中国の山東省・青島と遼寧省・大連は日本の成田空港から中国に向かう人たちの代表的な隔離地である。青島便は全日空が毎週水曜、大連便は日本航空が火曜~金曜にそれぞれ定期便を運航しているためだが、幸か不幸かこの2カ所で隔離生活を経験することになった。
2021年2月の隔離の際には青島のホテル「青島紅樹林度暇世界」に、11月には大連にあるホテル「圣(聖)汐湾度假酒店」にそれぞれ宿泊した。隔離生活はどこも同じようなものかと思いきや、お国柄ならぬ「省柄」もあるようで、その違いはなかなか興味深かった。


いまや日本にとって最大の貿易国である中国との付き合いは不可欠でもあり、今後渡航を予定している方も多いだろう。少しでもその参考になればと思い筆を執る次第である。
なお青島では別の記者が8月に隔離を経験している。
誕生日にケーキ、3日に一度のおやつ…検査漬け、中国の隔離政策に見る“アメとムチ” (fnn.jp)
日々の食事
一番大事なのは何といっても食事だろう。大連に来て驚いたのは日本食の多さだ。納豆や冷奴などに加え、お湯を加えて作る味噌汁もある。特に納豆は頻繁に出てくる。私は納豆好きなので大歓迎だが、以前によほど強く納豆を所望した人がいたのだろうか。丼物も牛丼や親子丼、うな丼などがあり、味もまずまずである。



2020年の夏には支局のカメラマンが大連で同様の隔離生活を経験したが、その時と比べると食事の内容が日本人向けにだいぶ改められたようだ。
8月に青島に滞在した記者によれば最近は日本人の味覚に合わせた料理を提供し、デザートのサービスもあるようだが、2月当時は中華料理が中心だった。
また、今回は長期の隔離生活を心配した方から海苔の佃煮や鮭フレークなど、ご飯のお供をいただき持参した。日本と同様、米を主食とする中国で日本のお惣菜は力強い味方であり重宝している。人と顔を合わせることが全くないので、心置きなく食べることが出来るにんにくは個人的にお勧めである。

水回り
大連のトイレには洗浄機能付きの温かい便座が待ち受けていた。日本の優れた水回りに慣れた身にはありがたかった。青島のトイレにはない設備である。また、バスタブも完備されているためゆっくりと湯船に浸かることが出来る。


部屋から出られないのは最大のストレスだが、その癒しとしての効果は十分にあると言えるだろう。
検査、ゴミの処理
午前と午後、2回の体温チェックがあるのはどこも同じようだ。大連では一人一つずつ体温計が配布され、中国版LINE(WeChat)を使ってオンラインで報告する。係官がドア越しに直接体温を計っていた青島も、今は同様にオンラインで報告する方式に変更されたという。人同士の接触をなるべく避けるということだろう。

PCR検査は3~4日に1回のペース。鼻の穴に綿棒を容赦なく突っ込まれるのは青島も大連も同じだ。
ゴミの処理については、青島では時間を問わずドアの外に置けたが、大連では食事を配る際の限られた時間しか玄関のドアを開けることは出来ない。指定時間以外にドアを開けると、しばらくして警報音が鳴る。

パスポートを預けているため、万が一にも逃げ出すなどということは考えられないが、執拗な管理もここまで来るとむしろ感心してしまう。
景観
大連の隔離施設は低層階で一番上でも3階までしかない。青島のようなオーシャンビューではなく、ほとんどの部屋がガーデンビューだ。


青島で過ごしたのは10階、大連は1階。
当時の青島はベランダに出ることが出来たが、今は出来ないという。誰かが酔って何かやらかしたのかと想像するが、聞いたところで教えてはくれないだろう。
大連ではベランダに出られ、庭の木々を愛でるだけでなく、鳥のさえずりなどを聞くことも出来る。それでも11月にもなると気温は昼間でもせいぜい10度まで。長い時間を過ごすには寒い。
娯楽
青島では日本のテレビ番組を有料で見られる措置があったが、大連にはない。
ただ、映画やゲームなども完備されていて、それなりに楽しむことが出来る。日本の映画もあるので中国語が苦手という人でも大丈夫。

私の中国語は日常会話に不自由しない程度だが、中国のアクション映画にチャレンジしてみた。中国語の問題というよりストーリーの構成に無理があり、その強引な展開はまるでコメディ映画のようで笑ってしまった。
隔離生活を送るにあたって
日本に帰国すると「人権が厳しく制限される中国でよくやっていけるね」という声をよく聞く。確かに入国後2~4週間の厳しい隔離を継続している中国の対応は世界でも群を抜き、日本と比べて不自由を感じることは少なくない。

厳格な入国規制を続ける中国だが、11月頃から感染拡大の懸念が広がっている。
北京市政府は11月17日、過去2週間以内に新型コロナの感染者が出た地域からは直接北京に入れないという通達を出し、人の出入りに関する規制を一層強化した。
ただ、ものは考えようである。
日本の自主隔離を経験すると、日本の規制がいかに曖昧であるかに気付くからだ。「やむを得ず外に出る場合」の「やむを得ず」がどこまでを指すのかは自分で判断しなければならない。定期的な連絡も100%が絶対条件ではないようだ。裁量の余地が残されているのである。
中国にその曖昧さはない。決まったルールに従うのみで個々の裁量や柔軟な対応はほとんどない。それは窮屈でもあるが、そこで悩む必要がないので楽だとも言える。

中国での生活は、与えられた環境の中でいかに楽しむかが肝要である。
テレビ朝日の千々岩森生中国総局長はかつて大連で、隔離の日数を食べたミカンの皮の数でカウントしたとリポートした。私がいる隔離施設ではミカンは毎日出ないし、携帯を見れば何日過ぎたかすぐにわかる。要はそれくらい楽しんで、または楽しみを見つけて過ごせということだろうと理解した。隔離期間の長さをミカンの皮で映像化し、リポートに生かした彼のバイタリティには、同じテレビマンとして敬意を払う次第である。

国のシステムが違うということを受け入れてしまえば、中国でも楽しむ方法は意外と簡単に見つけられるのではないだろうか。

【執筆:FNN北京支局長 山崎文博】