昨年の東大入学式での上野千鶴子名誉教授の祝辞は、日本をざわつかせた。
ネットはもちろん、テレビの報道・情報番組でも全文を紹介し、どう受け止めるか出演者たちの討論を展開した。大学の祝辞にまとまった時間を割くのは、前代未聞のことだ。
そんな上野教授に、同じ東京大学で学んだフジテレビの佐々木恭子アナウンサーがインタビュー取材、女性としての生き方、働き方、日本の未来への課題を伺った。前編・後編でお伝えする。

上野さんのオフィスには東京大学入学式の祝辞がよみがえるパネルが・・・

蓋をしてきた感情が“ぱかっ”と開いていくような

私にとってあの祝辞は、胸がすく思いでした。
たくさん蓋をしてきた感情が、ぱかっと開いていくような。

「恭子ちゃん、男の子だったらよかったのにねぇ。」
世のお母様方に、何度言われてきたことでしょう。(幸いにも両親がそう言わなかったのが救いでした。)浪人時代には、「勉強する女子は、結婚市場で価値のない、はっきり言えばブスばかりです」と講師が言ったこともありましたっけね。

200人を越す大教室に片手ほどの数しかいない女子は、数が少ないと「そこにいない」存在になるのだと知りました。

それでも。
中学時代の女性の恩師が、「あなたたちは新しい時代を生きるのよ」と言って一枚の新聞記事を見せてくれた日の胸の高鳴りが、私を突き動かしてきました。1985年、男女雇用機会均等法制定。「女の子たちも、これからいろいろな仕事ができるようになる。自分の道を進みなさい。そして男の子たちは、しっかり家庭科の授業で料理やボタンつけをできるようにせなあかんよ。」
その頃から、”〇〇になりたい”以前に、私の夢は「働き続ける」ことになりました。

ずっと歯を食いしばってきた

それから約10年後、フジテレビにアナウンサーとして入社し、今もしぶとくしがみついています(笑)。いえいえ、働き続けています。そういう意味では、夢が叶っています。あの頃の私に声をかけるとすれば、「仕事は、・・・すばらしい。女性を取り巻く環境も、どんどん変わっていくのを実感するよ・・・。でも、だいぶ歯を食いしばったかもね。」

特に「産む性」である以上、2度の育休・復職経験は、自分が女であることとの葛藤の連続でした。臨月間近の大きなお腹の時に、「妊娠・出産くらいで、女の人の仕事への意識が変わっちゃ困るんだよね」と、ある男性に言われたこともありました。え?働きたい意欲はありますよ?代わりに産んでもらえます?今ならニッコリそう言い返すこともできるかもしれない、でも当時は、変わらざるを得ない自分の状況にも慣れずに、帰り道に悔しくて涙がこぼれたこともありました。

ジェンダー・ギャップ指数 日本は過去最低の121位

時が経って、すっかり自分の中で消化されていた、あるいは気づかないフリをしてきた感情が、祝辞で想起されました。

折しも2019年末に、世界経済フォーラムが発表したジェンダー:ギャップ指数で、日本は過去最低の121位。(153カ国中)下がり続ける一方です。

日本のジェンダーギャップ指数は下がり続けている

なぜ、日本の女の立ち位置は、こうも変わらないのでしょう?
どうすれば、歯を食いしばらずとも、「普通に」働けるのでしょう?

国際女性デーを前にそれを伺いに、やや緊張しながら(笑)事務所を訪ねたら、上野先生は何とも人に対して好奇心旺盛な、私がインタビューしているのだか、お悩み相談室化して聞いてもらっているのだか、「オッサン社会」での女の心構えを、あれやこれやと教えてくださったのでした。

「会社と心中する気ある?」

上野千鶴子教授:
あなた、ポスト均等法世代?

佐々木:
そうです。まさに10年後に入社した世代です。

上野教授:
あの祝辞は、ちょうどポスト均等法の女性に刺さったのよね。夢を見て、傷ついたことも多かったでしょう?会社と心中する気ある?

佐々木:
えーー、心中?・・・なくなりましたねぇ。20代にはあったと思います。

上野教授:
いつ、なくなったの?

佐々木:
2度育休をとって復職した時ですね。組織は、自分がいなくても何事もなかったかのように回るし、だからこその組織なのだと心の底から実感した時ですねぇ。その時に、仕事はもちろん大事、でも自分の人生と会社は必ずしもイコールではない、自分の幸せを全て仕事や会社に委ねるのは違うなあ、と。

上野教授:
それは、当たり前のことよ。でも、オッサンたちはそれに気づかない。日本の企業はこれまで社員にどれだけ企業ロイヤリティがあるのかをみてきたのよ。最近ようやく日本の企業の中で、広域転勤が昇進に必須かどうかということが議論になり始めたけど、広域転勤がマネジメント能力を上げるかどうかは検証されていない。あくまで慣行であり、それって結局、能力じゃなくて企業へのロイヤリティを試してきたのじゃないかな。

そして、企業が女性に不信感を抱くのも、そこ。会社へのロイヤリティ、ないでしょう?働く上では、「能力」と「意欲」が両方必要なのに、日本の会社は個人の能力を評価してきたとは到底思えないわね(笑)。能力が高くても意欲がなければその能力を発揮できない、でも意欲があれば、能力以上のこともできちゃう。その意欲の中に、”会社と運命を共にするか”って踏み絵がある。それに同意しない女の意欲を、くじいてきたのよ。

日本では、ずっと高度成長期型の、男たちの同質性の高いホモソーシャルな集団を作ってきた。できるひとの足を引っ張り、できないひとの手を引っ張って競争させながら走ってきた、その成功体験があるから、そこはなかなか変わらない。就職じゃなくて就社、そんな体育会的なノリの集団には、女たちは入らない、入れない、入りたくない。なのに、聞かれてきたのよね。おれらと心中できるかって。

女性が管理職になっていく時は「マイスタイル」で

佐々木:
そんな中でも、2020年までに女性管理職を30%増やす、「2030」の目標も最近聞かれなくなりましたけど、組織に決定権のある女性はどうやったら増えるのか、女性リーダーが増えれば組織の風土も変わるのか、そのあたりはどうなんでしょう?

