西日本豪雨をきっかけに、愛媛・大洲市で家業の伝統産業「養蚕」の担い手になった青年。養蚕の新たな可能性をひらく「新しい商品」の開発に挑戦している。

シルクを使った新商品開発に挑戦

養蚕農家・瀧本慎吾さん:
大洲市で、ことしで3年目で養蚕農家として頑張っています。瀧本養蚕の瀧本慎吾です。これからよろしくお願いします

8月下旬、大洲市の宿泊施設に集まったのは、あるプロジェクトチームだ。
そして、緊張の面持ちで座席に座るのは、大洲市の養蚕農家・瀧本慎吾さん(26)。

大洲市の養蚕農家・瀧本慎吾さん
大洲市の養蚕農家・瀧本慎吾さん
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その会場のテーブルに並べられたのは、瓶に詰められたプリンだった。

養蚕農家・瀧本慎吾さん:
今となっては、まさか自分がじいちゃんと一緒に仕事をしているとは、全く思っていませんでした

慎吾さんが、大洲市で瀧本さん一家のみになった養蚕業の世界に飛び込んだのは、西日本豪雨がきっかけだった。
祖父・亀六さん(81)の蚕が全滅したことから、伝統産業の担い手になる道を選んで早くも2年半となる。

西日本豪雨で祖父の蚕が全滅したことがきっかけに
西日本豪雨で祖父の蚕が全滅したことがきっかけに

2021年2月、「ことし一年間を通して、何か自分の糧になるようなものにどんどんチャレンジしていけたらいいなという一年にしたいです」と抱負を語っていた若き養蚕農家の次なるチャレンジ。
それは、地元・大洲の企業を中心に結成されたプロジェクトチームとして、自身のシルクを使った新しい商品を開発することだ。

プロジェクトリーダー(株式会社KITA)・井上陽祐さん:
(大洲で)すごい隆盛を極めた養蚕業も、今では瀧本ご一家しかやられていない状況なんですけど、新しいシルクの使い方をまた大洲で生み出したい

“シルクパウダー”でプリンがしっとり食感に

このプロジェクトは、2021年7月にスタートした。大洲にある産業をベースに、新しい商品の開発を模索していて、プリンもそのうちの1つだ。
秘策は、底のソースにあった。

豆乳プリン製造担当(中川食品)・中川雄一さん:
シルクパウダーは、ソースの方に入っています

養蚕農家・瀧本慎吾さん:
おいしいです。自分の作ったシルクが入っているとは思えない

この日は、地元の老舗豆腐店が作った豆乳プリンの試食会。ソースは、カボチャ・みたらし・フランボワーズ味。慎吾さんが育てた繭のパウダーが配合されている。

プロジェクトのメンバー:
なかなかソースにパウダーが何%っていうのは、表現しづらいかもしれないですけど、どのくらいのお蚕さんが…

プロジェクトのメンバー:
今で言うと、100グラムに対して0.1グラムくらいです

混ぜられたシルクパウダーは、ソースのわずか0.1%。いったい、どんな効果があるのか。

プロジェクトのメンバー:
(パウダーの)効能がどのように良いのか分からないですけど、保水性が高いのは分かりますよね。作ってても、すぐに(ソースが)固まっちゃいますから

どうやらソースにより、しっとりとした食感が生まれるようだ。

まだまだ試作段階。
3週間後の9月中旬、プリンを製造する担当者らが、さらなる試作に挑んでいた。

プロジェクトのメンバー:
(シルクパウダーを)0.3%くらいにしてるんですよ

試食会をふまえて、ソースに占めるシルクの割合を0.1%から0.3%にアップした。

プロジェクトのメンバー:
さっきより温度が上がると溶けてるじゃないですか、シルクパウダーも

増やしすぎても溶け切らず、「粒状の固まり」ができてしまう。
加減がかなり難しいようだ。

まだまだ試作は続く
まだまだ試作は続く

また、ソースのベースも、蚕にちなんだ桑茶のほか、河内晩柑も新たな候補に加わった。
新たに試作されたプリンは、ソースも赤・黄・緑とバランスが良い配色になった。

河内晩柑味、桑茶味も候補に
河内晩柑味、桑茶味も候補に

豆乳プリン製造担当(中川食品)・中川雄一さん:
豆乳の魅力とシルクパウダーの魅力が合わさった時に新しい価値が生まれると思っているので、それを皆さんに早くお届けできたらなと思っています

豆乳プリン製造担当・中川雄一さん
豆乳プリン製造担当・中川雄一さん

3種類のシルク入りプリンをお披露目

2021年分の養蚕が終わった10月8日。
慎吾さんが自宅からオンラインで臨んだのは、養蚕業の発展を目指して年に1回開かれる「シルクサミット2021」。約3カ月に及んだ新商品の開発の成果が、全国にお披露目される瞬間だ。

シルクサミット2021で新商品をお披露目
シルクサミット2021で新商品をお披露目

プロジェクトリーダー(株式会社KITA)・井上陽祐さん:
プリンに対してはですね、ソースに入れることで照りっとした見た目と、しっとり感が増すということが分かりました。河内晩柑味、フランボワーズ味、桑茶味と3種類のラインアップとなっております。こちらは、絹を意識した白いパッケージと柔らかい雰囲気のパッケージデザインで販売を検討させていただいています

(Q.パッケージデザインを見るのは?)
養蚕農家・瀧本慎吾さん:

初めてです

パッケージデザインを見た瀧本さんの感想は
パッケージデザインを見た瀧本さんの感想は

興味深そうにタブレットを見つめる慎吾さん。プリンの完成・販売は、年明け1月が目標だという。

さらにプロジェクトは、プリンのほかにも…

プロジェクトリーダー(株式会社KITA)・井上陽祐さん:
こちらは、シルクパウダーを釉薬に入れた砥部焼でございます。白の中にまだら模様ができて、味のある焼き物というのができてきますので、これも新しく「シルクホワイト」という名前を名付けて商品展開をしていこうと考えております

大洲市と砥部町の伝統産業が融合する新たな試みだ。

(Q.新商品開発の動きは、養蚕を継いだ時は想像していた?)
養蚕農家・瀧本慎吾さん:

いや、全然していなかったです。お布団にうちの繭は、ほとんど使われているものだと教えられていて。まさか始めて2~3年で、食べたり、砥部焼になったり、こういったものに広がっていると思うと、すごく(養蚕を)やってよかったなっていう思いでいっぱいです

養蚕の可能性が、ぐんと広がった3年目の秋。
大洲の伝統産業を託された青年は、地域の幅広い産業の発展も担いながら、着実に歩みを進めている。

(テレビ愛媛)

テレビ愛媛
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