうしたら、決して心は寂しくないんです。寂しいと思ってしまうのは、友達がいないからではない。『あなたの中のあなたが足りない』のです」

誰もが少なからずソロ活を日常的に行っているとも言う。通勤時や一人での買い物もそうだ。その時々で、きっと「新しい自分」が芽生えているはず。

これを繰り返して自分の心の内側を充満させていくことが、孤独への多様な価値観を獲得することにつながるはずだ。それが、自分自身の生きやすさにもつながっていくのかもしれない。

荒川和久さん
荒川和久さん

荒川和久
独身研究家、コラムニストでソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者。著書には中野信子さんと共著『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡「オワ婚」時代のしあわせのカタチ』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)など。

取材・文=高木さおり(sand)

プライムオンライン編集部
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