上野教授:
それは鶏が先か卵が先か、みたいな話。個々の女性のがんばりに頼るだけではなく、システムやルールの変更も、両方やっていかなくてはいけないわね。それに、男たちは、どれだけストレスがたまると言っても、パワーゲームが大好きね。女性が管理職になっていくときには、同じパワーゲームに巻き込まれずに、「マイスタイル」でやることが大事。

私がよく聞くのは、女がどれだけ頑張っても男並みには報われないっていう体験をしたたかに味わう。だから、女は半身で組織にコミットしているんだと思う・・・でも、それって正気で健全なこと。カネとポストに釣られて、男たちはパワーゲームに巻きこまれて、イエスマンになっていく。それに対して、カネとポストで釣れない存在は、組織としては一番扱いにくい(笑)。おもしろい仕事をやりたいと思っている人材は、カネとポストじゃ動かない。

佐々木:
・・ということは、逆にそういった人材にものすごく可能性があるってことですよね?

上野教授:
もちろんです。女たちは、「あいつは使えるから使わないとソンだ」と思わせればいい。ダントツでなくてもいい、ニッチな分野でもいいからこれをやらせれば手堅い仕事を確実にやってくれる、という人的資源になればいいのよ。プロフェッショナルにね。

何もしていない日本よ「この数字が目に入らぬか!」

佐々木:
企業という単位を超え、日本のジェンダーギャップ指数、121位と過去最低でした。これについては、どう受け止めてらっしゃいます?そして、どうすれば上がっていくのでしょうか。

上野教授:
もうすでに日本は十分に女性が強くなったから、これ以上女が強くならなくていいと思っている人たちがいます。それに対してジェンダーギャップ指数の国際ランキングは「この数字が目に入らぬか」という、引導の役割を果たしたことがよかったわね。諸外国は、確実に変化を起こす努力をしているのに、日本は、何もしていない。法律は作っても、何一つ実効性がない。変化がないから取り残されたのよ。

女性活躍推進法もできた、候補者男女均等法もできた。本気でやる気があるなら、罰則規定をつくるべきなのに、それもない。結果、どうだったか。昨年の参院選では、改選前後の女性議員数はぴったり28人で、何の変化もない。何の変化もないってことは、法律に効果がなかったってこと。

そして、これに関してはメディアも鈍かった。告示日に候補者の女性比率を問題にしたメディアはほとんどなかったわね。メディアにいる女性たちに、問題意識はないのかしら。本当に実効性を持たせるには、罰則規定も必要。候補者の半数を女性にしない政党には政党交付金を支出しない、とかね。 男女平等先進国は強制力のあるクオータ制を導入するなど、努力してきました。それがなぜ日本では進まないか。「クオータ制は風土に合わない」と言うのは、理由が合理的に説明できない、オレがイヤだから、ってこと。

「会社化」していく男性たちが“再生産”されている

佐々木:
・・・何だか希望が持ちづらいですけど(笑)、ただ働き方改革も相まって、何か大きな地殻変動のような変化は感じます。若い世代と話していても、仕事と同じように自分の人生も大事、職場の仲間で飲み会なんて行きたくないし、もっと子育てしたいから、と育休取得する男性も出てきましたし。

上野教授:
もちろん、そう。ワンオペ育児って言葉が出てきたけど、新しい言葉ができることには意味があって、「一人で育児を全てしなくてはいけないのは、おかしい」という気分があるからこそ。これまでは、それを当たり前だと思っていたから、表現するコトバすらなかった。

私と同世代の団塊男は、アタマの中が旧男類、その世代のオッサンが会社からいなくなったら、もっと会社は変わるかと思ったけど、次の世代の男性たちも「会社化」していくプロセスを見てきたから。オッサンは再生産されています。

佐々木:
再生産されているってことですか。

上野教授:
そのとおり。これまで女の子たちは母親を反面教師にして、お母さんみたいになりたくないって生きてきた。それがようやく男の子たちも、父親が反面教師になって、お父さんみたいになりたくない、と思い始めている。なのに、会社の同化圧力はとても強くて、「会社化」されていってしまう危惧がある。社会化、じゃないの、会社化、なのよ。

(後編に続く)

前編は日本のジェンダーをめぐる認識について伺いました。
この後、男性育休義務化の動きをどう見る?
働く母はどう子どもと向き合っていけばいい?などの疑問をぶつけています。
上野さんの言葉は・・・どれを聞いても、明快かつ、痛快ですっ!

【上野 千鶴子氏プロフィール】
社会学者・東京大学名誉教授
認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長
京都大学大学院社会学博士課程修了。平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2012年度から2016年度まで、立命館大学特別招聘教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。
専門は女性学、ジェンダー研究。この分野のパイオニアであり、指導的な理論家のひとり。高齢者の介護とケアも研究テーマとしている。

【インタビュー+執筆:フジテレビ アナウンサー 佐々木恭子】
【撮影:田中政和】

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