“口の動き”は誰が何を話しているかを知る大切な情報

大阪府吹田市に住む、藤田紗唯ちゃん(8)。

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元気いっぱいの小学3年生。生まれつき、わずかな音しか聞こえない。

地元の小学校に通い、国語と算数は少人数の支援学級で授業を受けていて、紗唯ちゃんへの授業は手話を用いて行われている。

そのほかは通常学級で、特別支援の先生による手話のサポートを受けながら、クラスメイトと一緒に勉強し、休み時間を過ごす。

担任の先生が首から下げるのは「ロジャー」と呼ばれるマイク。周囲の雑音の中でも、先生の声を無線で補聴器に届けることができる。

今ではみんなが着けているマスクに、紗唯ちゃんは困ってしまうようだ。先生が授業で問いかけをした時も、クラスメイトよりも反応が遅れてしまう。

先生:
こんなの見たことありますか?

紗唯ちゃん:
あるある!(数秒たってから)

クラスメイトが先生にあてられた時も、誰があたったのか、すぐに見つけることが難しい様子。

紗唯ちゃんにとって「口の動き」は、誰が何を話しているのかを把握するために大切な情報だが、マスクで隠れてしまい話についていくのが難しくなっているのだ。

担任 山野善樹先生:
質問の意図が分かっていない時や、こっちの感情が伝わりにくいときもあります。マスクは障害、言葉の壁としてすごく大きいと思います

元担任の先生:
(以前は)フェースシールド使ってたやん。今はマスクやん。どっちがよかった?

紗唯ちゃん:
透明(のマスク)

元担任の先生:
そうやんな。友達にも透明のマスクをつけてほしいねんな

そんな中でも、できないから助けるのではなく一緒に学ぶために自然と手話を覚える子もいる。

クラスメイト:
(手話を覚えたのは)紗唯ちゃんといっぱいしゃべりたいから

紗唯ちゃんは、手話を使ってくれるクラスメイトと毎日仲良く通学している。

クラスメイト:
テレビに出るの嬉しい?

紗唯ちゃん:
うれしいよ

寄り添う環境があっても、コロナの影響が長引く中で家族は不安を感じ続けている。

紗唯ちゃんの母親 知佳さん:
友達が意識して手話使ってくれたり、指文字を使ってくれたりする。支援の先生もついてくれているので。ただ、本人は100%分かっているつもりでも、実は20%しか分かっていないとかもあると思う。手話ができる人ばっかりじゃないというのを知らないといけない

手話で会話 難聴の児童に寄り添う

気づかない困りごとを、どう支えたらいいのか。

そんな難聴の子どもの居場所となる施設が、大阪市にある「デフアカデミー」。夕方になると、学校帰りの子どもたちが教室に集まってくる。

子どもたち同士や先生と手話をして会話。勉強を教わるのではなく、対話を通して人とのつながりや話が伝わる安心感を持てるよう、支援が行われている。

指導をするのは髙橋縁さん。自身も耳が聞こえず、子どもの時に孤立した経験がある。

デフアカデミー 髙橋縁さん:
複数の友達と会話をしている時、様子を見ていたら突然、みんな笑い始める。その時に私は内容が分からない。戸惑いながらも、とりあえず合わせないといけない。笑ったのと同時に私も笑う。でも会話が分からなくて、どうしようという状態だった。

オンラインでの支援や「出張教室」も

難聴児への支援には、地域による格差がある。耳の不自由な子どもは1000人に1人といわれ、大阪府内での、ろう学校や難聴児向けの支援は、もともと人口の多い大阪市内に集中している。

幼い紗唯ちゃんが教室に行くには、市をまたぐ電車移動が必要になるため、通うことができなかった。そこで、コロナ対策で始まった「オンライン支援」を受けている。 

紗唯ちゃんの母親 知佳さん:
1人で電車に乗って、覚えたらいけるのかもしれないけれど、電車が止まったとか普通じゃない時に対応できるのか、この状況が理解できるのか。親としては不安

デフアカデミー 髙橋縁さん:
今、目の前にいる子どもとつながって、そこで居場所を作って、できるだけたくさんのコミュニケーションまたは経験できる場所、たくさん人と出会える場所を増やしてあげたいと思う

マスクで困りごとを抱える子どものため、デフアカデミーは大阪市外への「出張教室」を計画し、大阪府と協力してクラウドファンディングで支援を集めた。

ハロウィーンで盛り上がる10月末。紗唯ちゃんが住む地域にも「出張教室」がやってきた。 

出張教室では、参加した子どもたちが手話で会話を楽しんだり、ハロウィーンに関するゲームを一緒にしたり。 「マスクの日常」は、支援が行き届かない子どもの声に気付くきっかけとなった。 

支えるために何ができるのか。 一緒に考えることが、これからのステップだ。

(関西テレビ)

関西テレビ
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