自宅で父親の膝の上に座っていた7歳の少女は撃たれ、殺された
40歳の男性は撃たれ、生きている状態で火に焼かれ、殺された

(独立系の地元メディア「ミャンマー・ナウ」)

バイクに乗った丸腰の若者らは、一斉に銃撃を受け殺された
犠牲者の葬列は銃撃された

(地元住民からの発信)

「軍は私たちを鳥みたいに殺している。自宅にいても。それでも私たちは抗議を続ける」
(ロイター通信 地元住民へのインタビュー)

自国民に向けられた銃口

国軍の銃口は、丸腰で抗議する自国民に向けられた。

2021年2月にクーデターが起きたミャンマーでは、抗議活動を続ける国民に対し、武装した国軍が容赦なく弾圧を強めている。

SNSの発達により、惨状は広く発信された。

身に危険が迫るなか撮影された映像を見て、その残忍さに言葉を失う。

現地メディアは、治安部隊が殺害した市民の遺体を蹴る様子や、1歳の子どもがゴム弾で右目を撃たれ、血を流している映像を伝えた。

2021年4月5日現在、犠牲者の数は570人となった。

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下記グラフはクーデター以降に殺害された人の数だ。(4月5日現在 現地人権団体「政治犯支援協会」、国連人権高等弁務官事務所などによる)

内戦化するミャンマー 

深刻なのはこの泥沼の状況が、さらに悪化する可能性があることだ。

国軍は3月27日、クーデターを拒否する少数民族の武装組織「カレン民族同盟」の拠点を空爆した。攻撃を受けた報復とされている。

こうした事態が拡大することで、内戦状態となる恐れがある。

現在の情勢と今後の見通しについて、上智大学総合グローバル学部の根本敬教授に聞いた。

ーー国民への弾圧を続ける国軍と少数民族武装勢力の緊張が高まっており、内戦につながる懸念も高まっている。少数民族武装勢力と国軍の衝突激化を含め、今後の見通しは?

根本教授:
危機意識を強く抱いている。国民の多くは非暴力の不服従運動で抵抗し、対する国軍は自動小銃などで武装している。国民側が自分たちの身を守るために、武器が必要だと思うようになったのは必然的なことだ。一方、少数民族の軍事組織は現在ミャンマーに20ほどあり、そのうち10は停戦協定を結んでいるが、10は結んでいない。彼らは、いろんな思惑があるとみられるが、国民側に協力姿勢を示している。

根本敬教授によるデータを元に作成(図解イラスト:さいとうひさし)

少数民族の軍事組織はゲリラ戦に強く、保有する軍事設備は、陸軍能力のみ。対戦車砲は持っているとみられるが、対空戦力は無い。山や丘、ジャングルでの戦いに強く、ヤンゴンやネピドーといった、国民が不服従運動を主に続けている平地での争いには強みを生かせないため、山地などでの戦いを続けることはあっても、平地に進出する可能性は低いのではないか。ミン・アウン・フライン国軍司令官は、国軍の正当性を高める結果になることを期待して、内戦化を望んでいる可能性がある。

根本敬 上智大学総合グローバル学部教授(ビルマ近現代史)

ミャンマーの少数民族問題

ーーミャンマーは多民族国家であり多くの少数民族が存在する。少数民族は歴史的にどのような立場におかれてきたのか、また現状はどうか?

根本教授:
ミャンマーの少数民族問題は、イギリス植民地時代の分割統治に起因する根深いものだ。自治・独立を求める少数民族はそれぞれ武装化し、内戦は70年続いている。より悪化したのは、1962年~88年の社会主義国家時代だ。その後の23年間の軍事政権下では、約20のうち10の軍事組織と停戦協定を結ぶが、協定破りも起きた。民政移管後の政府でも停戦協定の締結に努力が続けられてきた。

重要なのは、停戦協定は結ばれていても、和平協定ではないということ。和平協定を結べた事例はただの一つも無い。紛争はミャンマー国軍との間だけではなく、武装勢力間でも頻繁に起こり、その度に国民が犠牲になっている。

ーーNLDは、新組織「連邦議会代表委員会(CRPH)」を創設。CRPHは、「臨時政府」を設立し、少数民族武装勢力に共闘を呼びかけた。

根本教授:
非武装で不服従運動をしている方々の被害があまりにも多く、彼らが身を守る権利について考えるのは当然のこと。また少数民族の軍事組織にとっても、国民にとっても、国軍は共通の敵となっている。CRPHは少数民族の自治権を尊重した連邦国家に作り替えるための新しい憲法の基本方針を示した。国軍を政治に介入させないように国軍を民主化するもので、これを少数民族側は歓迎するだろう。

