アフガニスタンで人道支援を続けていた中村哲医師が凶弾に倒れて2年。

今、未曽有の大干ばつが大地を襲っている。中村医師の信念を受け継ぐペシャワール会は、餓死する人々を1人でも減らすため活動を続けている。

築いた用水路が65万人の自給自足を支える

今回、初めて公開された2004年に撮影された中村医師のインタビュー。

――先生の事業は、この先どのような展開になるのでしょうか?

中村哲医師:
これから先どうしたらいいかは、私も実はよく分からないですね。ただ、この干ばつ問題はかなり大きいので。案外、長い長い仕事になるのではないかなと思っているんですね

用水路の建設について語る中村哲医師(2004年)
この記事の画像(20枚)

その言葉通り、中村哲医師(享年73)は2019年12月、凶弾に倒れるその日まで、干ばつにあえぐアフガニスタンの荒野に用水路を築いてきた。

中村哲医師:
ちょうど、うまい具合に耕作可能な土地が、盆地状になっている

――これが全部緑化される?

中村哲医師:
完全に緑化されます

15年以上もの間、時には自らも重機を操り築き上げた用水路周辺は、約1万6000ヘクタールが緑化され、今も65万人もの自給自足を支えている。

広がる不毛の大地、経済封鎖で追い打ち

しかし、この青々とした緑の大地からは想像もつかないほど、アフガニスタンは今、危機に瀕している。現地スタッフからの映像を見せてもらった。

ペシャワール会・藤田千代子さん:
普通なら稲刈りの時期なんですよね。本当に何もないという…。こういう状況を見て、寒気を覚えました

辺り一面に広がる不毛の大地。ほんの少しの水を求めて、長い距離を行き来する子どもたち。用水路周辺からほんの少し離れた集落に広がる、この荒れ果てた土地こそが、アフガニスタンの真の姿だ。

未曽有の干ばつに襲われているアフガニスタン

WFP(国連世界食糧計画)は2021年冬、アフガン国民の半数以上にあたる2280万人が飢餓に、そのうち870万人以上が餓死する危険があると発表した。これは中村医師が用水路建設を決断した当時よりも2倍以上悪化した数値だ。

ペシャワール会・藤田千代子さん:
今年の干ばつは本当に厳しくて。小麦が蒔けないということは、来年の主食がないということなんですよ。それくらい食べられない人たちがいる中で、国際的な経済封鎖があるというのは、大変厳しいですよね

食糧危機に拍車をかけているのが、アフガニスタンへの「経済封鎖」だ。

2021年8月、イスラム主義組織タリバンが政権を獲得。女性の権利を重視しないことなどを問題視した欧米諸国が、制裁としてアフガスタンの資産を凍結した。

経済封鎖にともなう資金難の中、給料より用水路事業を優先してほしいという現地スタッフもいて、なんとか用水路建設が続いている。

ペシャワール会・村上優会長:
お金がとにかく届かない。お金が引き出せない。給料が払えていないし、薬代がないということで、医療も立ちゆかなくなる。お金を止めてしまうと、生活が全て回っていかない

欧米諸国による経済封鎖で資金難に

ペシャワール会・村上優会長:
タリバンが言うイスラム社会というのは、確かに女性に対して自由を制限しているということはあるんだろうと思いましたが、いま我々にとって重要なのは、干ばつの中で人が命をつなぐことができるかが一番の課題。世の中が、人権や民主主義をテーマにタリバンをたたいていることには、違和感を持って見ていました

緊急のアフガン問題は、政治や軍事問題ではない。パンと水の問題である。命の尊さこそ普遍的な事実である(中村哲医師の言葉)

アフガンの人々の手で復興を…手引書が完成

かつてない困難に直面しながらも、ペシャワール会は歩みを続ける。限度額いっぱいに引き出したわずかな資金と、現地の農業事業で得た収益を工面して、中村医師が亡くなって以降、初めてとなる新たな用水路の建設を完成間近まで進めてきた。

タリバンが実権を握ったあとも、ペシャワール会の会員は700人増えた。さらに…。

ペシャワール会・藤田千代子さん:
これが「PMS方式ガイドライン」です。地図に書き込んだ図とか、中村先生が書いたり撮ったりした写真を使っているので、この中にも中村先生がいるような感じかな

JICA(国際協力機構)が生前の中村医師たちと共に執筆を進めたガイドラインが、2021年に完成した。

用水路建設の方法を示したガイドライン

先端技術を用いなくとも、頑丈な用水路を建設する方法の全てが、358ページに渡って記されている。ガイドラインは、現地語のパシュトゥン語とダリ語にも翻訳。ガイドラインを読めば用水路建設が可能になる“アフガン復興の手引書”だ。

ペシャワール会・藤田千代子さん:
外国人が来て、勝手に何かやってるというのではなくて、みんなで理解して協力する。アフガニスタンのエンジニアたちが勉強して、自分の国作りをしていけるような環境になっていけばいいなと

現地の人が自らの手で復興を(中村哲医師の言葉)

ガイドラインの完成こそ、中村医師の長年の夢だった。

真心を持つことが、平和への一歩

11月27日、「2周年追悼の会」が福岡市で行われ、約250人が生前の中村医師を偲んだ。

中村医師の長女・中村秋子さん:
早いもので、父が亡くなって2年近くになります。子どもたちが飢えていくことが普通の世界だとすると、本当に恐ろしいことです

 

中村医師の長女・中村秋子さん:
生きていくために必要な支援が滞ることは、決してあってはなりません。父が生きていたら、同じことを言うと思います

ペシャワール会・村上優会長:
我々は、アフガニスタンを見捨てない。真の人類の共通の文化遺産は、平和と相互扶助の精神である。それは、我々の心の中に築かれるべきものである。我々は、アフガニスタンでの事業を続けて参ります

真の平和とは何か? 平和の実現のために私たちにできることは?初めて公開されたインタビュー映像の中で、中村医師は次のように締めくくっている。

――誰かを助けたいと思うときに、海外に行かずとも身近にできることはある?

中村哲医師:
そうです。別に日本を飛び出して、自分が変わるかというと、必ずしもそうではない。みんな、いろんなものに縛られて生きてるんですね。その縛られて生きていく中でも、これだけは人間最低限のルールとして持っておかないといけないこと、あるいは心構えとして持っておかなくてはいけない真心ですね、これをしっかりと離さない。そのことが一番大事なんじゃないかと思いますね

真心を持つ…。中村医師が残した言葉は今も静かな輝きを放ち、平和を築くための道を照らしている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本
メディア
記事 534