10月は「臓器移植普及推進月間」。
「グリーンリボン」は移植医療の促進・普及・啓発につながる活動の総称だが、移植医療というと身近な問題というより少し遠い話だと思いがち。身近にそういう人がいないと近くに感じられない、想像しづらい部分があるかも知れない。

移植医療と向き合う男性を、テレビ新広島のカメラは4年間撮影した。日本の移植医療の現状を考える。

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突然24時間危険と隣り合わせの生活に

2018年5月に取材した高校教師の森原大紀さん。その傍らには鞄。テレビ新広島が初めて訪ねた4年前からずっと、どんな時も同じ鞄を下げていた。

(Q.どういう装置なんですか?)
森原大紀さん:

これがコントローラーとバッテリー。ケーブルがお腹の中に入っているような状況。モーターが心臓に取り付けられて、心臓を補助して血液を全身に送っている

レスリングの選手でもあり、元気そのものだった森原さん。
2015年、突然 体調不良となり、約1万人に1人がかかると言われる難病「特発性拡張型心筋症」と診断された。

森原大紀さん:
そのショックは今でも覚えている。何言ってるんだろう、この人みたいな

体調は一気に悪化し、緊急入院。幾度も生死をさまよった。そして移植を受けられるまで、補助人工心臓装置で命をつなぐことになった。

身体の外にあるコントローラーやバッテリーが、24時間心臓の動きを助けている。

2018年。移植を待って、すでに3年がたっていた。国内で移植を希望する登録者は現在926人(9月末現在)いる一方で、心臓提供者は年間50人前後と少なく、平均で3年3カ月、待たなければならない。その間に亡くなる人は少なくない。

命の危険と隣合わせの生活で、24時間介助が必要。

母・ゆう子さん:
こんなに長い時間、息子と一緒なんてなかなかない。濃密な時間を過ごしている

森原大紀さん:
一日一日が本当に覚悟があって、目の前が見えない霧のような中ではあるんだけど、毎日前を向いて進もうっていう

移植を待つ森原さん。そこには日本の移植医療が進まない現状がある。
移植医療には、健康な家族からの生体移植と、心停止や脳死で亡くなった人から死亡後すぐに提供を受ける死体移植がある。

心停止では眼球・腎臓・膵臓が、脳死ではさらに心臓など7つの臓器が移植可能で、1人のドナーから、最大11人へ臓器提供される。

臓器提供の意思表示は以前は「意思表示カード」だけだったが、今は健康保険証や運転免許証の裏側など身近なところでもできるようになった。
一方で、人口100万人あたりの臓器提供者数をみると、日本は先進国の中でも圧倒的に少ない。

NPO法人グリーンリボン推進協会・大久保通方理事長:
「救急医療の充実」と「一般国民の理解」、この2つだと思います。1つは、提供施設(救急医療側)に対する体制整備をしなければならない。もうひとつは、一般の国民が自分の臓器を提供したいという意思をはっきりと示す。身近な問題として、臓器移植・臓器提供を考えられるような社会環境を作ることが大事

森原さんは、移植を待つ期間を移植医療を知ってもらう活動に使うことにした。

森原大紀さん:
こういうのがあるんだと思ってもらうだけでも意味はある。まず僕はグリーンリボンを知らなかったので、知らない人がいるからこそ、機会づくりをどんどんしていかないといけない

臓器提供意思表示では、「提供しない」と示すこともできる。まずは「知ってほしい」。そう考え、森原さんは活動していた。

ギリギリの状態で臓器移植を待つ

2018年、広島市立矢野南小学校で命の講演をする森原さんを取材した。このころ、森原さんは「きょうが最後の日かもしれない」、そう覚悟していた。

森原大紀さん:
いっぱい泣きました。なんでって思ったね。なんで自分がって。本当に苦しかった。
でもあることに気が付いた。朝起きてから夜寝るまでにしていることは、すごく当たり前のことだと思う。でもこれって本当はすごいことなんですね。病気になって、先生は初めて気づきました。ご飯を食べられるってすごいことなんですよ。そして家族の存在。本当にね。この存在っていうのを大切にしてください

傍らには、その家族。母のゆう子さんと妻のリンジーさんが支える。2019年、そのリンジーさんに変化があった。

妻・リンジーさん:
あなたが言ってよ

森原大紀さん:
君が言って

妻・リンジーさん:
妊娠していることがわかったの。すごい楽しみですね

2人にとって念願だった新しい命。そして…

森原大紀さん:
自分の(臓器移植の)順番がかなり上に来ていて、今 連絡があるのを待っているという状態

一方で、手術から4年が過ぎ、命をつなぐケーブルは破損。

森原大紀さん:
2回も3回も直しましたね。時がたつにつれて、いろいろな問題というか出てくるとは思いますね。

(Q.変えられないんですね?)
森原大紀さん:

このケーブルは変えられないですね

ぎりぎりの状態で連絡を待っている。その後、予期せぬ新型コロナウイルスが世界を襲い、それは移植医療にも影響を及ぼした。
今、臓器移植を担う救命救急センターは新型コロナウイルスの対応に追われている。

2年前に月10.5件のペースだった臓器提供は、新型コロナウイルスが感染拡大した2020年には6.5件に。そして、2021年はさらに落ち込んでいる。
新型コロナの感染者数の動きと比較すると、移植医療に影を落としているのがわかる。

2つの嬉しい報告

緊急事態宣言があけ、10月17日久々に自宅を訪ねた。

妻・リンジーさん:
こんにちは、お久しぶりです、どうぞ

1歳の想(こころ)ちゃん。あの新たな命は無事産声をあげ、元気に育っている。森原さんの傍らに、鞄はない。

ドナーが特定されるので時期は明らかにできないが、この2年の間に心臓移植を成功させていた。

森原大紀さん:
もう、うれしいですよね。本当にそこにつきますね。日本は移植待機期間がすごく長くて、実際に僕の大切な仲間も移植待機をしながら途中で亡くなったりという無念な想いをしたりとかもあるんで、本当にこれが普通の医療として選択肢として、選択できるような医療になってほしいなと思います

妻・リンジーさん:
ドナーさんには感謝が尽きません。彼のドナーは2つの命を生み出したわ。長女の想と私のお腹の中の赤ちゃんと

(Q.本当に?)
妻・リンジーさん:

ええ。今18週ぐらいよ

森原大紀さん:
子どもと一緒に走ったりとか遊んだりできるようになったので、すごくうれしいです。それが移植医療のすごいところだなって思いますね。ドナーさんにつないでいただいた命を一生懸命、僕が生きることが本当に恩返しじゃないかなと思っています

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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