まだ雲をつかむような話だが内戦化を避けるためにも、国際社会がこの基本方針を評価・支援することを期待する。既に国連総会で駐国連ミャンマー大使は、CRPHへの賛同を表明した。今後、国軍から新たに別の大使が派遣されれば、総会で多数決によって代表権を争うことになる。この決議の際に各国が国軍を選ぶのか、CRPHを選ぶのか、試されることになる。

国軍にとっての中国とロシア

ーー国軍への制裁をめぐる国連安保理の協議は、中国とロシアなどの反対でまとまらなかった。中国やロシアについて、国軍はどう捉えているとみるか。また国民の感情はどうか。

根本教授:
国軍はできれば自分たちに味方してほしいとは思っているだろう。ミャンマーの国軍記念日式典に、代表者を派遣した8カ国にはロシア、中国が含まれている。8カ国は中露のほかASEAN3カ国(タイ、ベトナム、ラオス)、インド、バングラデシュ、パキスタン。中国など7カ国は駐ミャンマーの武官を出席させたが、ロシアだけはモスクワから国防次官を出席させた。この事実によってロシアが他国と比べて、積極的であることはうかがえる。ロシアとは国境を接していないため、ミャンマー国軍としては地政学的に交流することに安心感がある。対して、中国とは国境を長く接していて、警戒心をもった関係性だ。

国民の間ではクーデター以降、反中意識が高まっている。ロシアは旧ソ連時代、独立して間もないビルマ連邦に対して、多大なインフラ支援を実施していた。当時のビルマ連邦は東西のどちらにも与さない姿勢だったので、特段ソ連にべったりというわけではなかったが。またロシアにとって国軍は、武器の販売相手でもあり続けてきた。ミャンマー国軍のすべての武器がロシアからの購入品というわけではなく、中国やインドからも購入しているが、ロシアとしては、国軍側につくことによって一層良い取引先となることや、外交上の味方になってもらうことを期待している可能性はある。

日本への親近感が「失望」へ?

ーー国軍最高司令官は、日本に何度も来ている。日本として今できることは何とみるか。

根本教授:
アメリカと違い、日本にはミン・アウン・フライン国軍司令官と会える関係性があるが、要求したことに応じてもらえる関係性ではないとみている。この状況を鑑みて日本政府は、ODAをはじめとした援助を縮小して、国軍に本気度を伝えるべきではないか。援助を縮小すれば、中国の存在感がミャンマー国内で高まってしまうという「中国ファクター」を盾にして何も手を打たないと、ミャンマー国民は、日本に抱いている親近感を、失望に変えるだろう。

2017年8月4日訪日したミン・アウン・フライン国軍司令官が安部首相(当時)を表敬訪問(総理官邸HPより)

「国軍の言うことだけを聞け」という哲学

ーー軍の主張について聞く。国軍は2011年の民政移管以来、「規律ある民主主義」の重要性を強調してきたが、彼らの論理について解説してほしい。

根本教授:
国軍の(行動の)背景には、議会制民主主義への不信感がある。政党は党利党略に走りやすい、国民をだます、国が間違った方向にいくことが多いので、常に軍が監視します、と。それが軍の基本姿勢。興味深い国軍のスローガンを紹介したい。軍政期にこんな主張をしていた。「国軍だけが母。国軍だけが父。周りの言うことを聞くな。国軍の言うことだけを聞け」これが彼らの哲学の基本だと私は見なしている。

すなわち国軍だけが国家を正しい方向に導ける、アウン・サン・スー・チーとNLDは誤った方向に導いている、と。彼らは「規律ある民主主義」と言うが、その中身は軍の言うことを聞く国民を前提としている。

市民の流血が止められない泥沼状態が続くミャンマー

ーー国軍によるクーデターは歴史上3度目となるが、歴史を踏まえて、国軍は抵抗する国民に対しどういう対応をとるとみているか。

根本教授:
1962年と1988年と2021年の3度、クーデターが起きている。今もそうだが、不服従運動を続ける限り、国民は日々、銃弾の飛ぶ中で生活することが続く。軍政国家は世界中に他にもあるが、多くの国では政府に入った軍人は制服を脱いで支持基盤を作ろうとする。

しかしミャンマーの軍政では、政府に入った軍人たちは軍服を脱がない。政治家になっていない軍人たちによる、命令と強制に基づく軍政。これこそがミャンマーの特異的な軍政だ。

今後の経済政策

ーー民政移管後、ミャンマーは経済成長を実現してきたが、今後、国軍はどう経済政策を進めていくと思われるか。

根本教授:
ミャンマーは、1962年から49年間、軍が政権を握る事態が続いた。民主主義は否定され、独裁体制が続き経済も停滞した。それが、2011年の民政移管から始まり、ここ10年間は色々あったが順調に経済改革が進んだ。その結果としてコロナ渦を除き、ここ5~6年間の平均値としては年6パーセント程度の経済成長を実現してきた。

