「売れたのは10年間で300缶…」
在庫が増え、廃棄前に全色を見せようと最後の嘆きをTwitterで投稿したところ、起死回生の一発逆転劇。そんなTwitterの拡散力で救われた商品がある。
その商品は、創業115年の菓子・乾物などを入れる缶を製造する製缶メーカー・側島製罐株式会社(愛知・大治町)の自社企画製品「Candy缶」。
缶の製造は最低でも3000缶と大ロットで、同社は企業を取引先に完全下請けとして製造していた。しかし、約10年前に小ロットの需要に対応するために誕生させたのがこの「Candy缶」だ。
鉄の薄板(0.22ミリ前後)に錫でコーティングしたブリキの板で作られており、発売当初は正方形のスクエア缶、長方形のワーク缶、丸形のラウンド缶、円筒のファット缶、トール缶など多様な形状・サイズと、16色以上のカラーバリエーションを展開していた。
廃棄前のツイートに反響
カラフルでよさそうな商品だが、残念なことに、菓子のサイズにピッタリという事で需要にマッチした、スクエア缶(縦12.2×横12.2×高さ4.3センチ)とラウンド缶(直径8.2×高さ2.6センチ)以外は、約10年ほとんど売れなかったのだそう。少ないものは10年で100缶ほどという結果。
大手の雑貨店に商品を置いてもらったりもしたが、空洞の缶はスペースを取るため、すぐに棚から外されてしまい、リピート購入も少なく、単発での購入が精いっぱいだったという。自社企画の製品のため、在庫は会社で持たなければならず、その大量の在庫が倉庫のスペースを圧迫していた。
「もうどうしようもないかな」と断捨離するタイミングで廃棄を決意。昨年11月に、その作業の際に最後の嘆きとしてTwitterに商品画像と共に投稿したところ、注目が集まったのだ。
あの…弊社のオリジナル商品…
— 石川貴也 / 側島製罐(株) (@LWITBR1906) November 30, 2020
見た目結構華やかじゃないですか…
なんとなく売れそうな感じするじゃないですか…
10年間で300缶しか売れなかったです… pic.twitter.com/eUvptIdBeR
あの…弊社のオリジナル商品…
見た目結構華やかじゃないですか…
なんとなく売れそうな感じするじゃないですか…
10年間で300缶しか売れなかったです…
机の上に並べられているのは13個の円筒の缶。柄のない単色だが、色は赤や黄などと異なっており、並べてみると彩り豊かでとても映えている。
これは10年前の発売当時に製造された「トール缶」で、悲しいことに10年で300個しか売れず、更に大きいサイズの「ファット缶」は10年で100缶しか売れなかったのだそう。
するとこのカラフルな見た目が多くの人の目を引いたのか、投稿後、会社には喜びの変化が起きたのだ。
まずは「小売り販売してほしい」といった直接の購入を求める声が多く届いた。加えて、アニメイトを始めとした、これまでとは全く別の業界から声掛けしてもらう機会が増え、新たな販売ルートが開けることになったという。
側島製罐は小売販売の希望を受け、2021年1月に通販での小売りを開始。ただ、ツイートしたトール缶とファット缶は在庫の経年劣化や新たに量産するのが難しいという事情もあって、通販は「ワーク缶(縦31.3×横23.2×高さ5.3センチ)」「スクエア缶」「ラウンド缶」の3種類に絞った。
そして商品を手に取った客からの声を直接聞けるようになったことで、社員たちも仕事の価値を改めて認識し、そのことがやりがいに繋がり、会社の雰囲気も大きく変わったという。
売り上げも、10年間で300缶ほどしか売れなかったというA4サイズの紙がすっぽり入る「ワーク缶」がこの1年で一番伸びたそうで、300缶ほど売れたとのことだ。
新たな使い方「推し活」で注目
嘆きのツイートをきっかけに、大きく変化することになったCandy缶。アニメイトから声がけがあったということだが、どういった部分が注目されたのだろうか?また、この変化を会社側はどのように思っているのだろうか?
ツイートの投稿者で、側島製罐株式会社の“6代目予定アトツギ”である石川貴也さんに話を聞いた。
ーーなぜ廃棄前に、嘆きの投稿をしたの?
