中国共産党の重要会議、党中央委員会第6回全体会議(6中全会)が11月11日、新たな歴史決議を採択して閉幕した。

中国共産党100年の中でも歴史決議は「建国の父」である毛沢東、「改革開放」を主導した鄧小平の2人の指導者の時代に出されたのに続き、今回で3回目だ。

中国共産党の重要会議「6中全会」
中国共産党の重要会議「6中全会」
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2022年秋の党大会で異例の3期目を見据える習近平国家主席の権威を高めるのが狙いだとみられる。それだけに決議では「党は習近平同志が党中央の核心、全党の核心的地位であることを確立した」などと習主席が絶対的な地位にあることを強調している。

ただ、こうした評価とは裏腹に、習主席を取り巻く環境はそれほど簡単ではないように見える。ポイントは「人民」と「権力集中」だ。

中国・北京市の人々
中国・北京市の人々

大事だが怖い「人民」

歴史決議の全文はまだ公表されていないが、6中全会のコミュニケでは、習主席の賞賛だけでなく、習近平指導部の下で中国が脱貧困を成し遂げ、反腐敗闘争に完全「勝利」したなどとして、その功績を強調している。

経済成長が進む一方、貧富の格差なども深刻になっているため、庶民の不満に対処することも喫緊の課題のひとつだからだ。

「習主席にとって一番大事なのは人民。最も恐れているのも人民だ」(駐中国日本大使館幹部)との指摘があるように、習主席は国民からの支持を最大の拠り所にしているとされる。

大手IT企業への圧力、芸能界や教育分野に及ぶ様々な規制強化も富裕層から富を搾取し貧困層に分配するという発想であり、そこには広く国民の支持を得ようとする習主席の意図が透けて見える。

小学校で学ぶ子どもたち
小学校で学ぶ子どもたち

その行き着く先が習主席が掲げる「共同富裕」だ。

逆に言えば、今の中国が「共同富裕」とはほど遠い状況にあるからこそ、金持ちを叩く形でこうした規制が実施されているとも言える。

中国では、国民は日本のように選挙で意思を示す機会もなく、政府は世論調査などで国民の意識を探ることも出来ない。中国共産党の正当性は絶対だからだ。見えない民意を探りながらの政権運営は、いくら順調でも常に不安が付きまとうだろう。習主席に対する国民の支持が離れれば共産党統治の正当性は揺らぎ、その不満を和らげる手段もほとんどない。

外国に強硬な姿勢を示す「戦狼外交」も、国内のガス抜きをするには海外に批判の矛先を向けるしかないからだ、と指摘する関係者は多い。

高まる権力集中への懸念

もうひとつのポイントが習主席への権力集中だ。

歴史決議で3期目の続投に向けて、足場を固めた習主席だが、6中全会では後継人事などは発表されず「ポスト習近平」はいまのところ見えない。習主席を追い落とすようなライバルも不在だ。

「習主席は生涯いまのポストのままでいたいのではないか」(同大使館幹部)との分析も聞かれる。

広大な国土を持ち、56の民族を抱える中国は貧富の格差だけでなく、地域の格差、民族の格差など、その問題は多岐にわたる。環境や文化、生活習慣も違えば、取るべき対策も全国一律というわけにはいかないだろう。

こうした問題に取り組むため、今回の決議をテコに習主席に権力を集中させ、強い指導力を発揮させようとするのは自然だ。当局が否定する習主席への「個人崇拝」も、実態としてはそれに近づいていることの証左とも言える。

ただ、習主席個人に権力が集中すれば、かつて鄧小平氏が敷いた「集団指導体制」からはかけ離れ、その権力が暴走する懸念もある。

鄧小平 氏
鄧小平 氏

習主席の決断に異を唱えるものがいなければ、その懸念はますます現実味を帯びる。

仮に習主席に「もしも」があった場合、代わりに誰が政権を担うのか、その役割を負える者も今のところ見当たらない。

6中全会閉会後の記者会見
6中全会閉会後の記者会見

6中全会閉会後の記者会見で中国は「民主とは西側諸国の特権ではなく、西側諸国によって定義されるものでもない。民主の本当の意味は国民が主役になることだ」と表明し、アメリカを名指しで批判した。

国際社会に対する挑戦とも受け取れるこれらの言葉には、中国を発展させてきた習近平指導部の自信も垣間見える。

一方で、盤石に見えるその政権運営には前述した不安が常に付きまとうのもまた事実である。
世界をけん引する新たな秩序の構築か、脆さを抱えたがゆえの強気の暴走か。

不透明さが漂う中国の今後が、世界に影響を及ぼすことだけは間違いない。

【執筆:FNN北京支局長 山崎文博】

山崎文博
山崎文博

FNN北京支局長 1993年フジテレビジョン入社。95年から報道局社会部司法クラブ・運輸省クラブ、97年から政治部官邸クラブ・平河クラブを経て、2008年から北京支局。2013年帰国して政治部外務省クラブ、政治部デスクを担当。2021年1月より二度目の北京支局。入社から28年、記者一筋。小学3年時からラグビーを始め、今もラグビーをこよなく愛し、ラグビー談義になるとしばしば我を忘れることも。