歴史ある英彦山神宮。しかし、度重なる自然災害で貴重な建物である山頂の本殿が倒壊の危機を迎えている。
江戸時代そのままの姿を次の世代に残せるのか、支援の呼びかけが続いている。
“神の山”として信仰を集めてきた英彦山
福岡県の南東部に位置する添田町と、大分・中津市にまたがる標高約1,200メートルの山・英彦山(ひこさん)。その頂に鎮座するのが「英彦山神宮」の社殿だ。
英彦山は、古くから神の山として信仰を集めてきた。修験道の道場がその興りで、天照大神の子を祭神としている。
しかし今、そんな英彦山神宮の象徴となってきた建物が危機に直面している。
宮司の高千穂秀敏さん。高千穂家は代々、歴史ある英彦山神宮を守ってきた。
現在71歳だという高千穂宮司に、危機にひんした建物が建つ英彦山の山頂に案内してもらった。
ーー登るのは何回目くらい？
英彦山神宮・高千穂秀敏宮司：
数えたことはないです！ 20代から登りよるから、分からないです
山全体が神とされ、山伏たちの修行の場となってきた英彦山。天狗伝説も残る山の頂へと続く道は、しばしば険しい様相を見せる。
登ること約2時間半―。
ーー見えましたね
英彦山神宮・高千穂秀敏宮司：
着きました
ーーこれが上宮ですか
英彦山神宮・高千穂秀敏宮司：
上宮です。お疲れさまでした
台風や大雨で…“象徴”が倒壊の危機
標高1,199メートルの山頂に建つ「上宮」。英彦山神宮の本殿にあたる建物で、霊験あらたかな神の山の象徴として、最も神聖な場所とされているのだが…
英彦山神宮・高千穂秀敏宮司：
これは、一昨年の台風かなにかで、全部吹っ飛んでしまって…
ーー壁が大きく剥がれていますね
英彦山神宮・高千穂秀敏宮司：
そこは窓があったんですけど、吹っ飛んで…
現在の上宮は、約200年前の江戸後期に建てられ、昭和の初期に大がかりな修理が行われている。
しかし、標高1,200メートルの山頂で幾度となく台風や大雨にさらされて、屋根や壁には穴が開き、基礎部分の土砂が流されて建物自体が傾いている。
倒壊の恐れがあり、2021年3月から立ち入り禁止の状態だ。
建物の中を特別に見せてもらった。
ーーきょうの状況は？
英彦山神宮・高千穂秀敏宮司：
またひどくなっている。風が吹くたび、どこかが傷んできて、落ちてきているという状況です
台風や大雨にこれ以上見舞われないよう、祈るしかないのが現状だ。
英彦山神宮・高千穂秀敏宮司：
今年は（天候に）おとなしくしとってほしいなと。この次（台風が）来たときは倒壊ですね、大きいのが来れば。覚悟しとかないかんと思ってます。涙が出そうですよ、これを見ると
立ちはだかる難題…修復費用は約7億円！
大きく傷んだ上宮は、今すぐにでも大規模な修理が必要だが、建っている場所が場所なだけに大きな問題がある。
英彦山神宮・高千穂秀敏宮司：
運搬ですよ。この建物を建て替えるよりも修復するよりも、資材を運ぶ方が、お金がかかる。「山頂での難問」ですね
車が通れる道もない中、修復は簡単ではない。
ほかに手段がなかった当時は、人々が資材を抱えて山頂に運んだと伝えられているが、現実には大量の資材を運搬するためにヘリコプターの使用が不可欠なのだ。
修復費用を見積もったところ、その額は約7億円！ 国指定の史跡のため、半分は国や県による助成を受けられるが、残る半分は自前で工面しなければならない。
神宮だけではとてもまかなえないため、高千穂宮司が始めたのが、一般から「寄付」を募ることだった。
参拝者：
寄付をすると、思い入れができるのかも分からないね。お手伝いできたら、結果も見たいし
参拝者：
やっと山頂に着いて、「ありがとうございます」っていう感謝の思いでいつも登ってるから、あれを見る度に余計（悲しくなる）。ちゃんとお礼とか言えるように、昔のような建物になってほしいです
2019年に呼びかけを始めてから、これまでに約1億円の寄付金が集まったが、修復実現への道のりは、まだまだ遠いのが現状だ。
2021年も台風のシーズンを迎え、毎日不安はつきないが、一歩一歩、歩みを進めるしかない。
英彦山神宮・高千穂秀敏宮司：
必ずやり遂げないかんという言葉だけですね。修復に向けては、やり遂げるんだと、それ以外は何もないです。是が非でも新しい上宮を見てみたい、修復した上宮を見たいという気持ちでいっぱいです
多くの信仰を集めてきた神の山の象徴をこの先も守り伝えていくために…
英彦山神宮は、支援の呼びかけを続けている。
（テレビ西日本）
