新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいる。
首相官邸の11月4日の公表によると、これまでに1回目の接種を受けた人は77.7%、2回目の接種も完了した人は72.8%。
こうした中、鹿島建設や日立製作所、九州大学などは10月21日、指を専用の装置にかざせば、新型コロナウイルスのワクチン接種履歴を証明できる、新たなシステムの実証実験を開始したと発表した。
この新たなシステムは、「指の静脈」による生体認証技術を活用するため、“手ぶら”で、ワクチンの接種履歴と陰性の検査結果を証明できる。
9月27日~10月6日には鹿島が所有する赤坂Kタワーで、鹿島の従業員を対象に、ワクチン接種履歴などの事前登録から検査の実施、デジタルヘルス証明発行、オフィス入館までの一連の技術検証を実施した。
今後、オフィスなど建物内での実装に向けた準備を進めるとともに、鹿島の建設現場などにおいても共同実証を行う予定だ。今後、ワクチン証明が求められる機会が出てくるかもしれないが、“手ぶら”でできるのではあれば便利だろう。
では、この新たなシステムはどのような仕組みなのか? また、指紋ではなく「指の静脈」を活用するのは、なぜなのか?
鹿島の担当者に話を聞いた。
紙の場合、証明書の偽造や他者へのなりすましなどのリスク
――実証実験を行う背景は?
日本国内でもワクチン接種や検査が普及し、同接種歴や陰性証明を活用した行動制限の緩和が模索されている中、デジタルヘルス証明(ワクチン接種履歴および陰性証明のデジタル表示)を活用した、安心空間を実現する仕組みが求められています。
一方で、現在の新型コロナワクチン接種証明書は、ほとんどが紙媒体のみの発行であり、証明書の偽造や他者へのなりすましなどのリスクが指摘されています。
また、感染の有無を調べる検査についても、機器や手法などの違いから、検査の精度にバラつきが生じることが課題として報告されています。
今回の実証実験では、個人情報保護に配慮した利便性の高い、新たなデジタルヘルス証明の実現に向け、技術面および運用面での有効性を確認しました。
――手をかざすだけでワクチン接種履歴を証明できるシステムは、どんな仕組み?
実証実験の対象となる従業員は、スマホのアプリ「ウィズウェルネス」をダウンロードし、検査予約やワクチン接種履歴の登録を行います。
陰性証明は、検査結果と九州大学病院の医師が診療業務支援システム「医’sアシスト(イーズアシスト)」で行う事前問診で総合判定し、「ウィズウェルネス」に診断結果を通知することで、デジタルヘルス証明として発行されます。
また、参加者の同意を得たのち、日立の非接触型指静脈認証装置で「指の静脈」の情報を事前登録し、「ウィズウェルネス」で管理されている情報と連携します。
これによって、入室時は、指を装置にかざすだけで認証が可能となり、紙やスマートデバイスによる本人確認や証明書の提示は不要となります。
「指の静脈」は偽造が非常に困難
――指紋ではなく「指の静脈」を活用する理由は?
静脈認証の特長として、身体の内部の情報を利用するため、生体の表面の影響を受けることがなく、乾燥肌や脂性の方でも、問題なく認証が可能であることが挙げられます。また、外部に情報が残ってしまう指紋などとは異なり、偽造が非常に困難であるためです。
――陰性証明に関して。医師の事前問診では、どのようなことを聞く?
事前問診の主な質問事項は以下となります。
・現在の倦怠感、咳、痰、咽頭炎、味覚や嗅覚異常などの有無
・過去14日以内の海外渡航歴、新型コロナウイルス陽性者との濃厚接触の有無
・新型コロナウイルスのワクチン接種履歴
―― 陰性かどうかを判定するポイントは?
事前問診と抗原定量検査、および、必要に応じて実施するPCR検査の検査結果を、医師が総合的に診断し、判断することとなります。
今後の課題は?
――9月27日~10月6日の実証実験で気付いたことは?
各社がそれぞれに有する技術や知見が、1つの仕組みとして機能することが確認できました。
――今後の課題は?
様々なシチュエーションに対応可能な、オペレーションの設計です。たとえば、「多数の人々を対象としたデジタルヘルス証明発行と認証オペレーション」、「屋外の場合のデジタルヘルス証明発行と認証オペレーション」、「有効なデジタルヘルス証明を持たない人が出た際のオペレーション」などです。
この新たなシステム、今後の実証実験では対象範囲を広げ、学校や病院、レストランなどオフィスビル以外の場所で行うことも検討しているという。今後、ワクチン接種履歴や陰性証明が必要な場面が増えたとき、このシステムが実用化し、多くの場所で普及していることを期待したい。