廃棄作業を始めたときに缶を並べてみたら「とてもカラフルでステキだな」と改めて思い、最後にTwitterに「全然売れませんでした~残念。」的な投稿をしようと思っていました。せっかく可愛いのに捨てるのが忍びない…という思いです。
もともとBtoBでは、私たちのtoBのお客様にはカラフルなラインナップをお見せできていたのですが、エンドユーザーの方に届くところには一色しかお見せできていないということも、少しモヤモヤしていて、そこで「最後にフルカラーでお見せしてみようかな」と思って写真を投稿した次第です。
ーー新たな販売ルートが開け、通販での小売りを開始。こういった変化をどう思う?
こうして自社商品に対してお褒めのお言葉をいただく機会というのは多くなかったので、大変嬉しく感じておりました。
弊社の社員も、最初は通販小売りに対して半信半疑のような眼を向けているきらいもありましたが、実際に商品が売れてお客様の声が届くことが多くなるにしたがって、みんな喜んでいるようでした。特に最近は、その影響でメディアにも出させていただく機会も増え、家族や友人から認知されることも増えて、大変喜んでいる状況です。
ーー「Candy缶」のどういった部分が注目された?
“無地のカラフルな缶“というのがありそうでなかったのだと思います。特に、最近はアイドルやアニメのキャラクターなどを”推す“という文化があるのですが、各人各キャラにテーマカラーが備わっていまして、その色に合わせて缶を買いたい、という需要が多いです。
ーー1番人気の形状は?
人気の缶の形状は、A4サイズの紙がすっぽり入るワーク缶です。
推し活で収集するクリアファイル、フライヤー、缶バッジ、シールなどはこれまで段ボールや引き出しなどに雑に収納されることが多く、大事なグッズが傷んでしまうというモヤモヤがあったそうなのですが、それを専用の、推しカラーの缶に入れて保存するということで大事なグッズを守ることができる(しかも複数推しがいる場合でも缶の色で一目でどこに何が入ってるかわかる)ということだそうです。
「ワーク缶」のもともとのターゲットは紙や文房具でした
ーー購入した人たちからはどういった声が届いているの?
皆様、大事なグッズを缶に入れてくださり、写真付きでSNSに投稿してくださったりしています。缶かんの感触もよい、こういうのありそうでなかった、など、ご好評いただいております!
ーー需要の多い「推し活」に使用されることに対してはどう思う?
「推し活」という言葉すら知りませんでしたが、僕自身昔からネット民なので、オタク民の気持ちは割と理解できる方だと思っていて、あーなるほど、そうなんだ~へー、という感じですぐ腹落ちしました。
なので、たとえば缶のフタと胴体の色を変えてキャラの攻め受けみたいなのを表現して収納したい、みたいなニーズも理解できました。ちなみに、もともとのターゲットは「ワーク缶」の名前の通り、紙や文房具でした。
ーー改めて、缶の魅力を教えて。
缶は保存性に長けており、防湿・防塵・遮光など中身を守ることができるのが一番の魅力だと思っています。更に言うと、そんな保存に長けた缶だからこそ、人は缶の中に想いを詰めると考えています。思い出の品だったり、大事な商品だったり、入れるものは様々ですが、そこには人の想いが必ず存在していて、そんな想いを守り、人から人へ繋ぎ、未来まで続けていけるのがその真価の一つではないかと思います。
最後に石川さんは、「これまでの用途に限らない製品の開発や、自社企画の商品の展開、更には別事業への挑戦を考えています」と、会社の今後の展開も話してくれた。
なお、このCandy缶は現在、側島製罐の通販サイトやアニメイトの通販サイトで購入できる。
ワーク缶(税込み1650円)、スクエア缶(同1100円)は22色あり、ラウンド缶(同737円)が15色展開している。他にも海鮮の蒸し焼きができる「ガンガン焼き専用缶」や、思い出の品を大事にとっておける「タイムカプセル缶」など、ちょっと面白い使い方の缶も販売されている。
嘆きのツイートがきっかけで、作り手側が予想していないところにあった需要を結びつけた。
保存性も長けているとのことなのでCandy缶に大事なお気に入りグッズをしまっておきたいと思った人はぜひ検討してみてはいかがだろうか。