合理的な考え方ができない国軍はクーデターによって、これまでの経済成長に陰りが出ることをわかっていない。現在、国軍は経済改革を進めることができたテインセイン大統領時代の経済政策担当者を政府に再登用したが、クーデターによる影響を鑑みると相当厳しいだろう。

ーー国軍優位の憲法下では、国家顧問であっても、国軍に介入できないが、国軍の資金源は何なのか。

根本教授:
ミャンマー国軍は国防省国防調達局という部局が、2つの非常に大きな持ち株会社を持っている。この持ち株会社2つの傘下に百五十数社のミャンマー企業があり、それらの企業の多くが、優良外資企業と合弁を組んでいる。百五十数社の業態としては、企業として思いつくものすべてだと思ってもらっていい。消費財から重工業、銀行、マスコミ、海運業・・・。

ミャンマーは1948年に独立して以降すぐに内戦状態となり、国軍は武器調達のため、経済的安定のため、「国防協会」という団体を作ったのだが、これが2つの持ち株会社の元となった。1962年~88年に社会主義国家だった時代、「国防協会」の企業は国営化した。その後の軍事政権下で資本主義国家となった際に2つの持ち株会社が作られ、1990年代、優良企業のみその傘下に入った。

この分野にはアウン・サン・スー・チーも介入できなかったし、憲法上、軍の独占範囲で株の配当金などがすべて国防省国防調達局と国軍幹部個人に入る。これが非公開かつ非課税で、ブラックボックスとなっている。これがある限り、国軍に自分たちの利権は大丈夫だという考えはあるかもしれない。ミャンマーの最近の年間国防費は2500億円だが、2つの持ち株会社によってもたらされる富はこれを上回る規模だと国際人権団体の報告書に発表されている。

今後、クーデター後の混乱を受けて、合弁は解消されるので株主の配当金は減る可能性も大きい。アメリカは、すでにこの2つの企業の傘下にある百五十数社が、自国企業と取引することを禁じた。日本では、政府として、そのような動きは今のところなく、各民間企業に任せている状況だ。

拘束されたままのアウン・サン・スー・チー氏

心を痛める在日ミャンマー人たち

日本には、3万2049人(2019年12月末現在、外国人登録者数)のミャンマー人が暮らしており、母国の惨状に心を痛めている。2021年2月4日、会見した在日ミャンマー人の看護士レレルィンさん(30)は、外務省前で大勢の人々が抗議の声をあげたことについて「コロナ渦なのに本当に申し訳ない。だが、ミャンマー国内では声をあげることもできない。」と理解を訴えた。さらに母国の十分ではない医療体制に触れて、「日本で学んだことを母国に帰って伝えようと思っていたのに、今の状況では叶わない。軍事政権下では次の世代の夢も叶えられない。」と声を震わせた。

外務省前でデモを行う在日ミャンマー人ら(2021年2月3日)
ミャンマー大使館前でも大規模なデモが行われた(2月7日)

20年近く日本で暮らすミンスイさんは、「無差別に殺害されているミャンマーの人々に支援の手を差し向けてほしい。現地の情勢は“平和”からほど遠い。また、日本のODA資金が国軍側に流れてしまっているのは大変な問題だ。ミャンマーにある日本企業の経済活動もそう。現状を踏まえて、日本企業の撤退も検討してほしい」と語った。

ミンスイさん 1960年10月20日ヤンゴン生まれ。9日間貨物船に潜み、2002年12月21日九州地方の港に密航した。その後、2006年に特別在留資格を得る。現在は永住権を持ち在日ミャンマーの人たちの労働問題を扱っている。

ミンスイさんはNLDが創設した新組織「連邦議会代表委員会(CRPH)」を支持し、3月末に「Pyidaungsu Hluttaw(CRPH)連邦議会代表委員会支援グループ(日本)」を仲間と共に設立し、共同代表として活動している。

【根本教授プロフィール】
根本敬 上智大学総合グローバル学部教授(ビルマ近現代史)1957年7月28日生まれ。1962年~1964年(5~7歳)、家族の仕事の関係でミャンマーに暮らす。1985年~1987年、国費留学生としてヤンゴンで学ぶ。ミャンマー研究をはじめて40数年。主著:「物語 ビルマの歴史―王朝時代から現代まで」中公新書

取材・撮影日:2021年4月6日(上智大学にて)

(関連記事:【解説】ミャンマーで無血クーデターが起きた本当の理由

【執筆:フジテレビ 国際取材部 百武弘一朗】
【図解イラスト:さいとうひさし】